悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

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103 ややこしい

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 そうして比較的平和な日常を送っていたぼくであったが、なんだか面倒なことになりそうな気配を察知した。

「絶対に正体を突き止めた方がいいと思いますよ!」
「ノエルお兄さん。落ち着いてください」
「落ち着いていられますか! これは僕の名誉にも関わる問題ですから」
「うーむ」

 いつものようにノエルと遊んでいた時のことである。庭で虫さんを探して、ついでにきらきらの石も探してと。普段と何ら変わりのない日常を送っていたのに、ノエルが突然立ち上がった。

「僕のそっくりさんを捕まえましょう!」
「なぜ」

 急にどうした。
 何の前触れもない宣言に、ぼくとロルフは思わず顔を見合わせた。彼の中で一体どういう思考が繰り広げられたのだろうか。唐突すぎてびっくりだよ。

 思わず「びっくりしましたぁ」と控えめに抗議すれば、ロルフもこくこく頷いて同意してくれた。

 だが、ノエルは止まらない。ぼくの抗議をまるっと無視して拳を握っている。

「アル様が言っていた僕の偽物。本当の話であれば放っておくわけにはいきません」

 そうだね。自分の偽物が他家に出入りしているなんて尋常ではない。どうにかしたいと思うのが自然な流れだろう。

 でも何で急に?

 いままで普通に遊んでいたのに。
 きらきらの石を拾う拾わないでちょっぴり言い争っていたのに。

 ノエルはこういう面倒なところがある。突発的な行動が少々目立つのだ。さすがはトラブルメーカー。ずっと隣にいるのに彼の行動が予測できない。

「ノエルお兄さん。今はぼくと遊んでください」
「そうしたいのは山々ですが。僕にとっては大事なことなんですよ」

 ちょっぴり眉尻を下げて悲しい表情を作るノエル。ぱんぱんと手を払った彼は、「作戦を考えないといけませんね」と腰に手を当てた。

「アル様も考えてください」
「なんで?」

 え? もしかしてその作戦とやらにぼくも巻き込まれている?

 呆然とするぼくは、ロルフに助けを求めてみる。だが、ロルフは困ったように首を捻るだけであんまり助けてくれない。

 どうにかノエルを止めないと。
 正直、ノアの件はノエルの耳に入れたくはない。なんかすごい騒動になりそうだから。教えるとしても、色々と考えてからだ。ノアの気持ちの問題もある。

 だが、ノエルはぼくのそんな事情にはお構いなしだ。庭遊びをやめて屋敷に戻ろうとしてしまう。ノエルを放置しておくと余計なトラブルを起こしそう。仕方なく、ぼくも後を追った。

「ノエルお兄さん。あんまり気にしない方がいいと思います」
「ダメですよ。こういうことはきっちりしておかないと。僕に変な噂が出回っても困りますからね」
「なるほどぉ」

 確かに。ノエルとしても彼の知らぬところでノアに色々されるのは困るだろう。ついついノアに寄り添ってしまっていたが、これはノエルにとっても深刻な問題だ。そもそもノアは、ノエルになりすましてぼくに意地悪しようと目論んでいた。

 ぼくがノエルとノアが別人だって気がついたからよかったものの。そうでなければノエルにとんだ被害が生じるところであった。思い返せば、ぼくは当初ノアとノエルが別人だとは気が付かずに、ノエルに勢いよく文句を言った。泥団子まで投げつけてしまった。覚えのないことで文句を言われるノエルは大変なんてものじゃない。

 もしかして、他のところでもノアは似たようなことをやっているのだろうか。ぼく相手だけなら、ぼくは事情を知っているから問題はない。ぼくが黙っておけばいいだけの話。だが、他所でもやっているとなれば話は変わってくる。それこそノエルの名誉に関わる話になってくる。

 これは一度ノアとお話し合いをしておかないと。

 偽物を捕まえようと張り切るノエルの背中を見遣って、ぼくはぎゅっと眉間に皺を寄せた。
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