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102 内緒でお願い
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ぼくのお話を聞いてくれたシャルお兄さんは、ガシガシと乱暴な動作で自身の頭を掻くと「仕事やめてぇ」と唐突に呟いた。
可哀想なシャルお兄さん。騎士団のお仕事が大変で嫌になっているらしい。
「なんとなく避けられている実感はありました。まさか顔が原因だったとは」
どうすればいいんだよ、と頭を抱えるシャルお兄さんの言っていることはいまいち理解できない。ぼくには難しい話だ。とりあえず空気を読んでふむふむ頷いておく。
「顔が怖いって、ちょ、おもしろ」
くすくす笑うロルフに「やめなさい」と注意するが、「面白すぎて無理」と膝から崩れ落ちてしまった。そのまま地面に両手をついて肩を震わせるロルフはなんかもう色々と手遅れだと思う。
ひとまずこの状況をガストン団長に目撃されないことを祈るばかりだ。団長の顔が怖いというお母様の意見には、実はぼくもこっそり賛成。ぼく五歳だから。あの上背で見下ろされるとちょっぴり怖い。
「今のお話、ガストン団長には内緒にしてください」
ぼくとお母様が団長の悪口言ったことはくれぐれも秘密でお願いしますとシャルお兄さんに頼んでみるが、これにロルフがますます笑った。
シャルお兄さんも複雑な様子で「内緒に、えっと。そうですね。努力します」と曖昧な返答。努力するんじゃなくて。ちゃんと内緒にしてほしい。
「あの私は仕事に戻らないといけないので」
「はぁい。ぼくもお兄さんを応援してます。がんばって」
すごく早口で頭を下げるシャルお兄さんは、逃げるように走って行ってしまった。そんなに休憩時間ギリギリだったのだろうか。もう少し余裕を持って行動すればいいと思うよ。ぼくなんて毎日おやつの時間に間に合うようにと朝からずっとロルフに「おやつまだ?」と確認している。ぼくはしっかり者なので。おかげでおやつを忘れたことはない。
「シャルお兄さん。お仕事大変そう」
「そ、そうですね。仕事というか、なんというか」
息を整えるロルフは、「あー、笑った」と楽しそうにしている。正直、なにがそんなに楽しいのかわからない。
「なにが面白いの?」
不思議に思って尋ねれば、ロルフは「だってアル様が団長に直接顔が怖いとか言うから」と意味不明なことを言う。
ぼくはシャルお兄さんと会話したのだ。いまだにシャルお兄さんのことをガストン団長だと思っているらしいロルフは、ひとりで勝手に面白がって笑っている。ぼくには理解できない面白さだ。
「あんまり笑ったらダメだよ。団長に失礼だよ」
とりあえず注意しておけば、ロルフは「はいはい。わかってますよ」とやる気のない頷きを返してきた。
本当にわかっているのだろうか。心配。
そうしてちらちらとロルフを気にしながら散歩を続ける。途中でよさそうな石を拾ってポケットに押し込む。「汚れます」とロルフが止めにくるけど、ぼくはがんばった。がんばって石を守っては、また新しい石を拾う。
「何に使うんですか? 石なんて」
「お喋りする鳥さんのおうちに置いてあげます」
「……」
お母様が鳥籠も用意してくれると言っていた。ライアンがいつ鳥さんを持ってきてもいいように今から準備しておこうと思う。
「枝と葉っぱも入れます」
「もうちょっと綺麗にした方が鳥も喜ぶんじゃないですか?」
「そうなの?」
「いえ、俺もよくわかりませんけど」
鳥飼ったことないんでと首を捻るロルフと一緒に、どういう鳥籠にしたらいいのか考えた。
可哀想なシャルお兄さん。騎士団のお仕事が大変で嫌になっているらしい。
「なんとなく避けられている実感はありました。まさか顔が原因だったとは」
どうすればいいんだよ、と頭を抱えるシャルお兄さんの言っていることはいまいち理解できない。ぼくには難しい話だ。とりあえず空気を読んでふむふむ頷いておく。
「顔が怖いって、ちょ、おもしろ」
くすくす笑うロルフに「やめなさい」と注意するが、「面白すぎて無理」と膝から崩れ落ちてしまった。そのまま地面に両手をついて肩を震わせるロルフはなんかもう色々と手遅れだと思う。
ひとまずこの状況をガストン団長に目撃されないことを祈るばかりだ。団長の顔が怖いというお母様の意見には、実はぼくもこっそり賛成。ぼく五歳だから。あの上背で見下ろされるとちょっぴり怖い。
「今のお話、ガストン団長には内緒にしてください」
ぼくとお母様が団長の悪口言ったことはくれぐれも秘密でお願いしますとシャルお兄さんに頼んでみるが、これにロルフがますます笑った。
シャルお兄さんも複雑な様子で「内緒に、えっと。そうですね。努力します」と曖昧な返答。努力するんじゃなくて。ちゃんと内緒にしてほしい。
「あの私は仕事に戻らないといけないので」
「はぁい。ぼくもお兄さんを応援してます。がんばって」
すごく早口で頭を下げるシャルお兄さんは、逃げるように走って行ってしまった。そんなに休憩時間ギリギリだったのだろうか。もう少し余裕を持って行動すればいいと思うよ。ぼくなんて毎日おやつの時間に間に合うようにと朝からずっとロルフに「おやつまだ?」と確認している。ぼくはしっかり者なので。おかげでおやつを忘れたことはない。
「シャルお兄さん。お仕事大変そう」
「そ、そうですね。仕事というか、なんというか」
息を整えるロルフは、「あー、笑った」と楽しそうにしている。正直、なにがそんなに楽しいのかわからない。
「なにが面白いの?」
不思議に思って尋ねれば、ロルフは「だってアル様が団長に直接顔が怖いとか言うから」と意味不明なことを言う。
ぼくはシャルお兄さんと会話したのだ。いまだにシャルお兄さんのことをガストン団長だと思っているらしいロルフは、ひとりで勝手に面白がって笑っている。ぼくには理解できない面白さだ。
「あんまり笑ったらダメだよ。団長に失礼だよ」
とりあえず注意しておけば、ロルフは「はいはい。わかってますよ」とやる気のない頷きを返してきた。
本当にわかっているのだろうか。心配。
そうしてちらちらとロルフを気にしながら散歩を続ける。途中でよさそうな石を拾ってポケットに押し込む。「汚れます」とロルフが止めにくるけど、ぼくはがんばった。がんばって石を守っては、また新しい石を拾う。
「何に使うんですか? 石なんて」
「お喋りする鳥さんのおうちに置いてあげます」
「……」
お母様が鳥籠も用意してくれると言っていた。ライアンがいつ鳥さんを持ってきてもいいように今から準備しておこうと思う。
「枝と葉っぱも入れます」
「もうちょっと綺麗にした方が鳥も喜ぶんじゃないですか?」
「そうなの?」
「いえ、俺もよくわかりませんけど」
鳥飼ったことないんでと首を捻るロルフと一緒に、どういう鳥籠にしたらいいのか考えた。
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