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97 作戦失敗
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「ぼく、本当はでっかい鳥さんがほしかったです。でもお兄様が無理って言うから。ぼくいい子なので。お喋りする鳥さんでもいいよって言いました。そしたらお兄様がお喋りする鳥さんも無理って言いました。ぼくはすごく悲しかったです。しょんぼりしてます。ぼくのお話終わりです」
「あらまあ」
目を丸くしたお母様は、「アルは優しいのね」とぼくのことを抱きしめた。そう。ぼくは優しい。
リオラお兄様に無理を言わないように気をつけている。五歳とは思えない物分かりの良さである。ぼくは前世の記憶がある大人なので。
えっへんと胸を張れば、お母様はますます楽しそうに両手を合わせた。「アルは可愛いわね」「お利口さんね」と大絶賛である。
リオラお兄様が鳥さん用意できないと酷いことを言ったのが夕食の時のこと。本当は嫌だと騒いでやりたかったのだが、お兄様は繊細なので。あまり無理を押し通せば諸々が嫌になったお兄様は自滅してしまうかもしれない。
原作小説においても、ライアンに振られたことがショックで破滅への道を辿ったのだ。この世界においても、些細なことが原因で破滅への道を駆け抜けてもおかしくはない。ぼくはそれに巻き込まれるのなんてごめんである。
だが、鳥さんはどうしてもほしかった。
鳥さんのために自室の棚を片付けて鳥籠をおくスペースまで確保していた。すっかり鳥さんをペットにできる気分でいたぼくは、そう簡単に頭を切り替えることはできなかったのだ。
そこでぼくが頼ったのがお母様である。
お母様は優しい。ぼくの話はうんうん頷きながら聞いてくれるし、いつもにこにこしている。そんなお母様であれば、どうにかしてくれるかもしれない。お父様に頼んでもよかったのだが、お父様はお仕事が忙しい。
それに優しいお母様は、ぼくが鳥さんほしいと言えば笑顔で「鳥さん? あら可愛いわね」と二つ返事で賛成してくれると思う。一方のお父様は「鳥を飼うの? どうして? 世話はどうするんだい」と色々面倒なことを訊いてくる気がする。
ということで。
寝る前にお母様の部屋にお邪魔してみた。いかにぼくがリオラお兄様のせいで悲しい思いをしているのか力説すれば、お母様は目を細めて「アルは可愛いわね」と繰り返す。
ぼくの可愛さはどうでもいい。いや、可愛いと言われて嫌な気分にはならないけどさ。今はぼくの可愛さよりも鳥さんが大事。
しかし鳥さんほしいと言い出す前に、お母様は目を潤ませて「なんて優しい子なのかしら。リオラのことを考えて、欲しい物を諦めるなんて」と感動し始めた。これはまずい。やっぱりどうしても鳥さんほしいです、どうにかしてくださいとは言い出せない空気だ。
「あ、えっと。リオラお兄様大変だから、ぼく我慢しました」
「まあ」
「ぼく、偉いです」
「えぇ。とっても偉いわ」
結局、お母様に話を合わせることしかできない。
大袈裟にぼくを褒めるお母様は、「アルは良い子ね」とハンカチでそっと目尻を押さえている。
「こんなに優しい子。本当にどうしたらこんなに良い子に育つのかしらね」
こんなに素敵な子が私の息子だなんて、と。わずかに頰を赤くして喜ぶお母様を前に、ぼくは「はーい」とお返事することしかできない。
この流れで鳥さんほしいって、言ってもいいのかな?
言わない方がいいのかな?
ちょっと作戦が失敗したかもしれない。ひとりで感動するお母様を目にして、ぼくはどうやって鳥さんほしいと伝えようかと頭を悩ませた。お母様の感動に水を差すのはなんだか悪い気がしたのだ。
「あらまあ」
目を丸くしたお母様は、「アルは優しいのね」とぼくのことを抱きしめた。そう。ぼくは優しい。
リオラお兄様に無理を言わないように気をつけている。五歳とは思えない物分かりの良さである。ぼくは前世の記憶がある大人なので。
えっへんと胸を張れば、お母様はますます楽しそうに両手を合わせた。「アルは可愛いわね」「お利口さんね」と大絶賛である。
リオラお兄様が鳥さん用意できないと酷いことを言ったのが夕食の時のこと。本当は嫌だと騒いでやりたかったのだが、お兄様は繊細なので。あまり無理を押し通せば諸々が嫌になったお兄様は自滅してしまうかもしれない。
原作小説においても、ライアンに振られたことがショックで破滅への道を辿ったのだ。この世界においても、些細なことが原因で破滅への道を駆け抜けてもおかしくはない。ぼくはそれに巻き込まれるのなんてごめんである。
だが、鳥さんはどうしてもほしかった。
鳥さんのために自室の棚を片付けて鳥籠をおくスペースまで確保していた。すっかり鳥さんをペットにできる気分でいたぼくは、そう簡単に頭を切り替えることはできなかったのだ。
そこでぼくが頼ったのがお母様である。
お母様は優しい。ぼくの話はうんうん頷きながら聞いてくれるし、いつもにこにこしている。そんなお母様であれば、どうにかしてくれるかもしれない。お父様に頼んでもよかったのだが、お父様はお仕事が忙しい。
それに優しいお母様は、ぼくが鳥さんほしいと言えば笑顔で「鳥さん? あら可愛いわね」と二つ返事で賛成してくれると思う。一方のお父様は「鳥を飼うの? どうして? 世話はどうするんだい」と色々面倒なことを訊いてくる気がする。
ということで。
寝る前にお母様の部屋にお邪魔してみた。いかにぼくがリオラお兄様のせいで悲しい思いをしているのか力説すれば、お母様は目を細めて「アルは可愛いわね」と繰り返す。
ぼくの可愛さはどうでもいい。いや、可愛いと言われて嫌な気分にはならないけどさ。今はぼくの可愛さよりも鳥さんが大事。
しかし鳥さんほしいと言い出す前に、お母様は目を潤ませて「なんて優しい子なのかしら。リオラのことを考えて、欲しい物を諦めるなんて」と感動し始めた。これはまずい。やっぱりどうしても鳥さんほしいです、どうにかしてくださいとは言い出せない空気だ。
「あ、えっと。リオラお兄様大変だから、ぼく我慢しました」
「まあ」
「ぼく、偉いです」
「えぇ。とっても偉いわ」
結局、お母様に話を合わせることしかできない。
大袈裟にぼくを褒めるお母様は、「アルは良い子ね」とハンカチでそっと目尻を押さえている。
「こんなに優しい子。本当にどうしたらこんなに良い子に育つのかしらね」
こんなに素敵な子が私の息子だなんて、と。わずかに頰を赤くして喜ぶお母様を前に、ぼくは「はーい」とお返事することしかできない。
この流れで鳥さんほしいって、言ってもいいのかな?
言わない方がいいのかな?
ちょっと作戦が失敗したかもしれない。ひとりで感動するお母様を目にして、ぼくはどうやって鳥さんほしいと伝えようかと頭を悩ませた。お母様の感動に水を差すのはなんだか悪い気がしたのだ。
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