悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

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 ふたりに囲まれて肩を落としたぼくは、部屋の隅に放置されたままの土を処分することを決意した。

 後回しにすればぼくの気が変わるとでも思ったのか。早速処分しましょうと張り切るノエルに手を引かれて、自室に戻る。ロルフも止めない。彼は内心であの土を邪魔だと思っていたらしい。

 腕まくりして箱を持ち上げるノエルは、「捨てましょう」ときっぱり言い放った。

「ついでに枝も処分しましょう」
「ダメでーす!」

 土はいいけど、枝はダメ。
 慌ててお気に入りの枝を抱えるぼくに、ノエルが「なぜですか」と強気に問いかけてくる。

「これはぼくの大事な物です。これで変な置き物もやっつけました」
「変な置き物?」

 首を捻るノエルに、ハッとする。
 そういえばノエルは、リオラお兄様にもらったあの置き物を庭に埋めて騒動を起こしたことがあった。その置き物は騎士団がぼくの手元に返してくれたので、今もこの部屋にある。

 再びノエルに置き物を見られると「これは良くない物です」とかなんとか。意味不明な主張と共に「処分しましょう」と言われるのが目に見えているので戸棚の奥に隠しておいたのだ。

 ノエルがあの置き物の存在を思い出すのはまずい。また騒ぎになってしまう。

 慌てたぼくは「なんでもないです」と誤魔化しておく。ロルフも「土を! とりあえず土をどうにかしましょう!」と一緒に誤魔化してくれる。

 首を傾げるノエルの背中を押して、再び外に出る。土の入った箱はノエルがしっかり抱えている。

「もう拾ってきたらダメですよ」
「……はーい」

 ざあっと雑に土をこぼすノエルは、お兄さんぶってぼくに優しく言い聞かせてくる。花壇の一角がちょっぴり悲惨な見た目になっているけど、ノエルは気にしない。箱を上下に振って念入りに土を落とすと、空になった箱をさりげなくロルフへと押し付けている。

 ぱんぱんと手を払って、満足そうに頷くノエル。ひと仕事終えたと言わんばかりの表情である。

「さっき拾った石はどうしたんですか?」

 ノエルの言葉に、ポケットを押さえる。
 きらきらの石も捨てろと言われそうな流れだ。それは嫌だ。これはぼくの大事な物なので。部屋に置いてくればよかった。ちょっと後悔していると、ノエルが右手を差し出してきた。石を渡せと言いたいらしい。

「これはぼくの物です。ノエルお兄さんにはあげません。捨てません」

 ふるふると首を左右に振って拒絶しておく。
 だが、ノエルは怪訝な顔をした。

「捨てませんよ。ちょっと貸してください」
「……」

 果たしてノエルの言葉を信じてもいいのか。
 だが、ノエルはおっとりとした見た目に反してはっきりとした性格である。たまに失礼な物言いはするが、嘘は吐かない。

 今だって、土を処分すると決めた彼ははっきりそう言った。枝は大事と説明すれば、処分を諦めてくれた。

 迷った末に、ぼくはきらきらの石をノエルに渡した。遠慮なく石を奪ってきたノエルは、早足に移動すると庭の一角にある小さな池へとおもむろに手を突っ込んだ。

「ノエルお兄さん?」

 一体なにをしているのか。
 ロルフが「危ないですよ」とちょっぴり慌てている。突拍子もない行動をしてみせるノエルは、しばらくバシャバシャと水の中で忙しなく手を動かす。

 ようやく池の中から手を抜いたノエルは、濡れた手中にきらきらの石を握っていた。

「はい、どうぞ」

 どうやら石を洗っていたらしいとわかり、目を瞬く。庭に落ちていた代物である。土が付着しているのが嫌だったのだろう。

 びしょ濡れの石を押し付けられて、仕方なく受け取った。濡れた手をズボンで拭うノエルに、ロルフがあわあわしている。

「ノエルお兄さん。ハンカチどうぞ」

 持っていないようなので、ぼくのを貸してあげる。しかし、ノエルは「ハンカチくらい僕も持ってます」と受け取らない。

 持ってんのかい。じゃあハンカチで拭きなよ。
 
 取り出すのが面倒ですとふざけたこと言うノエルは、さすが十歳という感じである。というか、石を洗ってくれたのは嬉しいけどさ。なんで池の水で洗うのかな。普通に綺麗な水で洗ってくれない?
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