94 / 169
94 処分
しおりを挟む
ふたりに囲まれて肩を落としたぼくは、部屋の隅に放置されたままの土を処分することを決意した。
後回しにすればぼくの気が変わるとでも思ったのか。早速処分しましょうと張り切るノエルに手を引かれて、自室に戻る。ロルフも止めない。彼は内心であの土を邪魔だと思っていたらしい。
腕まくりして箱を持ち上げるノエルは、「捨てましょう」ときっぱり言い放った。
「ついでに枝も処分しましょう」
「ダメでーす!」
土はいいけど、枝はダメ。
慌ててお気に入りの枝を抱えるぼくに、ノエルが「なぜですか」と強気に問いかけてくる。
「これはぼくの大事な物です。これで変な置き物もやっつけました」
「変な置き物?」
首を捻るノエルに、ハッとする。
そういえばノエルは、リオラお兄様にもらったあの置き物を庭に埋めて騒動を起こしたことがあった。その置き物は騎士団がぼくの手元に返してくれたので、今もこの部屋にある。
再びノエルに置き物を見られると「これは良くない物です」とかなんとか。意味不明な主張と共に「処分しましょう」と言われるのが目に見えているので戸棚の奥に隠しておいたのだ。
ノエルがあの置き物の存在を思い出すのはまずい。また騒ぎになってしまう。
慌てたぼくは「なんでもないです」と誤魔化しておく。ロルフも「土を! とりあえず土をどうにかしましょう!」と一緒に誤魔化してくれる。
首を傾げるノエルの背中を押して、再び外に出る。土の入った箱はノエルがしっかり抱えている。
「もう拾ってきたらダメですよ」
「……はーい」
ざあっと雑に土をこぼすノエルは、お兄さんぶってぼくに優しく言い聞かせてくる。花壇の一角がちょっぴり悲惨な見た目になっているけど、ノエルは気にしない。箱を上下に振って念入りに土を落とすと、空になった箱をさりげなくロルフへと押し付けている。
ぱんぱんと手を払って、満足そうに頷くノエル。ひと仕事終えたと言わんばかりの表情である。
「さっき拾った石はどうしたんですか?」
ノエルの言葉に、ポケットを押さえる。
きらきらの石も捨てろと言われそうな流れだ。それは嫌だ。これはぼくの大事な物なので。部屋に置いてくればよかった。ちょっと後悔していると、ノエルが右手を差し出してきた。石を渡せと言いたいらしい。
「これはぼくの物です。ノエルお兄さんにはあげません。捨てません」
ふるふると首を左右に振って拒絶しておく。
だが、ノエルは怪訝な顔をした。
「捨てませんよ。ちょっと貸してください」
「……」
果たしてノエルの言葉を信じてもいいのか。
だが、ノエルはおっとりとした見た目に反してはっきりとした性格である。たまに失礼な物言いはするが、嘘は吐かない。
今だって、土を処分すると決めた彼ははっきりそう言った。枝は大事と説明すれば、処分を諦めてくれた。
迷った末に、ぼくはきらきらの石をノエルに渡した。遠慮なく石を奪ってきたノエルは、早足に移動すると庭の一角にある小さな池へとおもむろに手を突っ込んだ。
「ノエルお兄さん?」
一体なにをしているのか。
ロルフが「危ないですよ」とちょっぴり慌てている。突拍子もない行動をしてみせるノエルは、しばらくバシャバシャと水の中で忙しなく手を動かす。
ようやく池の中から手を抜いたノエルは、濡れた手中にきらきらの石を握っていた。
「はい、どうぞ」
どうやら石を洗っていたらしいとわかり、目を瞬く。庭に落ちていた代物である。土が付着しているのが嫌だったのだろう。
びしょ濡れの石を押し付けられて、仕方なく受け取った。濡れた手をズボンで拭うノエルに、ロルフがあわあわしている。
「ノエルお兄さん。ハンカチどうぞ」
持っていないようなので、ぼくのを貸してあげる。しかし、ノエルは「ハンカチくらい僕も持ってます」と受け取らない。
持ってんのかい。じゃあハンカチで拭きなよ。
取り出すのが面倒ですとふざけたこと言うノエルは、さすが十歳という感じである。というか、石を洗ってくれたのは嬉しいけどさ。なんで池の水で洗うのかな。普通に綺麗な水で洗ってくれない?
後回しにすればぼくの気が変わるとでも思ったのか。早速処分しましょうと張り切るノエルに手を引かれて、自室に戻る。ロルフも止めない。彼は内心であの土を邪魔だと思っていたらしい。
腕まくりして箱を持ち上げるノエルは、「捨てましょう」ときっぱり言い放った。
「ついでに枝も処分しましょう」
「ダメでーす!」
土はいいけど、枝はダメ。
慌ててお気に入りの枝を抱えるぼくに、ノエルが「なぜですか」と強気に問いかけてくる。
「これはぼくの大事な物です。これで変な置き物もやっつけました」
「変な置き物?」
首を捻るノエルに、ハッとする。
そういえばノエルは、リオラお兄様にもらったあの置き物を庭に埋めて騒動を起こしたことがあった。その置き物は騎士団がぼくの手元に返してくれたので、今もこの部屋にある。
再びノエルに置き物を見られると「これは良くない物です」とかなんとか。意味不明な主張と共に「処分しましょう」と言われるのが目に見えているので戸棚の奥に隠しておいたのだ。
ノエルがあの置き物の存在を思い出すのはまずい。また騒ぎになってしまう。
慌てたぼくは「なんでもないです」と誤魔化しておく。ロルフも「土を! とりあえず土をどうにかしましょう!」と一緒に誤魔化してくれる。
首を傾げるノエルの背中を押して、再び外に出る。土の入った箱はノエルがしっかり抱えている。
「もう拾ってきたらダメですよ」
「……はーい」
ざあっと雑に土をこぼすノエルは、お兄さんぶってぼくに優しく言い聞かせてくる。花壇の一角がちょっぴり悲惨な見た目になっているけど、ノエルは気にしない。箱を上下に振って念入りに土を落とすと、空になった箱をさりげなくロルフへと押し付けている。
ぱんぱんと手を払って、満足そうに頷くノエル。ひと仕事終えたと言わんばかりの表情である。
「さっき拾った石はどうしたんですか?」
ノエルの言葉に、ポケットを押さえる。
きらきらの石も捨てろと言われそうな流れだ。それは嫌だ。これはぼくの大事な物なので。部屋に置いてくればよかった。ちょっと後悔していると、ノエルが右手を差し出してきた。石を渡せと言いたいらしい。
「これはぼくの物です。ノエルお兄さんにはあげません。捨てません」
ふるふると首を左右に振って拒絶しておく。
だが、ノエルは怪訝な顔をした。
「捨てませんよ。ちょっと貸してください」
「……」
果たしてノエルの言葉を信じてもいいのか。
だが、ノエルはおっとりとした見た目に反してはっきりとした性格である。たまに失礼な物言いはするが、嘘は吐かない。
今だって、土を処分すると決めた彼ははっきりそう言った。枝は大事と説明すれば、処分を諦めてくれた。
迷った末に、ぼくはきらきらの石をノエルに渡した。遠慮なく石を奪ってきたノエルは、早足に移動すると庭の一角にある小さな池へとおもむろに手を突っ込んだ。
「ノエルお兄さん?」
一体なにをしているのか。
ロルフが「危ないですよ」とちょっぴり慌てている。突拍子もない行動をしてみせるノエルは、しばらくバシャバシャと水の中で忙しなく手を動かす。
ようやく池の中から手を抜いたノエルは、濡れた手中にきらきらの石を握っていた。
「はい、どうぞ」
どうやら石を洗っていたらしいとわかり、目を瞬く。庭に落ちていた代物である。土が付着しているのが嫌だったのだろう。
びしょ濡れの石を押し付けられて、仕方なく受け取った。濡れた手をズボンで拭うノエルに、ロルフがあわあわしている。
「ノエルお兄さん。ハンカチどうぞ」
持っていないようなので、ぼくのを貸してあげる。しかし、ノエルは「ハンカチくらい僕も持ってます」と受け取らない。
持ってんのかい。じゃあハンカチで拭きなよ。
取り出すのが面倒ですとふざけたこと言うノエルは、さすが十歳という感じである。というか、石を洗ってくれたのは嬉しいけどさ。なんで池の水で洗うのかな。普通に綺麗な水で洗ってくれない?
492
お気に入りに追加
2,348
あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)

初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした
わらびもち
恋愛
ガーネット侯爵、エリオットに嫁いだセシリア。
初夜の寝所にて夫が来るのを待つが、いつまで経っても現れない。
無情にも時間だけが過ぎていく中、不意に扉が開かれた。
「初夜に放置されるなんて、哀れな子……」
現れたのは夫ではなく義母だった。
長時間寝所に放置された嫁を嘲笑いに来たであろう義母にセシリアは……

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界で姪が勇者になったけれど、俺はのんびり料理屋を開く
夕日(夕日凪)
ファンタジー
突然姉が亡くなり、その遺児である姪の『椛音』を男手一つで育てていた元料理人の『翔』。
椛音が十六歳になった時。二人は異世界に召喚されて…!?
椛音は勇者として異世界を飛び回ることになり、椛音のおまけとして召喚された翔は憧れていた料理人の夢を異世界で叶えることに。
デスクレイフィッシュ、大猪、オボロアナグマ──。
姪が旅先から持ち込む数々の食材(モンスター)を使った店を、翔は異世界で開店する。
翔の料理を食べると不思議と力が湧くようで、いろいろな人物が店を来訪するように──。
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる