悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
91 / 151

91 余裕たっぷり

しおりを挟む
 その日の夜。
 いつも通りにはちみつたっぷりのミルクを要求したのに、ロルフが持ってきたのははちみつ少なめミルクだった。がっかり。

「ロルフ。いいかげんぼくのはちみつ返して」
「アル様のはちみつじゃないですから」

 はちみつは俺が管理しますと嫌な宣言をするロルフにムスッと頬を膨らませておく。いつからはちみつがロルフの物になったのか。あれはぼくが食べる用のはちみつなのに。

「寝る前に甘い物はダメですよ」
「ダメじゃないもん」
「もん……」
「もう!」

 ぼくを揶揄うように「もん」と繰り返すロルフに拳を握る。ぼくが五歳だからって馬鹿にするんじゃない。

 イライラしたので、ミルクを一気に飲み干しておく。とはいえちょっぴり熱かったので途中で休憩を挟んだけど。勢いだけはバッチリである。

「明日ノエルお兄さん来る?」

 ふと気になって尋ねれば、ロルフが「さぁ?」と首を傾げる。

 あの後、お兄様たちの話し合いがどういう結論になったのか知らない。だが、モルガン伯爵家とバチバチしてもあまり良いことはないので、ノエルに関しては普段通りに接するということになっていそう。あちらは本物ノエルだしね。屋敷に入れたところでオルコット公爵家としても問題視するようなことはない。もともとこちらからぼくの遊び相手にと声をかけたのだから。

 問題は偽ノエルことノアお兄さんである。ノアは、オルコット公爵家からすれば身元不明な怪しい不審者。それにモルガン伯爵家も、ノアがオルコット公爵家にノエルとして出入りしている事実は知らないと思うのだ。

 ノアは、ノエルのふりをして彼の評判を落とそうと幼稚な計画を立てて実行していた。仮にモルガン伯爵家がその計画を知っていれば、全力でノアを止めたと思う。というか伯爵家はノアの存在を頑なに隠しているのだ。ノアがオルコット公爵家に出入りしていることを知ったら血相変えて止めに入るに違いない。

 なので、この件にモルガン伯爵家が関わっているとは考え難い。上手くノアを説得して、穏便に解決することもできるのではないだろうか。

 とりあえずノアのことは、当面の間ノエルには秘密にしておこうと思う。ロルフにも「言っちゃダメだよ」と頑張って口止めしておく。ロルフは割と口が軽い。内緒の話もぽんぽんリオラお兄様に言っちゃう人なのだ。

「ロルフ。ちゃんと内緒にできる?」
「できますよ」
「……本当に?」

 疑いの目を向ければ、ロルフが「心外ですね」と肩をすくめる。どこか自信に満ちているロルフは、余裕の表情でぼくを見据えた。

「これまでに俺がアル様を裏切ったことがありましたか?」
「ぼくのはちみつ盗みました」
「盗んでませんよ!」

 余裕の態度から一転。声を荒げるロルフは大人げない。ぼくのはちみつとったこと。そう簡単にぼくが忘れると思ったら大間違いだ。食べ物の恨み。

「明日はノエルお兄さんと普通に遊びます。いい? 変な態度とったらダメだよ」
「はい! 任せてください」

 どんと胸を叩くロルフは自信に満ちていた。
 くれぐれも、モルガン伯爵家の双子を巡って変なゴタゴタが生じていることをノエルに悟られてはいけない。相手は十歳児。前世の記憶がある賢いぼくにとって、手強い相手でもない。十歳児を誤魔化すなんて余裕である。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

処理中です...