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91 余裕たっぷり
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その日の夜。
いつも通りにはちみつたっぷりのミルクを要求したのに、ロルフが持ってきたのははちみつ少なめミルクだった。がっかり。
「ロルフ。いいかげんぼくのはちみつ返して」
「アル様のはちみつじゃないですから」
はちみつは俺が管理しますと嫌な宣言をするロルフにムスッと頬を膨らませておく。いつからはちみつがロルフの物になったのか。あれはぼくが食べる用のはちみつなのに。
「寝る前に甘い物はダメですよ」
「ダメじゃないもん」
「もん……」
「もう!」
ぼくを揶揄うように「もん」と繰り返すロルフに拳を握る。ぼくが五歳だからって馬鹿にするんじゃない。
イライラしたので、ミルクを一気に飲み干しておく。とはいえちょっぴり熱かったので途中で休憩を挟んだけど。勢いだけはバッチリである。
「明日ノエルお兄さん来る?」
ふと気になって尋ねれば、ロルフが「さぁ?」と首を傾げる。
あの後、お兄様たちの話し合いがどういう結論になったのか知らない。だが、モルガン伯爵家とバチバチしてもあまり良いことはないので、ノエルに関しては普段通りに接するということになっていそう。あちらは本物ノエルだしね。屋敷に入れたところでオルコット公爵家としても問題視するようなことはない。もともとこちらからぼくの遊び相手にと声をかけたのだから。
問題は偽ノエルことノアお兄さんである。ノアは、オルコット公爵家からすれば身元不明な怪しい不審者。それにモルガン伯爵家も、ノアがオルコット公爵家にノエルとして出入りしている事実は知らないと思うのだ。
ノアは、ノエルのふりをして彼の評判を落とそうと幼稚な計画を立てて実行していた。仮にモルガン伯爵家がその計画を知っていれば、全力でノアを止めたと思う。というか伯爵家はノアの存在を頑なに隠しているのだ。ノアがオルコット公爵家に出入りしていることを知ったら血相変えて止めに入るに違いない。
なので、この件にモルガン伯爵家が関わっているとは考え難い。上手くノアを説得して、穏便に解決することもできるのではないだろうか。
とりあえずノアのことは、当面の間ノエルには秘密にしておこうと思う。ロルフにも「言っちゃダメだよ」と頑張って口止めしておく。ロルフは割と口が軽い。内緒の話もぽんぽんリオラお兄様に言っちゃう人なのだ。
「ロルフ。ちゃんと内緒にできる?」
「できますよ」
「……本当に?」
疑いの目を向ければ、ロルフが「心外ですね」と肩をすくめる。どこか自信に満ちているロルフは、余裕の表情でぼくを見据えた。
「これまでに俺がアル様を裏切ったことがありましたか?」
「ぼくのはちみつ盗みました」
「盗んでませんよ!」
余裕の態度から一転。声を荒げるロルフは大人げない。ぼくのはちみつとったこと。そう簡単にぼくが忘れると思ったら大間違いだ。食べ物の恨み。
「明日はノエルお兄さんと普通に遊びます。いい? 変な態度とったらダメだよ」
「はい! 任せてください」
どんと胸を叩くロルフは自信に満ちていた。
くれぐれも、モルガン伯爵家の双子を巡って変なゴタゴタが生じていることをノエルに悟られてはいけない。相手は十歳児。前世の記憶がある賢いぼくにとって、手強い相手でもない。十歳児を誤魔化すなんて余裕である。
いつも通りにはちみつたっぷりのミルクを要求したのに、ロルフが持ってきたのははちみつ少なめミルクだった。がっかり。
「ロルフ。いいかげんぼくのはちみつ返して」
「アル様のはちみつじゃないですから」
はちみつは俺が管理しますと嫌な宣言をするロルフにムスッと頬を膨らませておく。いつからはちみつがロルフの物になったのか。あれはぼくが食べる用のはちみつなのに。
「寝る前に甘い物はダメですよ」
「ダメじゃないもん」
「もん……」
「もう!」
ぼくを揶揄うように「もん」と繰り返すロルフに拳を握る。ぼくが五歳だからって馬鹿にするんじゃない。
イライラしたので、ミルクを一気に飲み干しておく。とはいえちょっぴり熱かったので途中で休憩を挟んだけど。勢いだけはバッチリである。
「明日ノエルお兄さん来る?」
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あの後、お兄様たちの話し合いがどういう結論になったのか知らない。だが、モルガン伯爵家とバチバチしてもあまり良いことはないので、ノエルに関しては普段通りに接するということになっていそう。あちらは本物ノエルだしね。屋敷に入れたところでオルコット公爵家としても問題視するようなことはない。もともとこちらからぼくの遊び相手にと声をかけたのだから。
問題は偽ノエルことノアお兄さんである。ノアは、オルコット公爵家からすれば身元不明な怪しい不審者。それにモルガン伯爵家も、ノアがオルコット公爵家にノエルとして出入りしている事実は知らないと思うのだ。
ノアは、ノエルのふりをして彼の評判を落とそうと幼稚な計画を立てて実行していた。仮にモルガン伯爵家がその計画を知っていれば、全力でノアを止めたと思う。というか伯爵家はノアの存在を頑なに隠しているのだ。ノアがオルコット公爵家に出入りしていることを知ったら血相変えて止めに入るに違いない。
なので、この件にモルガン伯爵家が関わっているとは考え難い。上手くノアを説得して、穏便に解決することもできるのではないだろうか。
とりあえずノアのことは、当面の間ノエルには秘密にしておこうと思う。ロルフにも「言っちゃダメだよ」と頑張って口止めしておく。ロルフは割と口が軽い。内緒の話もぽんぽんリオラお兄様に言っちゃう人なのだ。
「ロルフ。ちゃんと内緒にできる?」
「できますよ」
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くれぐれも、モルガン伯爵家の双子を巡って変なゴタゴタが生じていることをノエルに悟られてはいけない。相手は十歳児。前世の記憶がある賢いぼくにとって、手強い相手でもない。十歳児を誤魔化すなんて余裕である。
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