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89 お手柄
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「ノエルお兄さんはノエルお兄さんじゃなくて。ノアお兄さん。偽物ノエルお兄さんでーす」
「え? なに? なんだって?」
ぼくが一生懸命に説明しているのに、リオラお兄様はぽかんとした顔で聞き返してくる。
もう一度初めから頑張って説明するが、それでもお兄様は「ん? どういうこと?」と首を捻る。話がいつまで経っても伝わらない。
どうにか事実を伝えようとやる気たっぷりであったぼくだが、話を理解しようとしないリオラお兄様を前にして唐突にやる気を失ってしまった。
だって何度説明しても「意味がわからないよ」と困った顔をされてしまうのだ。
ぼくがちょっとおかしい事を言っているみたいな反応。すごく不満。
はぁっと大きくため息ついてみる。
ロルフがニヤッとした顔でぼくの隣に屈んでくる。
「ロルフ。どうにかして」
五歳児にはちょっぴり難しい。
頼れるお世話係さんに助けを求めてみるが、ロルフはへらへら笑うばかりで役に立たない。
むすっとするぼく。
なんかもう飽きてしまった。別にノアお兄さんのことはどうでもいいかもしれない。そんな投げやりな気持ちになって、リオラお兄様から視線をジョナスへと移す。
柔らかい笑みを浮かべて、ぼくたちのやり取りを眺めている彼は、相変わらず変な色気がある。自然と、ぼくの足がそちらへ向かう。
「……」
無言でジョナスを見上げていれば、彼は分かりやすく苦笑した。もう一度抱っこしてほしいが、ロルフがうるさいしな。ちらっと背後のロルフを窺えば、彼は無言でジョナスのことを睨み付けている。失礼だからやめなさい。
突然お喋りをやめてしまったぼくに代わって、ライアンがリオラお兄様へ事情を説明している。
ぼくの話は適当に聞き流していたのに、同じことをライアンが説明すると途端に真面目な顔でふむふむ耳を傾けている。
なんで? ぼくの話は真面目に聞かなかったのに。
しかし、リオラお兄様はライアンのこと大好きだったと思い出した。そりゃ好きな人の話は真剣に聞くよね。わかるわかる。
だが、ライアンは幼馴染のリッキーとこっそりお付き合いしているという事実をお兄様は知らない。
お兄様は原作小説にてライアンのことが好きすぎて破滅するほどなので。そんな繊細なお兄様相手に、こんな衝撃事実をあっさり教えてあげるわけにはいかない。巻き込まれて破滅するのは嫌だもん。
ライアンは、リオラお兄様の気持ちに気が付いているのだろうか? なんかあんまり意識していないような気がする。
どちらにせよ、ライアンの気持ちがリオラお兄様にいくことはないだろう。リッキーという強敵がいるからね。
ライアンの話をふむふむ聞いていたリオラお兄様は「なんでそんな大変なことになってるの?」と絶望したように天を仰いだ。
「モルガン伯爵家は双子がいたってこと? それを隠してノエルひとりっ子ってことにしているの?」
「はい。そのようですね」
困惑するライアンも、実はよくわかっていないらしい。それは仕方がない。ここが小説世界だと知っているぼくも、かなり驚いているから。
「そんなこと私に言われても」
予想通り、あまり頼りにならない反応を返してくるリオラお兄様。へにゃっと眉尻を下げて情けない顔だ。
「リオラお兄様! ノエルお兄さんが双子だって暴いたのはぼくでーす! ぼくすごいです!」
とりあえずお手柄だと報告しておけば、お兄様は乾いた笑みを浮かべる。その目は、なんで余計な事をするのかなとでも言いたげだ。
だが、うちに不審者が出入りしているかもしれない状況であった。その正体を暴いたぼくは、やっぱりお手柄だと思う。
「え? なに? なんだって?」
ぼくが一生懸命に説明しているのに、リオラお兄様はぽかんとした顔で聞き返してくる。
もう一度初めから頑張って説明するが、それでもお兄様は「ん? どういうこと?」と首を捻る。話がいつまで経っても伝わらない。
どうにか事実を伝えようとやる気たっぷりであったぼくだが、話を理解しようとしないリオラお兄様を前にして唐突にやる気を失ってしまった。
だって何度説明しても「意味がわからないよ」と困った顔をされてしまうのだ。
ぼくがちょっとおかしい事を言っているみたいな反応。すごく不満。
はぁっと大きくため息ついてみる。
ロルフがニヤッとした顔でぼくの隣に屈んでくる。
「ロルフ。どうにかして」
五歳児にはちょっぴり難しい。
頼れるお世話係さんに助けを求めてみるが、ロルフはへらへら笑うばかりで役に立たない。
むすっとするぼく。
なんかもう飽きてしまった。別にノアお兄さんのことはどうでもいいかもしれない。そんな投げやりな気持ちになって、リオラお兄様から視線をジョナスへと移す。
柔らかい笑みを浮かべて、ぼくたちのやり取りを眺めている彼は、相変わらず変な色気がある。自然と、ぼくの足がそちらへ向かう。
「……」
無言でジョナスを見上げていれば、彼は分かりやすく苦笑した。もう一度抱っこしてほしいが、ロルフがうるさいしな。ちらっと背後のロルフを窺えば、彼は無言でジョナスのことを睨み付けている。失礼だからやめなさい。
突然お喋りをやめてしまったぼくに代わって、ライアンがリオラお兄様へ事情を説明している。
ぼくの話は適当に聞き流していたのに、同じことをライアンが説明すると途端に真面目な顔でふむふむ耳を傾けている。
なんで? ぼくの話は真面目に聞かなかったのに。
しかし、リオラお兄様はライアンのこと大好きだったと思い出した。そりゃ好きな人の話は真剣に聞くよね。わかるわかる。
だが、ライアンは幼馴染のリッキーとこっそりお付き合いしているという事実をお兄様は知らない。
お兄様は原作小説にてライアンのことが好きすぎて破滅するほどなので。そんな繊細なお兄様相手に、こんな衝撃事実をあっさり教えてあげるわけにはいかない。巻き込まれて破滅するのは嫌だもん。
ライアンは、リオラお兄様の気持ちに気が付いているのだろうか? なんかあんまり意識していないような気がする。
どちらにせよ、ライアンの気持ちがリオラお兄様にいくことはないだろう。リッキーという強敵がいるからね。
ライアンの話をふむふむ聞いていたリオラお兄様は「なんでそんな大変なことになってるの?」と絶望したように天を仰いだ。
「モルガン伯爵家は双子がいたってこと? それを隠してノエルひとりっ子ってことにしているの?」
「はい。そのようですね」
困惑するライアンも、実はよくわかっていないらしい。それは仕方がない。ここが小説世界だと知っているぼくも、かなり驚いているから。
「そんなこと私に言われても」
予想通り、あまり頼りにならない反応を返してくるリオラお兄様。へにゃっと眉尻を下げて情けない顔だ。
「リオラお兄様! ノエルお兄さんが双子だって暴いたのはぼくでーす! ぼくすごいです!」
とりあえずお手柄だと報告しておけば、お兄様は乾いた笑みを浮かべる。その目は、なんで余計な事をするのかなとでも言いたげだ。
だが、うちに不審者が出入りしているかもしれない状況であった。その正体を暴いたぼくは、やっぱりお手柄だと思う。
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