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85 裏切り
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終始偉そうなノアは、モルガン伯爵家を追い出されてはいるもののそれなりに裕福な暮らしをしているようだ。
うちにくるのも馬車だし、屋敷には使用人もいるらしい。詳しくは教えてくれないけど、モルガン伯爵家とまったく交流がないというわけでもなさそうだ。
図々しく要求したお菓子を遠慮なくたいらげて、ぼんやりするノア。ノエルになりすまして彼の評判を落とそうと奮闘していたノアである。己の正体がバレてしまったためにやることなくてぼんやりしている。
普段であれば、嬉々としてぼくを揶揄っているはず。
ノアがぼくに対する意地悪をやめたことは嬉しいが、抜け殻のようにやる気をなくしているノアは楽しくない。
「ノアお兄さん。一緒に遊んでください」
「いや。ひとりで遊びなよ」
こんな感じでまったく遊んでくれない。
ロルフに助けを求めるが、彼はたった今知ってしまった真実に驚くあまり役に立ちそうにない。副団長に知らせた方がいいのでは? とぼくに耳打ちしてくる。
確かにライアンともノエルの正体を暴くべく協力することになっていたが。
ちらっとノアの様子を窺う。
ノアが教えてくれたのは、彼にとって最大の秘密だろう。それをほいほいみんなに教えてしまうのは、ノアに対する裏切りになってしまう。最後まで双子なんて知らないと貫き通すこともできただろうに。投げやりっぽい感じとはいえ、真実を教えてくれたのは彼が多少なりともぼくを信頼してくれたからではないのか。
考えた末に、しばらくは内緒にしておくことに決めた。ノアが帰った途端にでも騎士団に報告へ行きそうなロルフのことは、後でがんばって説得しないと。
「ノアお兄さん。またいつでも遊びに来ていいですよ」
帰り際のノアに投げかければ、彼は意外そうに振り返った。
「いいの? てっきり二度と来るなって言われるかと」
「ぼくは心が広いので。ノアお兄さんとも遊んであげます」
「ふーん? まあ、アルくんは五歳だもんね。難しい話はわかんないもんね?」
「わかります! ぼくに失礼です!」
最後まで失礼なノアは、そう言って足早に帰って行った。その時も傘をささなかった。なんでそんなびしょ濡れになるようなことをするのだろうか。
※※※
「ノアお兄さんの秘密はみんなに内緒でーす」
「いやいや。絶対に報告するべきですって」
「むぅ」
頑ななロルフは、今にでも騎士団に駆け込みそうな勢い。気持ちはわかるけど。でもノアの気持ちも考えてあげないと。
「ノアお兄さんは意地悪だけど、ちょっぴりいい人」
「基本的には意地悪だって思ってるんですね?」
だってそうだろう。彼のこれまでの悪行が消えたわけではない。ぼくは割と根に持つタイプだ。
「じゃあ報告してもよくないですか?」
「よくないです」
それとこれとは話が別。
だって偽ノエルの正体をバラせば、彼はきっともううちに入れない気がする。たとえオルコット公爵家への出入りが認められたとしても、モルガン伯爵家との間でバチバチするのが目に見えている。
ノエルの双子を名乗るノアのことをモルガン伯爵家が放置しておくとは思えない。ノエルだって困惑するだろう。要するに、彼らの周りが大騒ぎになることが予想されるのだ。
だからもうちょっと様子見しようとロルフにお願いするが、彼は「えー」と苦い顔になってしまう。
「きらきらの石あげるから」
「えー? 石だけですか?」
まさかの言葉に、ぱちぱちと目を瞬く。他に何か寄越せということか。
「……ぼくお気に入りの枝をあげます」
「枝はちょっと」
なんでだ。ちょうどいい長さで気に入っているのに。
「まぁなんでもいいですけど。ということで騎士団に行きましょうよ」
「行かないもん」
「もん……」
もん、と繰り返すロルフはぼくのことを馬鹿にしていた。もう! と地団駄を踏めば、ロルフはへらへら笑いながらぼくを抱っこしてしまう。
「副団長のとこに行きましょう」
「裏切りロルフめ!」
「裏切り……」
酷い、と途端に被害者面するロルフは、ぼくを抱えたまま足取り軽く騎士棟へと向かってしまった。
うちにくるのも馬車だし、屋敷には使用人もいるらしい。詳しくは教えてくれないけど、モルガン伯爵家とまったく交流がないというわけでもなさそうだ。
図々しく要求したお菓子を遠慮なくたいらげて、ぼんやりするノア。ノエルになりすまして彼の評判を落とそうと奮闘していたノアである。己の正体がバレてしまったためにやることなくてぼんやりしている。
普段であれば、嬉々としてぼくを揶揄っているはず。
ノアがぼくに対する意地悪をやめたことは嬉しいが、抜け殻のようにやる気をなくしているノアは楽しくない。
「ノアお兄さん。一緒に遊んでください」
「いや。ひとりで遊びなよ」
こんな感じでまったく遊んでくれない。
ロルフに助けを求めるが、彼はたった今知ってしまった真実に驚くあまり役に立ちそうにない。副団長に知らせた方がいいのでは? とぼくに耳打ちしてくる。
確かにライアンともノエルの正体を暴くべく協力することになっていたが。
ちらっとノアの様子を窺う。
ノアが教えてくれたのは、彼にとって最大の秘密だろう。それをほいほいみんなに教えてしまうのは、ノアに対する裏切りになってしまう。最後まで双子なんて知らないと貫き通すこともできただろうに。投げやりっぽい感じとはいえ、真実を教えてくれたのは彼が多少なりともぼくを信頼してくれたからではないのか。
考えた末に、しばらくは内緒にしておくことに決めた。ノアが帰った途端にでも騎士団に報告へ行きそうなロルフのことは、後でがんばって説得しないと。
「ノアお兄さん。またいつでも遊びに来ていいですよ」
帰り際のノアに投げかければ、彼は意外そうに振り返った。
「いいの? てっきり二度と来るなって言われるかと」
「ぼくは心が広いので。ノアお兄さんとも遊んであげます」
「ふーん? まあ、アルくんは五歳だもんね。難しい話はわかんないもんね?」
「わかります! ぼくに失礼です!」
最後まで失礼なノアは、そう言って足早に帰って行った。その時も傘をささなかった。なんでそんなびしょ濡れになるようなことをするのだろうか。
※※※
「ノアお兄さんの秘密はみんなに内緒でーす」
「いやいや。絶対に報告するべきですって」
「むぅ」
頑ななロルフは、今にでも騎士団に駆け込みそうな勢い。気持ちはわかるけど。でもノアの気持ちも考えてあげないと。
「ノアお兄さんは意地悪だけど、ちょっぴりいい人」
「基本的には意地悪だって思ってるんですね?」
だってそうだろう。彼のこれまでの悪行が消えたわけではない。ぼくは割と根に持つタイプだ。
「じゃあ報告してもよくないですか?」
「よくないです」
それとこれとは話が別。
だって偽ノエルの正体をバラせば、彼はきっともううちに入れない気がする。たとえオルコット公爵家への出入りが認められたとしても、モルガン伯爵家との間でバチバチするのが目に見えている。
ノエルの双子を名乗るノアのことをモルガン伯爵家が放置しておくとは思えない。ノエルだって困惑するだろう。要するに、彼らの周りが大騒ぎになることが予想されるのだ。
だからもうちょっと様子見しようとロルフにお願いするが、彼は「えー」と苦い顔になってしまう。
「きらきらの石あげるから」
「えー? 石だけですか?」
まさかの言葉に、ぱちぱちと目を瞬く。他に何か寄越せということか。
「……ぼくお気に入りの枝をあげます」
「枝はちょっと」
なんでだ。ちょうどいい長さで気に入っているのに。
「まぁなんでもいいですけど。ということで騎士団に行きましょうよ」
「行かないもん」
「もん……」
もん、と繰り返すロルフはぼくのことを馬鹿にしていた。もう! と地団駄を踏めば、ロルフはへらへら笑いながらぼくを抱っこしてしまう。
「副団長のとこに行きましょう」
「裏切りロルフめ!」
「裏切り……」
酷い、と途端に被害者面するロルフは、ぼくを抱えたまま足取り軽く騎士棟へと向かってしまった。
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