悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
84 / 151

84 嫌い?

しおりを挟む
「ノアお兄さん! ぼくに謝ってくださぁい!」
「は?」

 偽ノエルが、本当はノエルの双子の弟であることが判明した。お名前はノア。

 あまり大声で触れ回るなとは言われたが、ここにはぼくとノア、それにロルフしかいないから大丈夫だと思う。ロルフは、青い顔できょろきょろしていて挙動不審。内緒にできるのか非常に怪しい。ぼくが見張っておかないと。

 偽ノエルの正体がわかってスッキリしたぼくは、唐突に彼が起こしたぼく閉じ込め事件を思い出した。あれについて、ノアからの謝罪はまだない。ぼくは怒っている。

 謝ってと強気に詰め寄るが、ノアは心当たりがまったくないみたいな顔で首を傾げている。

「ぼくを小屋に閉じ込めました。ぼくはまだ怒っています」
「閉じ込め……? そんなことあったっけ?」
「ありました! ぼくは覚えています!」

 勢いよく拳を握って、ロルフにも「ね? ロルフも覚えてるもんね?」と味方になるよう促してみる。

「はい、もちろん! 俺がアル様の身に起きたことを忘れるわけないじゃないですか!」
「ロルフ!」

 ロルフはいつもぼくの味方。こんなに心強いことはない。

 ふたりでノアに視線を向ければ、彼は大きくため息を吐いた。その諦めたような仕草に、すかさず「謝ってください」と繰り返す。

「あれは勝手に小屋に居座ったアルくんが悪いんだろ」
「そんなわけないです」

 とんでもない責任転嫁を始めるノアは、さすが十歳児。そんな雑な言い訳が通用するわけないだろう。

「ぼくはとっても怖い思いをしました。たまたまライアンが助けてくれてラッキーだったけど」
「そうなんだ。助かったんならそれでよくない?」
「よくないです」

 ふーん? と実に偉そうなノアは「失敗したな」と呟く。

「まさか僕の仕業だってバレていたとは」
「ぼくはノアお兄さんが扉閉めるところ見てました」
「アルくん。意外とやるねぇ」
「どうも」

 雑に褒められて、とりあえずぺこっと頭を下げておく。あまり嬉しくはないな。

「全部ノエルのせいにしようと思っていたのに」
「最低でーす。ノエルお兄さんかわいそう」
「どこが」

 舌打ちと共に吐き捨てたノアに、ちょっとびっくりしてしまう。

 今までとは違いどこか嫌悪を含んだ声と表情。もしかしたら、ノアはノエルのことが嫌いなのかもしれない。思えば、ノアは双子なのに、ひとりだけモルガン伯爵家を追い出されているわけで。

 ノアが今現在どこに住んでいるのかは知らないけど。ひとりだけ何食わぬ顔でモルガン伯爵家の跡継ぎとして暮らしているノエルのことを、ノアがどう思っているのかなんてわかりそうなものだ。

 ノエルは、自分が双子だということも、家から追い出されたらしい弟がいることも知らないという。なにも知らないノエルに対して、ノアが恨みの感情を持っていたとしても何もおかしくはない。

「……ノアお兄さん。もしかしてノエルお兄さんのこと嫌い?」

 おそるおそる問い掛ければ、「そりゃそうでしょ」というシンプルな肯定。

「ノエルのふりして色々やらかしてさ。あいつの評判落としてやろうと思って」

 なるほど。
 それでぼくに意地悪していたのか。

「でもぼくに謝ってください」

 ノアがノエルを嫌いなのはわかった。だが、それとぼくへの意地悪は別問題である。巻き込まれたぼくが可哀想。ものすごく。

「ぼく五歳です。ノアお兄さん十歳。小さい子いじめたらダメ」
「いつも大人ぶっているくせに」
「ぼくは小さい子です! いじめちゃダメでーす!」

 声を張れば、ロルフもそっと拳を握って「アル様がんばってください!」と応援してくれる。

 諦めないぼくに、ついにノアが折れた。「はいはい」と面倒くさそうに頭を振った彼は、椅子から立ち上がってぼくと向き合う。

「確かにね。アルくんを巻き込んだのは悪かったと思っているよ。申し訳なかった」

 深々と頭を下げられて、面食らう。
 絶対に謝らないとごねるかと思っていたのに。意外と素直だな。

 ノアが適当な謝罪で誤魔化すと思っていたらしいロルフも、予想以上にきちんとした謝罪にあわあわしている。

「ノアお兄さん。謝ってくれたから許します。ぼくは優しいので」

 ノアにも事情があったのだ。ノエルを妬ましく思う気持ちはわかる。手段はちょっとあれだけど。まあ、ノアは十歳児なので。お子様が頑張って考えた作戦だと思えば、許せなくはない。

 頭を上げてほしいとノアを促せば、素早くそれに従ったノアがへらへらと笑う。

「あ、そう? よかったよかった。そんなことよりさ。お茶菓子はないわけ? 本当に気が利かないよね。なんでお茶だけなのさ」
「ロルフに謝ってください!!」

 しんみりした空気をぶち壊したノアは、どかりと椅子に腰掛けてお菓子を要求し始める。やっぱり嫌なお子様。先程の真摯な謝罪は嘘なのかと疑ってしまう。気持ちの切り替え早すぎるだろう。

 指摘されたロルフが大慌ててバタバタしている。だが、ぼくもお菓子は食べたい。ロルフを急かしてお菓子を待つ。

「ノアお兄さん。やっぱり嫌な奴」
「はぁ? こんな雨の中わざわざびしょ濡れになってまで遊びに来てあげた僕にそういうこと言う?」

 遊びに来てほしいと頼んだ覚えはない。
 あとびしょ濡れになったのは君が面倒くさがって傘をささなかったからでしょうが。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

処理中です...