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84 嫌い?
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「ノアお兄さん! ぼくに謝ってくださぁい!」
「は?」
偽ノエルが、本当はノエルの双子の弟であることが判明した。お名前はノア。
あまり大声で触れ回るなとは言われたが、ここにはぼくとノア、それにロルフしかいないから大丈夫だと思う。ロルフは、青い顔できょろきょろしていて挙動不審。内緒にできるのか非常に怪しい。ぼくが見張っておかないと。
偽ノエルの正体がわかってスッキリしたぼくは、唐突に彼が起こしたぼく閉じ込め事件を思い出した。あれについて、ノアからの謝罪はまだない。ぼくは怒っている。
謝ってと強気に詰め寄るが、ノアは心当たりがまったくないみたいな顔で首を傾げている。
「ぼくを小屋に閉じ込めました。ぼくはまだ怒っています」
「閉じ込め……? そんなことあったっけ?」
「ありました! ぼくは覚えています!」
勢いよく拳を握って、ロルフにも「ね? ロルフも覚えてるもんね?」と味方になるよう促してみる。
「はい、もちろん! 俺がアル様の身に起きたことを忘れるわけないじゃないですか!」
「ロルフ!」
ロルフはいつもぼくの味方。こんなに心強いことはない。
ふたりでノアに視線を向ければ、彼は大きくため息を吐いた。その諦めたような仕草に、すかさず「謝ってください」と繰り返す。
「あれは勝手に小屋に居座ったアルくんが悪いんだろ」
「そんなわけないです」
とんでもない責任転嫁を始めるノアは、さすが十歳児。そんな雑な言い訳が通用するわけないだろう。
「ぼくはとっても怖い思いをしました。たまたまライアンが助けてくれてラッキーだったけど」
「そうなんだ。助かったんならそれでよくない?」
「よくないです」
ふーん? と実に偉そうなノアは「失敗したな」と呟く。
「まさか僕の仕業だってバレていたとは」
「ぼくはノアお兄さんが扉閉めるところ見てました」
「アルくん。意外とやるねぇ」
「どうも」
雑に褒められて、とりあえずぺこっと頭を下げておく。あまり嬉しくはないな。
「全部ノエルのせいにしようと思っていたのに」
「最低でーす。ノエルお兄さんかわいそう」
「どこが」
舌打ちと共に吐き捨てたノアに、ちょっとびっくりしてしまう。
今までとは違いどこか嫌悪を含んだ声と表情。もしかしたら、ノアはノエルのことが嫌いなのかもしれない。思えば、ノアは双子なのに、ひとりだけモルガン伯爵家を追い出されているわけで。
ノアが今現在どこに住んでいるのかは知らないけど。ひとりだけ何食わぬ顔でモルガン伯爵家の跡継ぎとして暮らしているノエルのことを、ノアがどう思っているのかなんてわかりそうなものだ。
ノエルは、自分が双子だということも、家から追い出されたらしい弟がいることも知らないという。なにも知らないノエルに対して、ノアが恨みの感情を持っていたとしても何もおかしくはない。
「……ノアお兄さん。もしかしてノエルお兄さんのこと嫌い?」
おそるおそる問い掛ければ、「そりゃそうでしょ」というシンプルな肯定。
「ノエルのふりして色々やらかしてさ。あいつの評判落としてやろうと思って」
なるほど。
それでぼくに意地悪していたのか。
「でもぼくに謝ってください」
ノアがノエルを嫌いなのはわかった。だが、それとぼくへの意地悪は別問題である。巻き込まれたぼくが可哀想。ものすごく。
「ぼく五歳です。ノアお兄さん十歳。小さい子いじめたらダメ」
「いつも大人ぶっているくせに」
「ぼくは小さい子です! いじめちゃダメでーす!」
声を張れば、ロルフもそっと拳を握って「アル様がんばってください!」と応援してくれる。
諦めないぼくに、ついにノアが折れた。「はいはい」と面倒くさそうに頭を振った彼は、椅子から立ち上がってぼくと向き合う。
「確かにね。アルくんを巻き込んだのは悪かったと思っているよ。申し訳なかった」
深々と頭を下げられて、面食らう。
絶対に謝らないとごねるかと思っていたのに。意外と素直だな。
ノアが適当な謝罪で誤魔化すと思っていたらしいロルフも、予想以上にきちんとした謝罪にあわあわしている。
「ノアお兄さん。謝ってくれたから許します。ぼくは優しいので」
ノアにも事情があったのだ。ノエルを妬ましく思う気持ちはわかる。手段はちょっとあれだけど。まあ、ノアは十歳児なので。お子様が頑張って考えた作戦だと思えば、許せなくはない。
頭を上げてほしいとノアを促せば、素早くそれに従ったノアがへらへらと笑う。
「あ、そう? よかったよかった。そんなことよりさ。お茶菓子はないわけ? 本当に気が利かないよね。なんでお茶だけなのさ」
「ロルフに謝ってください!!」
しんみりした空気をぶち壊したノアは、どかりと椅子に腰掛けてお菓子を要求し始める。やっぱり嫌なお子様。先程の真摯な謝罪は嘘なのかと疑ってしまう。気持ちの切り替え早すぎるだろう。
指摘されたロルフが大慌ててバタバタしている。だが、ぼくもお菓子は食べたい。ロルフを急かしてお菓子を待つ。
「ノアお兄さん。やっぱり嫌な奴」
「はぁ? こんな雨の中わざわざびしょ濡れになってまで遊びに来てあげた僕にそういうこと言う?」
遊びに来てほしいと頼んだ覚えはない。
あとびしょ濡れになったのは君が面倒くさがって傘をささなかったからでしょうが。
「は?」
偽ノエルが、本当はノエルの双子の弟であることが判明した。お名前はノア。
あまり大声で触れ回るなとは言われたが、ここにはぼくとノア、それにロルフしかいないから大丈夫だと思う。ロルフは、青い顔できょろきょろしていて挙動不審。内緒にできるのか非常に怪しい。ぼくが見張っておかないと。
偽ノエルの正体がわかってスッキリしたぼくは、唐突に彼が起こしたぼく閉じ込め事件を思い出した。あれについて、ノアからの謝罪はまだない。ぼくは怒っている。
謝ってと強気に詰め寄るが、ノアは心当たりがまったくないみたいな顔で首を傾げている。
「ぼくを小屋に閉じ込めました。ぼくはまだ怒っています」
「閉じ込め……? そんなことあったっけ?」
「ありました! ぼくは覚えています!」
勢いよく拳を握って、ロルフにも「ね? ロルフも覚えてるもんね?」と味方になるよう促してみる。
「はい、もちろん! 俺がアル様の身に起きたことを忘れるわけないじゃないですか!」
「ロルフ!」
ロルフはいつもぼくの味方。こんなに心強いことはない。
ふたりでノアに視線を向ければ、彼は大きくため息を吐いた。その諦めたような仕草に、すかさず「謝ってください」と繰り返す。
「あれは勝手に小屋に居座ったアルくんが悪いんだろ」
「そんなわけないです」
とんでもない責任転嫁を始めるノアは、さすが十歳児。そんな雑な言い訳が通用するわけないだろう。
「ぼくはとっても怖い思いをしました。たまたまライアンが助けてくれてラッキーだったけど」
「そうなんだ。助かったんならそれでよくない?」
「よくないです」
ふーん? と実に偉そうなノアは「失敗したな」と呟く。
「まさか僕の仕業だってバレていたとは」
「ぼくはノアお兄さんが扉閉めるところ見てました」
「アルくん。意外とやるねぇ」
「どうも」
雑に褒められて、とりあえずぺこっと頭を下げておく。あまり嬉しくはないな。
「全部ノエルのせいにしようと思っていたのに」
「最低でーす。ノエルお兄さんかわいそう」
「どこが」
舌打ちと共に吐き捨てたノアに、ちょっとびっくりしてしまう。
今までとは違いどこか嫌悪を含んだ声と表情。もしかしたら、ノアはノエルのことが嫌いなのかもしれない。思えば、ノアは双子なのに、ひとりだけモルガン伯爵家を追い出されているわけで。
ノアが今現在どこに住んでいるのかは知らないけど。ひとりだけ何食わぬ顔でモルガン伯爵家の跡継ぎとして暮らしているノエルのことを、ノアがどう思っているのかなんてわかりそうなものだ。
ノエルは、自分が双子だということも、家から追い出されたらしい弟がいることも知らないという。なにも知らないノエルに対して、ノアが恨みの感情を持っていたとしても何もおかしくはない。
「……ノアお兄さん。もしかしてノエルお兄さんのこと嫌い?」
おそるおそる問い掛ければ、「そりゃそうでしょ」というシンプルな肯定。
「ノエルのふりして色々やらかしてさ。あいつの評判落としてやろうと思って」
なるほど。
それでぼくに意地悪していたのか。
「でもぼくに謝ってください」
ノアがノエルを嫌いなのはわかった。だが、それとぼくへの意地悪は別問題である。巻き込まれたぼくが可哀想。ものすごく。
「ぼく五歳です。ノアお兄さん十歳。小さい子いじめたらダメ」
「いつも大人ぶっているくせに」
「ぼくは小さい子です! いじめちゃダメでーす!」
声を張れば、ロルフもそっと拳を握って「アル様がんばってください!」と応援してくれる。
諦めないぼくに、ついにノアが折れた。「はいはい」と面倒くさそうに頭を振った彼は、椅子から立ち上がってぼくと向き合う。
「確かにね。アルくんを巻き込んだのは悪かったと思っているよ。申し訳なかった」
深々と頭を下げられて、面食らう。
絶対に謝らないとごねるかと思っていたのに。意外と素直だな。
ノアが適当な謝罪で誤魔化すと思っていたらしいロルフも、予想以上にきちんとした謝罪にあわあわしている。
「ノアお兄さん。謝ってくれたから許します。ぼくは優しいので」
ノアにも事情があったのだ。ノエルを妬ましく思う気持ちはわかる。手段はちょっとあれだけど。まあ、ノアは十歳児なので。お子様が頑張って考えた作戦だと思えば、許せなくはない。
頭を上げてほしいとノアを促せば、素早くそれに従ったノアがへらへらと笑う。
「あ、そう? よかったよかった。そんなことよりさ。お茶菓子はないわけ? 本当に気が利かないよね。なんでお茶だけなのさ」
「ロルフに謝ってください!!」
しんみりした空気をぶち壊したノアは、どかりと椅子に腰掛けてお菓子を要求し始める。やっぱり嫌なお子様。先程の真摯な謝罪は嘘なのかと疑ってしまう。気持ちの切り替え早すぎるだろう。
指摘されたロルフが大慌ててバタバタしている。だが、ぼくもお菓子は食べたい。ロルフを急かしてお菓子を待つ。
「ノアお兄さん。やっぱり嫌な奴」
「はぁ? こんな雨の中わざわざびしょ濡れになってまで遊びに来てあげた僕にそういうこと言う?」
遊びに来てほしいと頼んだ覚えはない。
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