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83 真実
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「アルくんは毎日暇そうでいいね」
「暇じゃないです。ぼくは忙しい」
にやにやと意地の悪い笑みでぼくを見据えるノエルは、ロルフの用意した紅茶を飲んでまったりしている。
一方のぼくは、ちょっぴりドキドキ。
今から意地悪ノエルと戦うのだ。大丈夫。ぼくにはロルフという心強い味方がいるから。
ちらっと背後に控えるロルフを確認する。緊張するぼくとは違って、ロルフは何にも考えていないような表情でぼんやりしている。
……ロルフはあまりあてにならないな。
十歳児相手に駆け引きしても無意味だと思うので、直球でいく。
偉そうに足を組むノエルの前を陣取って、グッと眉間に力を入れる。精一杯怖い顔を作ったのに、ノエルは「なにその変な顔」と鼻で笑ってくる。失礼だよ。
「ノエルお兄さん!」
「なに」
「ノエルお兄さんはノエルお兄さんの偽物だって、ぼくわかってます!」
「なんて??」
意味がわからないと身を乗り出すノエルは、ぼくを小馬鹿にしたような態度だ。
「偽物ノエルお兄さんめ!」
ぼくは騙されません! と大声を出せば、ノエルは「ふーん?」と余裕の表情で座り直す。今度は腕を組んで偉そうなノエルは「アルくんも意外とやるねぇ」と楽しそうに口角を上げた。
「まさかバレるとは。数年くらいは誤魔化せると思ってたのに」
「ぼくはそこまでお馬鹿じゃないです」
失礼な偽ノエルは、アルくん意外とすごいねと雑に褒めてくる。あまり嬉しくはない。むしろそんな適当な振る舞いで誤魔化せると思っていたことにびっくりだ。
あっさり白状したノエルに、ロルフが「認めるのはや」と小声で驚愕している。
「お兄さんは、誰ですか」
ノエルと顔が瓜二つであるから、まったくの赤の他人というわけでもないだろう。一体何者なのかと問い詰めれば、やけに余裕あふれる彼が「誰だと思う?」と問いかけてきた。
「ノエルお兄さんの兄弟」
おそらく双子なのだろうという予想を伝えれば、彼はニヤニヤしながら「正解」と言い放った。
「ノエルお兄さん、やっぱり双子」
なんで本物ノエルは双子じゃないなんて嘘ついたのだろうか。この世界って別に双子が不吉とされているなんてことはない。隠す理由はないと思うんだけど。
ノエルだけではない。モルガン伯爵家が口裏あわせて双子の件を秘密にしているということだろうか。
ぼくは知らないのだが、ノエルが生まれた時に一瞬だけモルガン伯爵家に双子が生まれたという噂が世間に広まったらしい。それは事実だったということだ。だが、その後モルガン伯爵家は双子だという事を頑なに否定して今に至る。正直、ひとりっ子ということにしなければならない理由は皆無なのだが。
一体どうしてそんな面倒なことになったのだろうかと偽ノエルに目を向ければ、彼は「あいつは知らないんだよ」ととんでもない事を言い始める。
「あいつ?」
「君の言う本物ノエル。実は自分が双子だって知らないんだよ」
「え?」
なんでもないように言い放つ偽ノエルに、ぼくとロルフは思わず顔を見合わせる。なにそのとんでもない事実。
しかし、知らないというのであれば本物ノエルが頑なに兄弟の存在を否定していたことにも納得。
「あっちが兄で、僕が弟。一応ね」
にこっと笑みを浮かべる偽ノエル。
どこか影のある笑みに、ぼくは立ち上がる。とことこと椅子を占領するノエルに近付いて、その肩をぽんぽん叩いた。
「なに。なんの嫌がらせ」
嫌がらせではない。
「ノエルお兄さん、元気出して。きらきらの石あげるので」
「石なんていらないよ。僕は君と違って大人なんだよ」
「ぼくも大人です!」
「無理があるよ」
どういう意味だ。
ムスッと頬を膨らませるぼくを見て、ノエルはくすくす笑う。
いや、彼はノエルではないんだっけ?
「偽物ノエルお兄さん。お名前はなんですか?」
「知りたいの?」
だっていつまでも偽ノエルと呼ぶわけはいかないだろう。
教えてくださーいと詰め寄れば、彼は「そこまで言うなら。教えてあげてもいいけど」と上から目線で挑んでくる。その謎の偉そうな態度はなんだろうか。別にいいけどさ。
「僕はノア。アルくんだけは特別にノアって呼んでもいいよ」
「どうも」
なんかお許しをいただいた。
「ノアお兄さん。ノエルお兄さんに会わないんですか?」
「会うなって言われてるから。いい? 僕のことはノエルには内緒だからね。五歳児に内緒話は難しいかな?」
ぼくを小馬鹿にするような視線に、拳を握る。
「内緒にできます! ぼくをなめてはいけない」
「そう? ならいいけど」
あんまり期待はしないでおくと失礼なノエルに唇をムスッと引き結ぶ。
ロルフにも内緒ねと言い聞かせておけば、彼はなんだか自信なさそうな顔でこくこく頷いた。ロルフは口が軽いので少し心配。
ノアは、ノエルとは違う家に住んでいるらしい。モルガン伯爵家としては、ノアの事は赤の他人扱いしているようだ。理由はわからない。
ノアは知っていそうだけど、そこまで詳しくは教えてくれそうにない。デリケートな話だろうから。こちらも首を突っ込むわけにはいかないな。
「暇じゃないです。ぼくは忙しい」
にやにやと意地の悪い笑みでぼくを見据えるノエルは、ロルフの用意した紅茶を飲んでまったりしている。
一方のぼくは、ちょっぴりドキドキ。
今から意地悪ノエルと戦うのだ。大丈夫。ぼくにはロルフという心強い味方がいるから。
ちらっと背後に控えるロルフを確認する。緊張するぼくとは違って、ロルフは何にも考えていないような表情でぼんやりしている。
……ロルフはあまりあてにならないな。
十歳児相手に駆け引きしても無意味だと思うので、直球でいく。
偉そうに足を組むノエルの前を陣取って、グッと眉間に力を入れる。精一杯怖い顔を作ったのに、ノエルは「なにその変な顔」と鼻で笑ってくる。失礼だよ。
「ノエルお兄さん!」
「なに」
「ノエルお兄さんはノエルお兄さんの偽物だって、ぼくわかってます!」
「なんて??」
意味がわからないと身を乗り出すノエルは、ぼくを小馬鹿にしたような態度だ。
「偽物ノエルお兄さんめ!」
ぼくは騙されません! と大声を出せば、ノエルは「ふーん?」と余裕の表情で座り直す。今度は腕を組んで偉そうなノエルは「アルくんも意外とやるねぇ」と楽しそうに口角を上げた。
「まさかバレるとは。数年くらいは誤魔化せると思ってたのに」
「ぼくはそこまでお馬鹿じゃないです」
失礼な偽ノエルは、アルくん意外とすごいねと雑に褒めてくる。あまり嬉しくはない。むしろそんな適当な振る舞いで誤魔化せると思っていたことにびっくりだ。
あっさり白状したノエルに、ロルフが「認めるのはや」と小声で驚愕している。
「お兄さんは、誰ですか」
ノエルと顔が瓜二つであるから、まったくの赤の他人というわけでもないだろう。一体何者なのかと問い詰めれば、やけに余裕あふれる彼が「誰だと思う?」と問いかけてきた。
「ノエルお兄さんの兄弟」
おそらく双子なのだろうという予想を伝えれば、彼はニヤニヤしながら「正解」と言い放った。
「ノエルお兄さん、やっぱり双子」
なんで本物ノエルは双子じゃないなんて嘘ついたのだろうか。この世界って別に双子が不吉とされているなんてことはない。隠す理由はないと思うんだけど。
ノエルだけではない。モルガン伯爵家が口裏あわせて双子の件を秘密にしているということだろうか。
ぼくは知らないのだが、ノエルが生まれた時に一瞬だけモルガン伯爵家に双子が生まれたという噂が世間に広まったらしい。それは事実だったということだ。だが、その後モルガン伯爵家は双子だという事を頑なに否定して今に至る。正直、ひとりっ子ということにしなければならない理由は皆無なのだが。
一体どうしてそんな面倒なことになったのだろうかと偽ノエルに目を向ければ、彼は「あいつは知らないんだよ」ととんでもない事を言い始める。
「あいつ?」
「君の言う本物ノエル。実は自分が双子だって知らないんだよ」
「え?」
なんでもないように言い放つ偽ノエルに、ぼくとロルフは思わず顔を見合わせる。なにそのとんでもない事実。
しかし、知らないというのであれば本物ノエルが頑なに兄弟の存在を否定していたことにも納得。
「あっちが兄で、僕が弟。一応ね」
にこっと笑みを浮かべる偽ノエル。
どこか影のある笑みに、ぼくは立ち上がる。とことこと椅子を占領するノエルに近付いて、その肩をぽんぽん叩いた。
「なに。なんの嫌がらせ」
嫌がらせではない。
「ノエルお兄さん、元気出して。きらきらの石あげるので」
「石なんていらないよ。僕は君と違って大人なんだよ」
「ぼくも大人です!」
「無理があるよ」
どういう意味だ。
ムスッと頬を膨らませるぼくを見て、ノエルはくすくす笑う。
いや、彼はノエルではないんだっけ?
「偽物ノエルお兄さん。お名前はなんですか?」
「知りたいの?」
だっていつまでも偽ノエルと呼ぶわけはいかないだろう。
教えてくださーいと詰め寄れば、彼は「そこまで言うなら。教えてあげてもいいけど」と上から目線で挑んでくる。その謎の偉そうな態度はなんだろうか。別にいいけどさ。
「僕はノア。アルくんだけは特別にノアって呼んでもいいよ」
「どうも」
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「会うなって言われてるから。いい? 僕のことはノエルには内緒だからね。五歳児に内緒話は難しいかな?」
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ロルフにも内緒ねと言い聞かせておけば、彼はなんだか自信なさそうな顔でこくこく頷いた。ロルフは口が軽いので少し心配。
ノアは、ノエルとは違う家に住んでいるらしい。モルガン伯爵家としては、ノアの事は赤の他人扱いしているようだ。理由はわからない。
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