悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

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79 苦労している

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「なんだか今日は大変だったみたいだね?」
「ちょっぴり大変。ぼくは疲れました」

 お疲れでーす! と両手をあげてリオラお兄様にアピールしておく。こう見えても、ぼくは毎日苦労しているのだ。その苦労を少しは理解してもらいたい。

 夕食の時間。

 いつものようにリオラお兄様と一緒に食べる。両親は忙しいらしく、屋敷に居ないことも多々ある。たまに顔を合わせれば遊んでくれるけど、基本的にはあまり遊べない。特にお父様は大忙しなので、ほとんど遊べない。

 そんな両親に代わって、リオラお兄様がぼくと遊んでくれる。だが、最近ではもっぱらノエルと遊んでばかりだ。リオラお兄様もお勉強やらお父様の仕事のお手伝いやらで忙しそうにしている。リオラお兄様は長男なので、跡継ぎとして期待されているのだ。一方のぼくは次男だし、まだ五歳。比較的、毎日暇している。

 今日も今日とて、大好きなお肉を一生懸命もぐもぐする。ぼくは、暇な時に厨房を覗いては「今日もお肉にしてくださぁい。あとデザートも忘れないで」と要望を伝えている。シェフが毎度苦笑している。

 うちのシェフは、ちょっぴり頑固。会うたびに「野菜はいりませーん」と主張しているのに、懲りずにぼくのお皿に野菜を乗っけてくる。これはぼくに対する嫌がらせだろうか。お兄様に告げ口しても、「好き嫌いはいけないよ」で話が終わってしまう。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。それの何が悪いって言うんだ。

 お皿に乗っている緑色の野菜をフォークで端に移動させる。真剣な顔で睨み合いをしていれば、お兄様が「こら」と静かに眉を寄せた。

「野菜も食べないと。大きくなれないよ」
「大丈夫です。ぼく、リオラお兄様より大きくなる予定です」
「好き嫌いしてたら無理だよ?」
「むぅ」

 ぼくの未来にケチをつけてくるお兄様。きっとぼくに身長抜かされるのが嫌なのだろう。

「それで? ノエルは一体どうしたんだい」

 リオラお兄様の興味は、ノエルにあるようだ。おそらくライアンあたりから本日の置き物騒動について報告を受けたに違いない。一体どういう説明を聞いたのだろうか。騒動の中心であった置き物が、リオラお兄様がぼくにくれた物だって知っているのだろうか。なんとなく、そこまでは耳に入っていないような気がする。

 きっと、騎士団はリオラお兄様に、変な置き物をノエルが勝手に埋めて不審物騒ぎになったと報告したはず。リオラお兄様の呑気なお顔を見る限り、その不審物がお兄様チョイスの鳥さんだとは知らないと思う。

 ちなみに、あの置き物は騎士団経由でぼくの手元に戻ってきた。ぼくから話を聞いたジョナスが、手配してくれたらしい。正直、このまま行方不明になれと期待していたぼくは、すぐに手元に戻ってきてびっくりした。これをノエルが目にしたら、また呪いがどうのと騒ぎ出すかもしれない。厳重に隠しておかないと。

 世の中、知らない方が幸せなことってあるよね。

 リオラお兄様の心の平穏のためにも、黙っておこうと思う。お兄様に気を遣えるぼく偉い。偉いので、美味しいお肉食べちゃう。

 フォークで口に運んでもぐもぐしていれば、お兄様は「ノエルはどうしたんだろうか」とひとりで会話を続けている。

 きっとノエルの行動にたいした意味はないと思う。ノエルの暴走は、言ってみれば原作小説を盛り上げるための行動に過ぎない。ノエルというキャラクターは、トラブルメーカーとしての役割を与えられていたので。

 だが、それをお兄様に説明したところで理解はしてもらえないだろう。そもそも説明のためには、ぼくに前世の知識があって、おまけにここが小説世界だというところから教えてあげなければならない。そんなの無理。

 お肉を飲み込んで、リオラお兄様を見上げる。心配そうな顔のお兄様は、ついこの前ライアンに聞かされたノエル双子説のこともあって、深刻に受け止めているらしい。これはいけない。リオラお兄様はすごく繊細だ。余計なストレスをかけると爆発する。

「んっと。ノエルお兄さんは、ぼくと遊んでただけです。あれは埋めたけど、あとで掘りおこすつもりでした」
「そうなの?」

 怪訝な顔のお兄様に「はーい」と元気にお返事しておく。あとで掘りおこすつもりだったのは本当だ。本当はノエルが帰宅してから、ロルフと一緒にこっそり回収するつもりだった。その前に、騎士団によって発見されてしまったので大事になっただけ。

 だからまったく心配いらないと伝えれば、お兄様は「そう?」と首を傾げてしまう。

 大丈夫でーすと言いながら、ぼくの視線はお皿に乗ったデザートに釘付けだった。
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