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75 ざわざわ
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やがて小さな穴を掘り終えたノエルは、おもむろにスコップを手放した。
「これくらい掘れば大丈夫でしょう」
一体何が大丈夫だと言うのか。
ギリギリ置き物が入るくらいの小さな穴である。どうやら本当に埋めるつもりらしい。顔を見合わせるぼくとロルフ。せっかくリオラお兄様がくれた物なのに、埋めてしまうのは気が引ける。そういうことをノエルに伝えてみるが、彼は「仕方がないですよ」と呆気なく言い放つ。
「だってそれは確実に良くない物ですからね」
良くない物ってなんだろうか。意味不明なのだが、ここで議論するのも面倒だ。ぼけっと眺めていれば、地面に放り出されていた置き物をノエルが引っ掴む。そのまま穴に捨ててしまうノエルは、再びスコップを握りしめた。パラパラと雑に土をかけていくノエル。
「ぼくの置き物」
あー、と小さく声をあげてみるが、ノエルは止まらない。ロルフの袖を引くと、彼は困ったように首をすくめている。
そうしてあっという間に置き物を埋めてしまったノエルは、満足そうに手を払う。
しかし埋め方が雑。置き物がちょっぴりどころか大胆に顔を覗かせている。不気味な光景だ。
「これでもう大丈夫ですよ!」
「はぁ、そうですか」
自信に満ちたノエル相手に、ぼくは戸惑いを隠せない。だが、これでノエルの暴走がおさまってくれればありがたい。ノエルが行動を起こすと、大事件に発展するのが原作小説での流れであるが、これくらいであれば大事件は起こらないだろう。置き物は、ノエルが帰宅した後にでも掘り起こそうと思う。幸い埋め方が雑なので、取り出すのは簡単なはず。ノエルの目に入らないところに隠しておこうと思う。これでこの件は一件落着するだろう。
「ノエルお兄さん。お部屋で遊びましょう」
これ以上ノエルが暴走する前にと、彼を部屋に戻す。「そうですね」と案外あっさりと頷いたノエルは、スコップを自分で小屋に戻すと屋敷に足を向けた。
※※※
その後、ノエルはいつも通りおとなしかった。
暴走は終わったらしい。よかった。
当面の間、ノエルの前であの置き物の話をするのはやめようと思う。またノエルが暴走しても困るからな。途端に落ち着いたノエルは、にこにこ笑顔でぼくの相手をしてくれる。
「リオラお兄様が、お喋りする鳥さんくれるって言いました」
「アル様って鳥がお好きなんですか?」
「はーい。好きです」
いつか一緒に空を飛びたいですと微笑むぼくに、ノエルは微妙な視線を注いでくる。その目は「無理」とでも言いたげだ。
「ノエルお兄さんは何が好きですか?」
「僕ですか? うーん、そうですね」
考え込むノエルは、やがて顔を上げると「小さい動物はなんでも好きです」と言った。
「犬とか猫とか。なんでも好きですよ」
「鳥さんも?」
「鳥はちょっとわからないです」
なんでだよ。
話にのってこないノエルは、「鳥と遊んだことないのでわかりません」と言葉を重ねる。真面目だなぁ。
「じゃあ、ぼくが鳥さん貰ったらノエルお兄さんにも紹介します」
「はい。よろしくお願いします」
鳥さんと遊べば、ノエルも鳥さんと仲良しになれると思う。
平和に遊ぶぼくとノエルの横で、ロルフはひとり窓の外に目をやっている。ちらちらと外を気にしているらしい。なんだか珍しい。ロルフは、基本的にぼくのことを凝視している。そんなに見なくてもいいだろと何度も文句を言いたくなった。
そんなロルフが、ぼくから目を離して外の様子を気にしている。
「ロルフ。どうしたの?」
気になってロルフに駆け寄ると、彼は窓の外を指差した。
「いえ。なんか庭が騒がしいので」
「さわがし? ざわざわ?」
ひょいと背伸びして外を覗いてみる。ノエルもとことこ寄ってくる。ロルフの言う通り、窓の外に騎士たちの姿が見える。なんだか慌ただしい空気を察知して、首を捻る。
「何かあったんですか?」
同じく首を捻るノエルと顔を見合わせる。あとでリオラお兄様にでも訊いてみよう。
「これくらい掘れば大丈夫でしょう」
一体何が大丈夫だと言うのか。
ギリギリ置き物が入るくらいの小さな穴である。どうやら本当に埋めるつもりらしい。顔を見合わせるぼくとロルフ。せっかくリオラお兄様がくれた物なのに、埋めてしまうのは気が引ける。そういうことをノエルに伝えてみるが、彼は「仕方がないですよ」と呆気なく言い放つ。
「だってそれは確実に良くない物ですからね」
良くない物ってなんだろうか。意味不明なのだが、ここで議論するのも面倒だ。ぼけっと眺めていれば、地面に放り出されていた置き物をノエルが引っ掴む。そのまま穴に捨ててしまうノエルは、再びスコップを握りしめた。パラパラと雑に土をかけていくノエル。
「ぼくの置き物」
あー、と小さく声をあげてみるが、ノエルは止まらない。ロルフの袖を引くと、彼は困ったように首をすくめている。
そうしてあっという間に置き物を埋めてしまったノエルは、満足そうに手を払う。
しかし埋め方が雑。置き物がちょっぴりどころか大胆に顔を覗かせている。不気味な光景だ。
「これでもう大丈夫ですよ!」
「はぁ、そうですか」
自信に満ちたノエル相手に、ぼくは戸惑いを隠せない。だが、これでノエルの暴走がおさまってくれればありがたい。ノエルが行動を起こすと、大事件に発展するのが原作小説での流れであるが、これくらいであれば大事件は起こらないだろう。置き物は、ノエルが帰宅した後にでも掘り起こそうと思う。幸い埋め方が雑なので、取り出すのは簡単なはず。ノエルの目に入らないところに隠しておこうと思う。これでこの件は一件落着するだろう。
「ノエルお兄さん。お部屋で遊びましょう」
これ以上ノエルが暴走する前にと、彼を部屋に戻す。「そうですね」と案外あっさりと頷いたノエルは、スコップを自分で小屋に戻すと屋敷に足を向けた。
※※※
その後、ノエルはいつも通りおとなしかった。
暴走は終わったらしい。よかった。
当面の間、ノエルの前であの置き物の話をするのはやめようと思う。またノエルが暴走しても困るからな。途端に落ち着いたノエルは、にこにこ笑顔でぼくの相手をしてくれる。
「リオラお兄様が、お喋りする鳥さんくれるって言いました」
「アル様って鳥がお好きなんですか?」
「はーい。好きです」
いつか一緒に空を飛びたいですと微笑むぼくに、ノエルは微妙な視線を注いでくる。その目は「無理」とでも言いたげだ。
「ノエルお兄さんは何が好きですか?」
「僕ですか? うーん、そうですね」
考え込むノエルは、やがて顔を上げると「小さい動物はなんでも好きです」と言った。
「犬とか猫とか。なんでも好きですよ」
「鳥さんも?」
「鳥はちょっとわからないです」
なんでだよ。
話にのってこないノエルは、「鳥と遊んだことないのでわかりません」と言葉を重ねる。真面目だなぁ。
「じゃあ、ぼくが鳥さん貰ったらノエルお兄さんにも紹介します」
「はい。よろしくお願いします」
鳥さんと遊べば、ノエルも鳥さんと仲良しになれると思う。
平和に遊ぶぼくとノエルの横で、ロルフはひとり窓の外に目をやっている。ちらちらと外を気にしているらしい。なんだか珍しい。ロルフは、基本的にぼくのことを凝視している。そんなに見なくてもいいだろと何度も文句を言いたくなった。
そんなロルフが、ぼくから目を離して外の様子を気にしている。
「ロルフ。どうしたの?」
気になってロルフに駆け寄ると、彼は窓の外を指差した。
「いえ。なんか庭が騒がしいので」
「さわがし? ざわざわ?」
ひょいと背伸びして外を覗いてみる。ノエルもとことこ寄ってくる。ロルフの言う通り、窓の外に騎士たちの姿が見える。なんだか慌ただしい空気を察知して、首を捻る。
「何かあったんですか?」
同じく首を捻るノエルと顔を見合わせる。あとでリオラお兄様にでも訊いてみよう。
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