悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
72 / 145

72 察してほしい

しおりを挟む
 ノエルとだらだらお喋りしていると、ぼくの部屋をノックする人物がいた。ロルフが素早く出迎える。やって来たのはリオラお兄様であった。

 お兄様がこの時間に顔を見せるのは珍しい。ぼくに何か用事がある時、お兄様はたいてい夕食の時間や就寝時間前にやってくる。ノエルと遊んでいる最中に邪魔をするなんて、お兄様らしくない。

 すかさずお兄様に駆け寄るぼくの傍で、ノエルも不思議そうな顔をしている。さっと立ち上がって、リオラお兄様と対面している。

「リオラお兄様。どうしました?」

 こてっと首を傾げるぼくに苦笑を返して、お兄様は室内を窺うかのように背伸びをする。その視線が、ノエルを捉えるなりちょっぴり困った色に染まる。

「ノエルお兄さんに用事ですか?」

 気を利かせて先に口を開けば、お兄様は頬を掻く。「用事ってほどでもないんだけど」と、妙に歯切れの悪いお兄様は、どうやらライアンに言われてノエルの確認に来たらしい。ノエルが目の前にいるので言葉を濁してはいるが、雰囲気でわかる。

 察しの良いぼくは、「今日のノエルお兄さん優しいでーす」とお兄様に教えてあげる。それを受けて、お兄様は「そうなんだ。それは良かった」と小さく笑う。

 この場で唯一、状況を理解していないノエルだけが困惑気味にきょろきょろしている。

 リオラお兄様としては、意地悪ノエルを確認したかったに違いない。はやくも帰りたそうにしていたお兄様は、けれども何かを思い出したらしく「あ」と声を上げた。

「アル」
「はーい」

 のんびりお返事するぼくに、お兄様は気まずそうに口ごもる。一体どうしたというのか。身構えていれば、リオラお兄様が「鳥のことなんだけど」と俯いてしまう。

 リオラお兄様に、でっかい鳥さんくださいとお願いしていた。しかし、それは無理だということで、お喋りする鳥さんで妥協したのが最近のこと。もしや、それもダメって言うつもりだろうか。しゅんと眉尻を下げるぼくに、お兄様は慌て始める。

「あ、いや。ちゃんと用意するよ。するけどさ」
「はい」
「インコじゃなくてもいいかい?」
「うーむ」

 それってお喋りしない鳥さんってことだろうか。それは嫌。でもあんまり我儘言うと、繊細なリオラお兄様が爆発する。それは絶対にダメ。

 返答を迷うぼくに、お兄様は「オウムでもいい?」と言葉を重ねてくる。

「オウムさん。喋る?」
「教えれば言葉を発するらしいよ」
「じゃあそれでもいいです。ぼくは鳥さんとお友達になりまぁす」

 頑張ると拳を振り上げるぼくに、何も状況を理解していないノエルがぱちぱちと適当な拍手をしてくる。

 目に見えて、安堵するお兄様。どうやらぼくに文句を言われるのではないかと心配していたらしい。ぼくはそこまで我儘じゃないのに。弟相手に遠慮し過ぎだと思う。

「あ、それ」

 帰り際、ぼくが飾った例の置き物を確認したお兄様が「気に入ってくれたの?」と嬉しそうに言った。

 本当は気に入っていないけど。お兄様の手前、大事にしてあげることにした。どう見ても新種の生き物みたいな妙な置き物なのだが、お兄様いわく鳥さんらしい。絶対に嘘だと思う。あれからロルフと顔を突き合わせて、うんうん考えたのだが、結局どこをどう見れば鳥という結論になるのかわからなかった。ロルフもぼくもお手上げ状態なのだ。

 地面の隅っこに追いやっていたのだが、今は棚の上に飾ってある。ちょっぴり怖いので、目があわないように少し横にズラしてあるけど。

「これね。可愛いでしょ?」
「……」
「アルが好きそうだなって思って」
「……ぼく。できれば可愛いものがいいです」
「うん? あれも可愛いだろう?」

 可愛くはない。
 だが、リオラお兄様の中ではあの化け物が可愛いに分類されるらしい。ぼくとは趣味が合わないな。それとなく伝えるのだが、お兄様は激ニブさん。まったく察してはくれないから困ったものだ。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

処理中です...