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72 察してほしい
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ノエルとだらだらお喋りしていると、ぼくの部屋をノックする人物がいた。ロルフが素早く出迎える。やって来たのはリオラお兄様であった。
お兄様がこの時間に顔を見せるのは珍しい。ぼくに何か用事がある時、お兄様はたいてい夕食の時間や就寝時間前にやってくる。ノエルと遊んでいる最中に邪魔をするなんて、お兄様らしくない。
すかさずお兄様に駆け寄るぼくの傍で、ノエルも不思議そうな顔をしている。さっと立ち上がって、リオラお兄様と対面している。
「リオラお兄様。どうしました?」
こてっと首を傾げるぼくに苦笑を返して、お兄様は室内を窺うかのように背伸びをする。その視線が、ノエルを捉えるなりちょっぴり困った色に染まる。
「ノエルお兄さんに用事ですか?」
気を利かせて先に口を開けば、お兄様は頬を掻く。「用事ってほどでもないんだけど」と、妙に歯切れの悪いお兄様は、どうやらライアンに言われてノエルの確認に来たらしい。ノエルが目の前にいるので言葉を濁してはいるが、雰囲気でわかる。
察しの良いぼくは、「今日のノエルお兄さん優しいでーす」とお兄様に教えてあげる。それを受けて、お兄様は「そうなんだ。それは良かった」と小さく笑う。
この場で唯一、状況を理解していないノエルだけが困惑気味にきょろきょろしている。
リオラお兄様としては、意地悪ノエルを確認したかったに違いない。はやくも帰りたそうにしていたお兄様は、けれども何かを思い出したらしく「あ」と声を上げた。
「アル」
「はーい」
のんびりお返事するぼくに、お兄様は気まずそうに口ごもる。一体どうしたというのか。身構えていれば、リオラお兄様が「鳥のことなんだけど」と俯いてしまう。
リオラお兄様に、でっかい鳥さんくださいとお願いしていた。しかし、それは無理だということで、お喋りする鳥さんで妥協したのが最近のこと。もしや、それもダメって言うつもりだろうか。しゅんと眉尻を下げるぼくに、お兄様は慌て始める。
「あ、いや。ちゃんと用意するよ。するけどさ」
「はい」
「インコじゃなくてもいいかい?」
「うーむ」
それってお喋りしない鳥さんってことだろうか。それは嫌。でもあんまり我儘言うと、繊細なリオラお兄様が爆発する。それは絶対にダメ。
返答を迷うぼくに、お兄様は「オウムでもいい?」と言葉を重ねてくる。
「オウムさん。喋る?」
「教えれば言葉を発するらしいよ」
「じゃあそれでもいいです。ぼくは鳥さんとお友達になりまぁす」
頑張ると拳を振り上げるぼくに、何も状況を理解していないノエルがぱちぱちと適当な拍手をしてくる。
目に見えて、安堵するお兄様。どうやらぼくに文句を言われるのではないかと心配していたらしい。ぼくはそこまで我儘じゃないのに。弟相手に遠慮し過ぎだと思う。
「あ、それ」
帰り際、ぼくが飾った例の置き物を確認したお兄様が「気に入ってくれたの?」と嬉しそうに言った。
本当は気に入っていないけど。お兄様の手前、大事にしてあげることにした。どう見ても新種の生き物みたいな妙な置き物なのだが、お兄様いわく鳥さんらしい。絶対に嘘だと思う。あれからロルフと顔を突き合わせて、うんうん考えたのだが、結局どこをどう見れば鳥という結論になるのかわからなかった。ロルフもぼくもお手上げ状態なのだ。
地面の隅っこに追いやっていたのだが、今は棚の上に飾ってある。ちょっぴり怖いので、目があわないように少し横にズラしてあるけど。
「これね。可愛いでしょ?」
「……」
「アルが好きそうだなって思って」
「……ぼく。できれば可愛いものがいいです」
「うん? あれも可愛いだろう?」
可愛くはない。
だが、リオラお兄様の中ではあの化け物が可愛いに分類されるらしい。ぼくとは趣味が合わないな。それとなく伝えるのだが、お兄様は激ニブさん。まったく察してはくれないから困ったものだ。
お兄様がこの時間に顔を見せるのは珍しい。ぼくに何か用事がある時、お兄様はたいてい夕食の時間や就寝時間前にやってくる。ノエルと遊んでいる最中に邪魔をするなんて、お兄様らしくない。
すかさずお兄様に駆け寄るぼくの傍で、ノエルも不思議そうな顔をしている。さっと立ち上がって、リオラお兄様と対面している。
「リオラお兄様。どうしました?」
こてっと首を傾げるぼくに苦笑を返して、お兄様は室内を窺うかのように背伸びをする。その視線が、ノエルを捉えるなりちょっぴり困った色に染まる。
「ノエルお兄さんに用事ですか?」
気を利かせて先に口を開けば、お兄様は頬を掻く。「用事ってほどでもないんだけど」と、妙に歯切れの悪いお兄様は、どうやらライアンに言われてノエルの確認に来たらしい。ノエルが目の前にいるので言葉を濁してはいるが、雰囲気でわかる。
察しの良いぼくは、「今日のノエルお兄さん優しいでーす」とお兄様に教えてあげる。それを受けて、お兄様は「そうなんだ。それは良かった」と小さく笑う。
この場で唯一、状況を理解していないノエルだけが困惑気味にきょろきょろしている。
リオラお兄様としては、意地悪ノエルを確認したかったに違いない。はやくも帰りたそうにしていたお兄様は、けれども何かを思い出したらしく「あ」と声を上げた。
「アル」
「はーい」
のんびりお返事するぼくに、お兄様は気まずそうに口ごもる。一体どうしたというのか。身構えていれば、リオラお兄様が「鳥のことなんだけど」と俯いてしまう。
リオラお兄様に、でっかい鳥さんくださいとお願いしていた。しかし、それは無理だということで、お喋りする鳥さんで妥協したのが最近のこと。もしや、それもダメって言うつもりだろうか。しゅんと眉尻を下げるぼくに、お兄様は慌て始める。
「あ、いや。ちゃんと用意するよ。するけどさ」
「はい」
「インコじゃなくてもいいかい?」
「うーむ」
それってお喋りしない鳥さんってことだろうか。それは嫌。でもあんまり我儘言うと、繊細なリオラお兄様が爆発する。それは絶対にダメ。
返答を迷うぼくに、お兄様は「オウムでもいい?」と言葉を重ねてくる。
「オウムさん。喋る?」
「教えれば言葉を発するらしいよ」
「じゃあそれでもいいです。ぼくは鳥さんとお友達になりまぁす」
頑張ると拳を振り上げるぼくに、何も状況を理解していないノエルがぱちぱちと適当な拍手をしてくる。
目に見えて、安堵するお兄様。どうやらぼくに文句を言われるのではないかと心配していたらしい。ぼくはそこまで我儘じゃないのに。弟相手に遠慮し過ぎだと思う。
「あ、それ」
帰り際、ぼくが飾った例の置き物を確認したお兄様が「気に入ってくれたの?」と嬉しそうに言った。
本当は気に入っていないけど。お兄様の手前、大事にしてあげることにした。どう見ても新種の生き物みたいな妙な置き物なのだが、お兄様いわく鳥さんらしい。絶対に嘘だと思う。あれからロルフと顔を突き合わせて、うんうん考えたのだが、結局どこをどう見れば鳥という結論になるのかわからなかった。ロルフもぼくもお手上げ状態なのだ。
地面の隅っこに追いやっていたのだが、今は棚の上に飾ってある。ちょっぴり怖いので、目があわないように少し横にズラしてあるけど。
「これね。可愛いでしょ?」
「……」
「アルが好きそうだなって思って」
「……ぼく。できれば可愛いものがいいです」
「うん? あれも可愛いだろう?」
可愛くはない。
だが、リオラお兄様の中ではあの化け物が可愛いに分類されるらしい。ぼくとは趣味が合わないな。それとなく伝えるのだが、お兄様は激ニブさん。まったく察してはくれないから困ったものだ。
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