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69 原因はぼく
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シャルお兄さんの憂鬱の原因はぼくかもしれない。
衝撃的な可能性を思い浮かべたぼくであったが、すぐに「まぁいいや」と開き直る。シャルお兄さんは大人だ。年齢は知らないが、確実にぼくより大人。
嫌なら嫌って言うだろう。五歳のぼくがそこまで気を使う必要はないと思う。
渋るお兄さんを引っ張りつつ、騎士棟へと向かう。訓練場で頑張っているらしい騎士たちの声が聞こえる距離までやってくると、シャルお兄さんが諦めたような顔になる。相変わらず目元は見えないけど、なんかこう諦めの雰囲気だ。
ピシッと背筋を伸ばして、お仕事モードになったお兄さん。休憩中とは違いシャキッとしている。
ぽかんと口を開けて観察していれば、シャルお兄さんが「ではここで」と、勝手にぼくとお別れしようとしてくる。慌ててそのズボンを握っておく。
ぼくはシャルお兄さんの仕事をお手伝いしに来たのに。まだ何もしていないこの状況で帰るわけにはいかない。
ふるふると首を左右に振って、控えめに拒否しておく。「困りましたね」と、前髪に手をやるシャルお兄さんは、けれども直前で思い直したのか、すぐに手を離してしまう。シャルお兄さんの目元が確認できるチャンスだったのに。残念。
「ライアンを知ってますか?」
肩を落としつつも、せっかく騎士棟まで足を運んだので知っている顔でも確認しておこう。「副団長ですよね。もちろん知っていますよ」と頷くシャルお兄さんは、やはり騎士団にお勤めらしい。そういえば、ライアンもシャルお兄さんのこと知ってたな。
「ライアンは優しい人です。ぼくのお話聞いてくれます」
ノエルの件でも、彼にはお世話になっている。これからもお世話になる予定だ。最初はリオラお兄様に敵対するちょっぴり悪い人かと身構えていたが、今のライアンは概ね優しいからぼくは満足。さすが主人公。心が広い。
「アル様、そろそろ戻りましょうよ」
今いいところなのに、ロルフが我儘言い始める。ロルフは、あまり騎士棟が好きではない。いや、正確にはぼくを騎士棟付近に近寄らせて、何かあるのが嫌なのだ。ぼくが怪我をすると、なんかロルフの責任みたいになってしまうから。それを知っているぼくは、ロルフのためにもあまり我儘を言ってはいけないと知っている。
そのため、本当は嫌だけど「はーい」と手をあげておく。シャルお兄さんは、仕事には真剣に取り組むタイプらしいから、放っておいても大丈夫な気がする。明らかに安堵するシャルお兄さんは、やっぱりぼくが原因で憂鬱だったらしい。
まぁ、ぼく五歳だし。お仕事の邪魔すると思われたのかも。
でもせっかくここまで来たから、ちょっと探検していくことにする。シャルお兄さんに手を振ってお別れしようとしたちょうどその時。
「団長! どこに行っていたんですか。探しましたよ」
ズカズカと寄ってきたライアンが、キリッと眉を吊り上げている。先程まで話題にしていた人物の登場に、ぼくは内心でびっくりしてしまう。だが、別にライアンの悪口言っていたわけでもないからビクビクする必要はないや。気持ちを切り替えて、「ライアン!」と挨拶しようとしたのだが、たった今発せられたライアンの言葉に「ん?」と動きを止める。
ライアンは今、シャルお兄さんに対して「団長」と声をかけた。
なんで? と考えて思い出した。そういえばライアンは、シャルお兄さんはガストン団長であると主張しているのだった。うっかり忘れていた。
「ライアン。シャルお兄さんはガストン団長ではないです」
控えめに訂正を試みるが、ライアンは苦笑するだけで改めない。なんて頑固な奴だ。代わりに、シャルお兄さんが大慌てしている。
「私は団長ではありません!」
きっぱり否定するシャルお兄さんのことを、ぼくは頑張って応援する。「がんばれー」とぶんぶん両手を振り回すぼくの邪魔をするのは、もちろんロルフだ。
「アル様。首を突っ込むのはやめておきましょうか」
「シャルお兄さんを応援しまぁす! お兄さん、がんばってください」
あわあわするロルフは、なぜかぼくの口を塞ぎにくる。君はぼくのお世話係さんなのだから、ぼくの味方をするべきだ。
衝撃的な可能性を思い浮かべたぼくであったが、すぐに「まぁいいや」と開き直る。シャルお兄さんは大人だ。年齢は知らないが、確実にぼくより大人。
嫌なら嫌って言うだろう。五歳のぼくがそこまで気を使う必要はないと思う。
渋るお兄さんを引っ張りつつ、騎士棟へと向かう。訓練場で頑張っているらしい騎士たちの声が聞こえる距離までやってくると、シャルお兄さんが諦めたような顔になる。相変わらず目元は見えないけど、なんかこう諦めの雰囲気だ。
ピシッと背筋を伸ばして、お仕事モードになったお兄さん。休憩中とは違いシャキッとしている。
ぽかんと口を開けて観察していれば、シャルお兄さんが「ではここで」と、勝手にぼくとお別れしようとしてくる。慌ててそのズボンを握っておく。
ぼくはシャルお兄さんの仕事をお手伝いしに来たのに。まだ何もしていないこの状況で帰るわけにはいかない。
ふるふると首を左右に振って、控えめに拒否しておく。「困りましたね」と、前髪に手をやるシャルお兄さんは、けれども直前で思い直したのか、すぐに手を離してしまう。シャルお兄さんの目元が確認できるチャンスだったのに。残念。
「ライアンを知ってますか?」
肩を落としつつも、せっかく騎士棟まで足を運んだので知っている顔でも確認しておこう。「副団長ですよね。もちろん知っていますよ」と頷くシャルお兄さんは、やはり騎士団にお勤めらしい。そういえば、ライアンもシャルお兄さんのこと知ってたな。
「ライアンは優しい人です。ぼくのお話聞いてくれます」
ノエルの件でも、彼にはお世話になっている。これからもお世話になる予定だ。最初はリオラお兄様に敵対するちょっぴり悪い人かと身構えていたが、今のライアンは概ね優しいからぼくは満足。さすが主人公。心が広い。
「アル様、そろそろ戻りましょうよ」
今いいところなのに、ロルフが我儘言い始める。ロルフは、あまり騎士棟が好きではない。いや、正確にはぼくを騎士棟付近に近寄らせて、何かあるのが嫌なのだ。ぼくが怪我をすると、なんかロルフの責任みたいになってしまうから。それを知っているぼくは、ロルフのためにもあまり我儘を言ってはいけないと知っている。
そのため、本当は嫌だけど「はーい」と手をあげておく。シャルお兄さんは、仕事には真剣に取り組むタイプらしいから、放っておいても大丈夫な気がする。明らかに安堵するシャルお兄さんは、やっぱりぼくが原因で憂鬱だったらしい。
まぁ、ぼく五歳だし。お仕事の邪魔すると思われたのかも。
でもせっかくここまで来たから、ちょっと探検していくことにする。シャルお兄さんに手を振ってお別れしようとしたちょうどその時。
「団長! どこに行っていたんですか。探しましたよ」
ズカズカと寄ってきたライアンが、キリッと眉を吊り上げている。先程まで話題にしていた人物の登場に、ぼくは内心でびっくりしてしまう。だが、別にライアンの悪口言っていたわけでもないからビクビクする必要はないや。気持ちを切り替えて、「ライアン!」と挨拶しようとしたのだが、たった今発せられたライアンの言葉に「ん?」と動きを止める。
ライアンは今、シャルお兄さんに対して「団長」と声をかけた。
なんで? と考えて思い出した。そういえばライアンは、シャルお兄さんはガストン団長であると主張しているのだった。うっかり忘れていた。
「ライアン。シャルお兄さんはガストン団長ではないです」
控えめに訂正を試みるが、ライアンは苦笑するだけで改めない。なんて頑固な奴だ。代わりに、シャルお兄さんが大慌てしている。
「私は団長ではありません!」
きっぱり否定するシャルお兄さんのことを、ぼくは頑張って応援する。「がんばれー」とぶんぶん両手を振り回すぼくの邪魔をするのは、もちろんロルフだ。
「アル様。首を突っ込むのはやめておきましょうか」
「シャルお兄さんを応援しまぁす! お兄さん、がんばってください」
あわあわするロルフは、なぜかぼくの口を塞ぎにくる。君はぼくのお世話係さんなのだから、ぼくの味方をするべきだ。
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