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66 お任せ

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「ノエルがふたり? なんで?」

 なんでって言われても。知らないよ。

 ノエル双子説について、ライアンと共に早速リオラお兄様へと報告してみる。部屋でぼけっとしていたリオラお兄様は、話を聞くなり疑いの目を向けてくる。だが、ライアンも一緒なので強く否定はできないらしい。お兄様は、ライアンのことが好きだから。

「そんなこと私に言われても」
「じゃあ誰に言えばいいの?」

 わからないよ、と首を捻るお兄様は、その視線を何度もライアンに向けている。どんだけライアンのことが好きなんだろうか。だが、ライアンもライアンで困った顔をしている。

「ノエルお兄さんは、雨の日は来ない。なのに今日は来ました。あれは偽ノエルお兄さんです」

 たどたどしく説明するぼく。背後では、ロルフが小声で「頑張ってください、アル様」と応援してくれている。ぼく、がんばる。

「偽……?」

 ぽかんとするお兄様は、「ノエルって雨の日来ないの?」とズレた質問をしてくる。

「うん。濡れるのが嫌だからって来ません。薄情者です」
「へ、へぇ。自由だね」

 若干頬を引き攣らせているリオラお兄様は、「うーん」と考え込む。しかし、すぐに顔を上げると「今日はアルと一緒に遊びたい気分だったんだよ」と言い放つ。なにそのお気楽な結論。ぼくだって、普通であれば気が変わって遊びに来たんだな、くらいに考える。でもそういう感じじゃないから困っているのだ。

「だからさ。雨の日に来たからって、別人だというのはちょっと強引じゃないかな?」
「だからぁ! ノエルお兄さん、意地悪なやつと優しいお兄さんのふたりでーす!」
「うん? どういうこと?」

 きょとんとするお兄様は、まったくぼくの話を理解してくれない。なぜ。ぼくが五歳だからか? ぼくってそんなに説明下手くそ?

 ちょっぴり悔しい気分になったぼくは、「お兄様!」と真っ向から勝負を挑む。ぼくの迫力にビビったらしい。ピシッと背筋を伸ばしている。

「ノエルお兄さんはふたりいるって、ライアンも言ってまぁす!」
「え、そうなの?」

 一気に注目を集めたライアンが、「えぇ、まぁ」と頬をかく。

「なんというか、性格がちょっと。あれは変わりすぎですよ」
「そうなの?」

 ライアンが口を開いた途端、真面目な顔で取り扱い始めるリオラお兄様。やっぱりライアンのこと好きなんだ。あわわとお兄様とライアンを見比べる。だが残念。ライアンはリッキーのことが好き。リオラお兄様、あわれぇ。

 ひとりでお兄様に同情していると、ロルフに肩を叩かれる。ハッと我にかえるぼく。いつの間にか、ロルフがぼくの隣に屈んでいる。

「ノエル様の件は、このままリオラ様と副団長に任せましょうよ」
「なんで? ぼくもお手伝いする」
「えー、面倒ですって。ここは騎士団に任せましょうよ」

 ね? とぼくの背中に手を添えるロルフ。考えた末に、ぼくはこくんと頷く。

 ここでぼくが粘っても、ロルフの言う通り何かできることがあるとは思えない。ここはお兄様にお任せしておこう。

 そうして、ロルフとふたりでお兄様の部屋を退出しようとしたところ、お兄様が「あ」と声をあげた。反射的に、足を止めて振り返る。

「アル。この間あげた鳥の置き物。あれ気に入った?」
「……鳥さん?」

 え、なにそれ。
 お兄様に鳥の置き物をもらったことなんてない。一体何の話だと聞き返そうとして、ひとつの可能性に思い至る。

 もしかして、ぼくが頑張って戦っていたあの置き物のこと?

 呆然とするぼくの横で、ロルフも口元を覆っている。「え、あれ鳥? え。鳥、鳥って何だっけ」と混乱している。

 あの置き物には、羽なんてなかったはず。くちばしもなかった気がするけど。え、あったっけ?

 お兄様のきらきらした目を前にして、ぼくは一生懸命考える。なにか言わないと。

「んっと。あの化け物、じゃなかった。鳥さん? 鳥さんは、えっと。今日遊びました」

 化け物? と怪訝な顔をするお兄様であったが、遊んだという言葉ににこにこ笑顔になった。

「そうかい。気に入ってくれてよかったよ」
「はーい。あの置き物よりもぼくの方が強いです」
「うん? 強いってなに」
「なんでもないです」

 ふるふると首を左右に振って誤魔化しておく。部屋に戻ったら、まずあの置き物を飾らないと。お兄様が悲しんでしまう。
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