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64 図々しい

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「その置き物に何の恨みが?」

 戻ってきたロルフは、置き物と必死に戦うぼくを見るなり眉を顰めた。特に恨みはないけど、なんだか不気味なので戦っただけ。ぼくの方が強いのだとアピールしておかないと。

 ぼくの奮闘を笑うノエルは、「いいぞ、アルくん」と焚き付けてくる。そんな無責任な振る舞いに、ロルフがちょっぴり嫌そうな顔をした。

 ロルフの後ろから入室してきたライアンも、怪訝な顔で佇んでいる。その真面目な視線は、ぼくとノエルを行ったり来たり。どうやらノエルの本性を見極めようとしているらしい。椅子でふんぞり返るノエルは、手ぶらのロルフを確認するなりやれやれと肩をすくめる。どうやらお茶菓子がないことに文句を言いたいらしい。なんて図々しい奴。

 しかし、お菓子はぼくも食べたい。思いついたぼくは、ロルフに「お茶」と主張してみる。ノエルお兄さんをおもてなしするべきと言えば、ロルフが慌てて部屋を出て行く。これでぼくもお菓子ゲットできる。作戦が上手くいってニヤニヤしていると、ノエルとバッチリ視線が合ってしまう。こほんと咳払いで誤魔化しておく。

 取り残されたライアンが、鋭い視線で腕を組む。なんだか監視されているようで居心地が悪い。まぁ、ライアンは正真正銘ノエルの監視をしに来たのだろうけど。

 ロルフのお茶を待つ間、ぼくはノエルの相手をしてあげる。意地悪お兄さんとはいえ、お客さんであることに変わりはないから。

「ノエルお兄さん。ぼくが遊んであげます」
「お構いなく」
「きらきらの石みる?」
「見ない」

 つれないノエルは、ぼくの提案をことごとく却下してくる。いつもの優しいノエルだったら、考えられない対応だ。

 ちらっとライアンの姿を確認して、枝を持つ。再び置き物に立ち向かえば、ノエルがくすくすと笑い出す。

 そうこうしているうちにロルフが戻ってきた。ぽいっと枝を放って席に戻ろうとするが、ノエルの上着が邪魔で座れない。

「ノエルお兄さん、これ邪魔です」

 片付けてとお願いすれば「適当に投げておいて」とやる気のない声が返ってくる。いいのか、そんなこと言って。ぼくは遠慮なく投げ捨てるぞ。

 椅子にかかっている上着をバサっと取って、ぺいっと床に放り投げる。ロルフが慌てて拾いに行く。その様子を見ていたノエルが、手を叩いて笑っている。こいつの笑いのツボがよく分からないな。

 ようやく椅子に座ってわくわくとお菓子を確認する。今日は焼き菓子。ちゃんとぼくとノエルの二人分ある。美味しそうな匂いににこにこしていれば、ノエルがテーブルに身を乗り出す。そうしておもむろに皿をふたつ取っていくと、当然のような顔で自分の前に置いた。

 は?

「……ノエルお兄さん」
「なに?」
「それ、ひとつはぼくのです」
「そうなの?」

 とぼけるノエルは、ぼくにお菓子を返す気配がない。なんだこいつ。ぎゅっと拳を握りしめて、ノエルに抗議する。「返してくださぁい!」と大声で主張するが、ノエルは涼しい顔である。どういう神経してんだ。

 ライアンに助けを求めれば、苦笑が返ってくる。ロルフも似たような反応だ。役に立たない。

 手を伸ばして、ノエルの前から皿を奪い返す。案外呆気なく取り返すことに成功した。ふんっと肩を怒らせるぼくに、ノエルは「何をそんなに怒ってるの?」と小馬鹿にするような笑みを投げてくる。

「ノエルお兄さん、ぼくに意地悪しないでください。ぼくは悲しい。悲しくて泣いちゃいます」
「知らないよ。僕がいつ意地悪なんてしたよ」
「今もぼくのお菓子とりました!」
「とってないよ。皿をこっちに置いただけじゃん。いちいち大袈裟」

 はぁ!?
 肩をすくめるノエルは、ぼくがおかしなことを言っているみたいな態度をみせる。

「許せないです。ぼくに謝ってください」
「食べないの?」
「食べまぁす!」

 さっと焼き菓子を手に取って頬張る。もぐもぐするぼくは、いつかノエルに勝てるようにと頭の中で作戦を練るのであった。
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