62 / 94
62 置き物
しおりを挟む
ポツポツと雨粒が窓にあたって音を立てる。
今日も外で遊ぼうと思っていたのに、残念ながら雨が降ってきた。
真っ黒な空を見上げながら、ぼくは窓に手を伸ばす。鍵を開けようと奮闘していれば、横からロルフが「開けたらダメですよ」と口を挟んでくる。
「なんで?」
「部屋が濡れるじゃないですか」
「お部屋で水遊び」
「絶対にダメです」
ぼくを抱えて窓から遠ざけるロルフは、「今日はお部屋で遊びましょうね」と言ってくる。部屋でやることなんて皆無のぼくは、暇潰しにロルフの後ろをひたすらついていく。それに気が付いたらしいロルフは、無意味に部屋を歩き回っている。「え、ついてくる。可愛い」と呟きながら、楽しそうに歩いている。
「ロルフ。あとでここも片付けてくださぁい」
背の低い棚の上を示せば、ロルフが不思議そうに「いいですけど」と言ってくれる。棚の上には、ぼくが適当に並べた物が散乱している。きらきらの石とか、庭で拾ったいい感じの枝とか、リオラお兄様にもらった変な置き物とか。
「全部片付ける。手伝って」
「はいはい。でもなんで急に」
それは雨で暇だからだ。
それに、この低い棚はぼくの身長でも手が届くから使いやすい。なのでついついここに色々飾ってしまうのだ。
「もうすぐリオラお兄様がお喋りする鳥さんくれます。ここで飼うの」
「あぁ、ここで鳥を」
しばし動きを止めるロルフは、「え、本当に飼うんですか?」と首を捻る。なんでぼくが嘘を吐かないといけないのだ。リオラお兄様は約束守ってくれるもん。
「もう準備するんですか? 気がはやくないですか?」
「そんなことない。リオラお兄様はテキパキしてます」
「してますか?」
「うん」
こくこく頷くが、ロルフは疑いの表情だ。そんなにリオラお兄様のことが信用できないのだろうか。不思議。
とりあえず飾っていたきらきらの石を引き出しに押し込む。リオラお兄様にもらった変な置き物は、迷った末に壁際の床にそっと置いてみた。犬のような猫のような、見方によっては熊に見えなくもない不思議な置き物。「アル、こういうの好きでしょ?」と笑顔で持ってきてくれたのだが、ぼくはこういう物が好きと言った覚えはない。微妙に不機嫌そうな顔をしているその置き物を、思い直して部屋の端っこに移動させる。目が合うのもちょっぴり怖いので後ろ向きに。
「なんでそんなところに。気に入らないんですか?」
ロルフが寄ってきたので、小さく頷いておく。
「ロルフは、これなんだと思う?」
「……猫、いや。えっと羊?」
「羊は違うと思う」
「すみません」
もこもこじゃないから、絶対に羊ではない。
正体不明の生き物を前に、ロルフと顔を見合わせる。お兄様は、一体どこでこういう物を入手してくるのか。ぼくは、訳の分からない置き物は好きじゃないのに。
片付けに戻るぼくの横で、ロルフが置き物を拾い上げている。どこかに飾るつもりらしい。きょろきょろと視線が彷徨っている。
次に枝を手に取って、ぶんぶんと上下に振る。「危ないですよ」とロルフが声をかけてくるが、それどころではない。なんだか楽しくなってきたぼくは、枝を片手にロルフに近寄る。
「見て、ロルフ。すごくいい枝」
どうだと掲げれば、ロルフは「さすがアル様! かっこいいですね!」と褒めてくれる。これは大事な物なので、戸棚の中に押し込んでおく。
そうして綺麗になった棚を前にして、満足する。
「鳥さんのお名前考える。ロルフは何がいいと思う?」
「うーん」
実際に見てみないと分からないと言うロルフは慎重だ。でも一理ある。ちらっと窓の外に目を遣る。
「雨」
「そうですね、雨ですね」
「お庭の虫さんを見に行く」
「ダメですって」
たたっと駆け出すぼくの前に立ち塞がるロルフは、強敵だった。今日はノエルも来ないだろうし、暇で仕方がない。
雨が降ると、ノエルは来ない。きっと濡れるのが嫌とかいう理由だと思う。ノエルは優しく見えて、意外と薄情者だ。見捨てられたぼく、可哀想。
「ノエルお兄さん、薄情者」
苦笑を返してくるロルフは、ぼくの言葉を否定しなかった。
今日も外で遊ぼうと思っていたのに、残念ながら雨が降ってきた。
真っ黒な空を見上げながら、ぼくは窓に手を伸ばす。鍵を開けようと奮闘していれば、横からロルフが「開けたらダメですよ」と口を挟んでくる。
「なんで?」
「部屋が濡れるじゃないですか」
「お部屋で水遊び」
「絶対にダメです」
ぼくを抱えて窓から遠ざけるロルフは、「今日はお部屋で遊びましょうね」と言ってくる。部屋でやることなんて皆無のぼくは、暇潰しにロルフの後ろをひたすらついていく。それに気が付いたらしいロルフは、無意味に部屋を歩き回っている。「え、ついてくる。可愛い」と呟きながら、楽しそうに歩いている。
「ロルフ。あとでここも片付けてくださぁい」
背の低い棚の上を示せば、ロルフが不思議そうに「いいですけど」と言ってくれる。棚の上には、ぼくが適当に並べた物が散乱している。きらきらの石とか、庭で拾ったいい感じの枝とか、リオラお兄様にもらった変な置き物とか。
「全部片付ける。手伝って」
「はいはい。でもなんで急に」
それは雨で暇だからだ。
それに、この低い棚はぼくの身長でも手が届くから使いやすい。なのでついついここに色々飾ってしまうのだ。
「もうすぐリオラお兄様がお喋りする鳥さんくれます。ここで飼うの」
「あぁ、ここで鳥を」
しばし動きを止めるロルフは、「え、本当に飼うんですか?」と首を捻る。なんでぼくが嘘を吐かないといけないのだ。リオラお兄様は約束守ってくれるもん。
「もう準備するんですか? 気がはやくないですか?」
「そんなことない。リオラお兄様はテキパキしてます」
「してますか?」
「うん」
こくこく頷くが、ロルフは疑いの表情だ。そんなにリオラお兄様のことが信用できないのだろうか。不思議。
とりあえず飾っていたきらきらの石を引き出しに押し込む。リオラお兄様にもらった変な置き物は、迷った末に壁際の床にそっと置いてみた。犬のような猫のような、見方によっては熊に見えなくもない不思議な置き物。「アル、こういうの好きでしょ?」と笑顔で持ってきてくれたのだが、ぼくはこういう物が好きと言った覚えはない。微妙に不機嫌そうな顔をしているその置き物を、思い直して部屋の端っこに移動させる。目が合うのもちょっぴり怖いので後ろ向きに。
「なんでそんなところに。気に入らないんですか?」
ロルフが寄ってきたので、小さく頷いておく。
「ロルフは、これなんだと思う?」
「……猫、いや。えっと羊?」
「羊は違うと思う」
「すみません」
もこもこじゃないから、絶対に羊ではない。
正体不明の生き物を前に、ロルフと顔を見合わせる。お兄様は、一体どこでこういう物を入手してくるのか。ぼくは、訳の分からない置き物は好きじゃないのに。
片付けに戻るぼくの横で、ロルフが置き物を拾い上げている。どこかに飾るつもりらしい。きょろきょろと視線が彷徨っている。
次に枝を手に取って、ぶんぶんと上下に振る。「危ないですよ」とロルフが声をかけてくるが、それどころではない。なんだか楽しくなってきたぼくは、枝を片手にロルフに近寄る。
「見て、ロルフ。すごくいい枝」
どうだと掲げれば、ロルフは「さすがアル様! かっこいいですね!」と褒めてくれる。これは大事な物なので、戸棚の中に押し込んでおく。
そうして綺麗になった棚を前にして、満足する。
「鳥さんのお名前考える。ロルフは何がいいと思う?」
「うーん」
実際に見てみないと分からないと言うロルフは慎重だ。でも一理ある。ちらっと窓の外に目を遣る。
「雨」
「そうですね、雨ですね」
「お庭の虫さんを見に行く」
「ダメですって」
たたっと駆け出すぼくの前に立ち塞がるロルフは、強敵だった。今日はノエルも来ないだろうし、暇で仕方がない。
雨が降ると、ノエルは来ない。きっと濡れるのが嫌とかいう理由だと思う。ノエルは優しく見えて、意外と薄情者だ。見捨てられたぼく、可哀想。
「ノエルお兄さん、薄情者」
苦笑を返してくるロルフは、ぼくの言葉を否定しなかった。
818
お気に入りに追加
2,323
あなたにおすすめの小説
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
兄たちが溺愛するのは当たり前だと思ってました
不知火
BL
温かい家族に包まれた1人の男の子のお話
爵位などを使った設定がありますが、わたしの知識不足で実際とは異なった表現を使用している場合がございます。ご了承ください。追々、しっかり事実に沿った設定に変更していきたいと思います。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!
ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。
弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。
後にBLに発展します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる