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62 置き物
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ポツポツと雨粒が窓にあたって音を立てる。
今日も外で遊ぼうと思っていたのに、残念ながら雨が降ってきた。
真っ黒な空を見上げながら、ぼくは窓に手を伸ばす。鍵を開けようと奮闘していれば、横からロルフが「開けたらダメですよ」と口を挟んでくる。
「なんで?」
「部屋が濡れるじゃないですか」
「お部屋で水遊び」
「絶対にダメです」
ぼくを抱えて窓から遠ざけるロルフは、「今日はお部屋で遊びましょうね」と言ってくる。部屋でやることなんて皆無のぼくは、暇潰しにロルフの後ろをひたすらついていく。それに気が付いたらしいロルフは、無意味に部屋を歩き回っている。「え、ついてくる。可愛い」と呟きながら、楽しそうに歩いている。
「ロルフ。あとでここも片付けてくださぁい」
背の低い棚の上を示せば、ロルフが不思議そうに「いいですけど」と言ってくれる。棚の上には、ぼくが適当に並べた物が散乱している。きらきらの石とか、庭で拾ったいい感じの枝とか、リオラお兄様にもらった変な置き物とか。
「全部片付ける。手伝って」
「はいはい。でもなんで急に」
それは雨で暇だからだ。
それに、この低い棚はぼくの身長でも手が届くから使いやすい。なのでついついここに色々飾ってしまうのだ。
「もうすぐリオラお兄様がお喋りする鳥さんくれます。ここで飼うの」
「あぁ、ここで鳥を」
しばし動きを止めるロルフは、「え、本当に飼うんですか?」と首を捻る。なんでぼくが嘘を吐かないといけないのだ。リオラお兄様は約束守ってくれるもん。
「もう準備するんですか? 気がはやくないですか?」
「そんなことない。リオラお兄様はテキパキしてます」
「してますか?」
「うん」
こくこく頷くが、ロルフは疑いの表情だ。そんなにリオラお兄様のことが信用できないのだろうか。不思議。
とりあえず飾っていたきらきらの石を引き出しに押し込む。リオラお兄様にもらった変な置き物は、迷った末に壁際の床にそっと置いてみた。犬のような猫のような、見方によっては熊に見えなくもない不思議な置き物。「アル、こういうの好きでしょ?」と笑顔で持ってきてくれたのだが、ぼくはこういう物が好きと言った覚えはない。微妙に不機嫌そうな顔をしているその置き物を、思い直して部屋の端っこに移動させる。目が合うのもちょっぴり怖いので後ろ向きに。
「なんでそんなところに。気に入らないんですか?」
ロルフが寄ってきたので、小さく頷いておく。
「ロルフは、これなんだと思う?」
「……猫、いや。えっと羊?」
「羊は違うと思う」
「すみません」
もこもこじゃないから、絶対に羊ではない。
正体不明の生き物を前に、ロルフと顔を見合わせる。お兄様は、一体どこでこういう物を入手してくるのか。ぼくは、訳の分からない置き物は好きじゃないのに。
片付けに戻るぼくの横で、ロルフが置き物を拾い上げている。どこかに飾るつもりらしい。きょろきょろと視線が彷徨っている。
次に枝を手に取って、ぶんぶんと上下に振る。「危ないですよ」とロルフが声をかけてくるが、それどころではない。なんだか楽しくなってきたぼくは、枝を片手にロルフに近寄る。
「見て、ロルフ。すごくいい枝」
どうだと掲げれば、ロルフは「さすがアル様! かっこいいですね!」と褒めてくれる。これは大事な物なので、戸棚の中に押し込んでおく。
そうして綺麗になった棚を前にして、満足する。
「鳥さんのお名前考える。ロルフは何がいいと思う?」
「うーん」
実際に見てみないと分からないと言うロルフは慎重だ。でも一理ある。ちらっと窓の外に目を遣る。
「雨」
「そうですね、雨ですね」
「お庭の虫さんを見に行く」
「ダメですって」
たたっと駆け出すぼくの前に立ち塞がるロルフは、強敵だった。今日はノエルも来ないだろうし、暇で仕方がない。
雨が降ると、ノエルは来ない。きっと濡れるのが嫌とかいう理由だと思う。ノエルは優しく見えて、意外と薄情者だ。見捨てられたぼく、可哀想。
「ノエルお兄さん、薄情者」
苦笑を返してくるロルフは、ぼくの言葉を否定しなかった。
今日も外で遊ぼうと思っていたのに、残念ながら雨が降ってきた。
真っ黒な空を見上げながら、ぼくは窓に手を伸ばす。鍵を開けようと奮闘していれば、横からロルフが「開けたらダメですよ」と口を挟んでくる。
「なんで?」
「部屋が濡れるじゃないですか」
「お部屋で水遊び」
「絶対にダメです」
ぼくを抱えて窓から遠ざけるロルフは、「今日はお部屋で遊びましょうね」と言ってくる。部屋でやることなんて皆無のぼくは、暇潰しにロルフの後ろをひたすらついていく。それに気が付いたらしいロルフは、無意味に部屋を歩き回っている。「え、ついてくる。可愛い」と呟きながら、楽しそうに歩いている。
「ロルフ。あとでここも片付けてくださぁい」
背の低い棚の上を示せば、ロルフが不思議そうに「いいですけど」と言ってくれる。棚の上には、ぼくが適当に並べた物が散乱している。きらきらの石とか、庭で拾ったいい感じの枝とか、リオラお兄様にもらった変な置き物とか。
「全部片付ける。手伝って」
「はいはい。でもなんで急に」
それは雨で暇だからだ。
それに、この低い棚はぼくの身長でも手が届くから使いやすい。なのでついついここに色々飾ってしまうのだ。
「もうすぐリオラお兄様がお喋りする鳥さんくれます。ここで飼うの」
「あぁ、ここで鳥を」
しばし動きを止めるロルフは、「え、本当に飼うんですか?」と首を捻る。なんでぼくが嘘を吐かないといけないのだ。リオラお兄様は約束守ってくれるもん。
「もう準備するんですか? 気がはやくないですか?」
「そんなことない。リオラお兄様はテキパキしてます」
「してますか?」
「うん」
こくこく頷くが、ロルフは疑いの表情だ。そんなにリオラお兄様のことが信用できないのだろうか。不思議。
とりあえず飾っていたきらきらの石を引き出しに押し込む。リオラお兄様にもらった変な置き物は、迷った末に壁際の床にそっと置いてみた。犬のような猫のような、見方によっては熊に見えなくもない不思議な置き物。「アル、こういうの好きでしょ?」と笑顔で持ってきてくれたのだが、ぼくはこういう物が好きと言った覚えはない。微妙に不機嫌そうな顔をしているその置き物を、思い直して部屋の端っこに移動させる。目が合うのもちょっぴり怖いので後ろ向きに。
「なんでそんなところに。気に入らないんですか?」
ロルフが寄ってきたので、小さく頷いておく。
「ロルフは、これなんだと思う?」
「……猫、いや。えっと羊?」
「羊は違うと思う」
「すみません」
もこもこじゃないから、絶対に羊ではない。
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片付けに戻るぼくの横で、ロルフが置き物を拾い上げている。どこかに飾るつもりらしい。きょろきょろと視線が彷徨っている。
次に枝を手に取って、ぶんぶんと上下に振る。「危ないですよ」とロルフが声をかけてくるが、それどころではない。なんだか楽しくなってきたぼくは、枝を片手にロルフに近寄る。
「見て、ロルフ。すごくいい枝」
どうだと掲げれば、ロルフは「さすがアル様! かっこいいですね!」と褒めてくれる。これは大事な物なので、戸棚の中に押し込んでおく。
そうして綺麗になった棚を前にして、満足する。
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「うーん」
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「雨」
「そうですね、雨ですね」
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