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「ジョナスのこと嫌いなの?」
「そういうわけでは」
ぼくを部屋に運んだロルフは、歯切れ悪く頬を掻く。なんだか有耶無耶にされてしまいそうな雰囲気だ。
「ぼくはジョナス好き」
色っぽくて、原作を読んだ頃から結構好きだった。ありのままの気持ちをポロッとこぼしただけなのに、ロルフは大袈裟に肩を揺らす。
「俺はどうなるんですか!?」
またもや意味不明なことを口走るロルフに、ぼくは口元を覆う。どうなるって何? ぼくに訊かれても困る。何がどうなるって言うんだよ。
うーんと考えた末に「大丈夫。ロルフは大丈夫」と答えておくことにする。何が大丈夫なのか、自分でもわからないが、今はとにかくロルフに話を合わせておこうと思う。きっと深入りすると面倒だから。
だいじょーぶです! と両手をあげて勢いで誤魔化す。
「大丈夫ってなんですか! 俺はダメってことですか!?」
「むぅ」
ロルフの言葉が理解できない。思わず頬を膨らませれば、ロルフが大袈裟に膝をついて顔を覆ってしまう。よくわからないが、絶望しているらしい。
「ロルフ絶望」
「アル様がひどい」
シクシクと泣き真似のようなことをするロルフは「俺よりもジョナスさんの方がいいってことですか」と悲しい顔をしている。
それを聞いて、理解した。
どうやらぼくが、ロルフよりもジョナスのことを大事にしていると思い込んで絶望しているらしい。そんなつもりはない。ジョナスのことは好きだけど、それってつまり原作小説でお気に入りだったキャラに会えてテンション上がっただけである。そこまで深い意味はない。
けれども、当然ぼくの前世なんか知らないロルフは、ぼくの好きの意味を誤解したのだろう。普通にぼくが悪かった。
急いでロルフの背中をぽんぽん叩く。
「んっと。ジョナスも好き。ロルフも好き。みんな好き」
ジョナス好きって言葉に深い意味はないのだとアピールすれば、ロルフがようやくぼくの顔を見た。
「ロルフ泣かないで」
「アル様……!」
何やら感極まったロルフが、ぼくの手を取る。そのままぶんぶんと上下に振るロルフは「アル様優しい! さすがアル様!」とひとりでハイテンションになる。先程まで落ち込みモードだったのに。忙しい人だな。
やんわりとロルフから手を離して、距離を取る。
そうして戸棚まで走ったぼくは、お目当ての物を探し出す。
「ロルフにも、きらきらの石あげる。仲良しだから」
「いいんですか!?」
前のめりのロルフに、適当に引っ張り出してきた石を渡してあげる。この間は、石なんていらないと言っていたロルフだが、今日は欲しいらしい。コロコロと気分が変わりすぎだと思う。「石好きなの?」と問いかければ、「いえ。石が好きなわけじゃないです」との返答。
え? やっぱり好きじゃないの?
なんだそれ。ムスッとするぼくは、「返して」と手を差し出す。それに慌てるロルフは「嫌ですよ。もう俺の物です」と強情だ。こいつは一体なにがしたいのか。必要ない石をもらっても、嬉しくなんてないだろうに。
考えるぼくに、ロルフは「アル様がくれた物ならなんだって嬉しいです」と、ニヤニヤ顔で答えをよこす。
その予想外の言葉に、目を瞬く。
要するに、ぼくからのプレゼントが嬉しいということだ。それが特に好きでもない石だったとしても。
そんなことを言われてしまうと面食らう。石をあげたことを申し訳なく思ってしまう。もっと良い物あげればよかったかも。
でも良い物ってなんだろうか。きらきらの石がダメとなると、ぼくは途端に選択肢をなくしてしまう。きらきらよりも良い物が思い浮かばない。お菓子とか? 鳥さんとか?
「……ロルフ。ぼく、ロルフのことも好き」
「本当ですか!?」
「うん。ロルフは優しいから好きです」
いつもぼくと遊んでくれるし、真剣に話を聞いてくれる。にこにこ笑うぼくに、ロルフも石を大事そうに握ってにこにこしていた。
「そういうわけでは」
ぼくを部屋に運んだロルフは、歯切れ悪く頬を掻く。なんだか有耶無耶にされてしまいそうな雰囲気だ。
「ぼくはジョナス好き」
色っぽくて、原作を読んだ頃から結構好きだった。ありのままの気持ちをポロッとこぼしただけなのに、ロルフは大袈裟に肩を揺らす。
「俺はどうなるんですか!?」
またもや意味不明なことを口走るロルフに、ぼくは口元を覆う。どうなるって何? ぼくに訊かれても困る。何がどうなるって言うんだよ。
うーんと考えた末に「大丈夫。ロルフは大丈夫」と答えておくことにする。何が大丈夫なのか、自分でもわからないが、今はとにかくロルフに話を合わせておこうと思う。きっと深入りすると面倒だから。
だいじょーぶです! と両手をあげて勢いで誤魔化す。
「大丈夫ってなんですか! 俺はダメってことですか!?」
「むぅ」
ロルフの言葉が理解できない。思わず頬を膨らませれば、ロルフが大袈裟に膝をついて顔を覆ってしまう。よくわからないが、絶望しているらしい。
「ロルフ絶望」
「アル様がひどい」
シクシクと泣き真似のようなことをするロルフは「俺よりもジョナスさんの方がいいってことですか」と悲しい顔をしている。
それを聞いて、理解した。
どうやらぼくが、ロルフよりもジョナスのことを大事にしていると思い込んで絶望しているらしい。そんなつもりはない。ジョナスのことは好きだけど、それってつまり原作小説でお気に入りだったキャラに会えてテンション上がっただけである。そこまで深い意味はない。
けれども、当然ぼくの前世なんか知らないロルフは、ぼくの好きの意味を誤解したのだろう。普通にぼくが悪かった。
急いでロルフの背中をぽんぽん叩く。
「んっと。ジョナスも好き。ロルフも好き。みんな好き」
ジョナス好きって言葉に深い意味はないのだとアピールすれば、ロルフがようやくぼくの顔を見た。
「ロルフ泣かないで」
「アル様……!」
何やら感極まったロルフが、ぼくの手を取る。そのままぶんぶんと上下に振るロルフは「アル様優しい! さすがアル様!」とひとりでハイテンションになる。先程まで落ち込みモードだったのに。忙しい人だな。
やんわりとロルフから手を離して、距離を取る。
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「ロルフにも、きらきらの石あげる。仲良しだから」
「いいんですか!?」
前のめりのロルフに、適当に引っ張り出してきた石を渡してあげる。この間は、石なんていらないと言っていたロルフだが、今日は欲しいらしい。コロコロと気分が変わりすぎだと思う。「石好きなの?」と問いかければ、「いえ。石が好きなわけじゃないです」との返答。
え? やっぱり好きじゃないの?
なんだそれ。ムスッとするぼくは、「返して」と手を差し出す。それに慌てるロルフは「嫌ですよ。もう俺の物です」と強情だ。こいつは一体なにがしたいのか。必要ない石をもらっても、嬉しくなんてないだろうに。
考えるぼくに、ロルフは「アル様がくれた物ならなんだって嬉しいです」と、ニヤニヤ顔で答えをよこす。
その予想外の言葉に、目を瞬く。
要するに、ぼくからのプレゼントが嬉しいということだ。それが特に好きでもない石だったとしても。
そんなことを言われてしまうと面食らう。石をあげたことを申し訳なく思ってしまう。もっと良い物あげればよかったかも。
でも良い物ってなんだろうか。きらきらの石がダメとなると、ぼくは途端に選択肢をなくしてしまう。きらきらよりも良い物が思い浮かばない。お菓子とか? 鳥さんとか?
「……ロルフ。ぼく、ロルフのことも好き」
「本当ですか!?」
「うん。ロルフは優しいから好きです」
いつもぼくと遊んでくれるし、真剣に話を聞いてくれる。にこにこ笑うぼくに、ロルフも石を大事そうに握ってにこにこしていた。
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