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58 嫌いなの?

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 ライアンは、すぐに戻ってきた。ついでにノエルも戻ってきた。手ぶらで帰ってきたノエルは、ぼくが捕まえたダンゴムシを見るなり「すごいですね」と、にこにこしている。

「アル様の勝ちですね」

 なんだろう。すごく忖度されている気がする。
 わざとらしい拍手をしてくるノエルに、ぼくのやる気が萎んでしまう。もっと真剣に遊んでほしい。

 パンパンと手を払って、ノエルの隣に並ぶ。じっとノエルのことを観察しているライアンは、警戒しているらしい。でも今日のノエルは優しいお兄さんだからな。警戒しても無意味だと思う。

「ノエルお兄さん。本当に双子じゃないですか?」
「この間からどうしたんです? 僕に兄弟はいませんよ」

 不思議そうに首を傾げるノエルに、ライアンが腕を組む。捕まえたダンゴムシを全部花壇に逃してやれば、ノエルが「手を洗いましょうか」と背中を押してくる。

 渋々手を洗うぼく。ロルフが用意してくれたハンカチで手を拭いて、ふと顔を上げる。難しい顔でノエルを観察するライアン。ノエルはその視線に気が付いていないみたいだけど。

「ライアン」
「なんですか、アル様」

 ちょいちょいと袖を引けば、ライアンが腰を屈めてくれる。

「ジョナスどこですか?」
「ジョナス? なんでまた」

 予想外の名前に面食らったライアンは、「彼に何の用が?」と問いかけてくる。

「ジョナスと遊ぶ約束しました。いつ遊べますか?」
「ジョナスとですか」

 片眉を持ち上げるライアンは、「あいつがそんなことを?」と、不思議そうにしている。どうやらジョナスがぼくと遊ぶ約束をしたことが信じられないらしい。まぁ、ジョナスは子供好きっていうイメージはないよな。中性的な雰囲気で、大人っぽい。無邪気に子供と遊ぶような人ではないだろう。どちらかといえば、物静かで子供の相手が苦手そうだ。

「ノエルお兄さんにも紹介してあげます。ジョナスのこと」
「誰ですか?」
「リオラお兄様の護衛の騎士さん」
「へー」

 騎士と聞くなり、ノエルがわかりやすく興味を失った。この前ライアンを紹介した時もそうだったけど、ノエルはあまり騎士に興味がないようだ。興味ないというか、一線を引いているというか。ノエルも一応は貴族のお坊ちゃんだからね。

「ジョナス、いい人」

 とりあえずいい人アピールをしておく。
 だってジョナスと遊びたいから。

「ジョナスのところへ行きまぁす」

 ビシッと右手をあげて宣言すれば、ノエルとライアンが「え?」と声を揃えた。ロルフも半眼で不満そう。みんな、なんでそんなにジョナスのことを避けるのか。楽しいお兄さんなのに。

 ノエルの手を取って、騎士棟目指して駆け出す。だが、彼はリオラお兄様の護衛さんなので、もしかしたらリオラお兄様の部屋にいる可能性もある。やっぱりお兄様の部屋に行こうとくるっと方向転換するぼくに、ノエルがたたらを踏む。

「ジョナスどこですか?」

 ライアンを見上げると、彼は眉をちょっぴり寄せて嫌そうな様子だ。そんなにぼくをジョナスに会わせたくないのか? なんで?

 ノエルと手を繋いだまま、片手でライアンをつつく。ジョナスの居場所を教えるんだ。「ジョナスどこ」と繰り返すぼくに、ライアンが苦い顔をする。

「お兄様の部屋?」
「うーん」

 唸るライアンは、「そうかもしれませんね」と煮え切らない返事。

「ライアンはジョナスのこと嫌いですか?」

 ジョナスの名前が出た途端にみんな挙動がおかしくなる。もしかして嫌われているのかと不思議に思うぼくに、ライアンは「そういうわけでは」と苦笑する。

「ジョナスはちょっと」
「ちょっと?」

 ちょっとなんだ。
 はっきり言ってよ。

 言葉を濁すライアンは、「今日は俺と遊びましょうか」と愉快な提案をしてくる。なるほど。もしかしてライアン、ぼくと一緒に遊びたかったのかな。それでジョナスのところへ案内するのを渋っていたのだろう。

「いいですよ。じゃあライアンも一緒に遊びます」

 いいよね? とノエルに確認すれば「もちろんいいですよ」と即答。そうと決まれば早速遊ぶ。ロルフも手招きして、ぼくは勢いよく駆け出した。
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