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57 虫さん
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「今日はどちらのノエル様ですか?」
庭で一生懸命に虫さんを探していた時である。今日のノエルは優しいお兄さんだったので、試しに虫さん探して遊びたいと伝えたところ、ふたつ返事で「いいですよ」と返ってきた。
せっかくだからまた勝負しようとの提案にも、ノエルは即座に頷いた。そうしてノエルと別れて庭を彷徨っていたら、ライアンが姿を見せた。
どうやら先日のぼくの報告を気にしてくれているらしい。ぼくと一緒になって花壇を凝視していたロルフに、こそっと訊ねている。
「今日は普通にノエル様ですよ」
「普通って?」
「えっと、だから。普通に評判通りの優しいノエル様です」
「そうか」
肩透かしをくらったかのように佇むライアンは、ぼくの隣に屈み込んで「なにを?」と小首を傾げる。
「虫さんを探しています。ノエルお兄さんと勝負しています」
「へぇ、なんだか楽しそうですね」
にこっと笑うライアンに、ぼくは顔を上げる。えっと。もしかしてライアンも誘ってほしいのか?
気の利くぼくは「ライアンも仲間に入れてあげます」と言ってみる。目を見開く彼は、「俺はいいですよ」と遠慮してくる。いいの? 本当に?
さっと立ち上がって、周囲を見渡す。ライアンの他に、人影はない。
「ひとりですか?」
「はい。そうですよ」
「リッキーは?」
「リッキー? 訓練場じゃないですか?」
ふーん?
今日は一緒じゃないのか。ライアンとリッキーは、お付き合いしているはずである。それなのに、あまり一緒のところを見ない。
「リッキーとは上手くやっていますか?」
「リッキーと?」
怪訝な顔をしたライアンであるが、すぐに何かを思い出したらしい。「俺とリッキーはただの幼馴染ですよ」と苦笑する。
嘘だな。ふたりは原作小説で結ばれる運命なのだ。それに、ぼくがノエルに閉じ込められたあの事件の時、ライアンとリッキーは人気のない庭で密会していた。これは絶対にお付き合いしている。
リッキーの話が出た途端、ライアンはちょっと焦りをみせる。今だって、突然「仕事が」と忙しいアピールをし始めた。ここから立ち去りたいらしい。
「ライアン。虫さん捕まえないと、ノエルお兄さんに負けちゃいます」
「いえ、俺はいいですよ」
「ライアンも仲間に入れてあげます」
頬を掻くライアンは、しきりにロルフへと視線を向けている。だが、虫さん探しに夢中なロルフは、それに気が付かない。
仕方がない。忙しいライアンのためだ。ぼくが先程捕まえた虫さんを譲ってあげよう。
ズボンのポケットに手を突っ込んで、お目当てのものを掴む。それをライアンに差し出せば、彼は「なんですか?」と不思議そうな顔で受け取った。
「ぼくが捕まえた虫さん。一匹譲ってあげます」
「……え?」
手のひらに乗ったダンゴムシに、ライアンが真顔になる。
「一匹って言いました? もしかして他にも?」
「ぼく虫さん捕まえるの得意です」
得意になって胸を張るぼくだが、ライアンは青い顔。「ちょっと失礼」と断るなり、ぼくの肩に手を置いてポケットを探ってくる。
「あー、なんでこんなところに」
ぼくのポケットからダンゴムシを全部取り出すライアンに、拳を握って抗議する。「やめてくださぁい!」と大声出すが、「こんなところに入れたらダメですよ」と強気に言い返されてしまう。その口調にちょっぴりビビるぼくは、ぴたりと口を閉じる。するとライアンの視線がロルフへと移る。
「虫かごくらい用意したらどうなんだ」
「あー、はい。すみません」
早口で謝るロルフは、ばつが悪そうだった。
ポケットに入れたらダメですよと繰り返すライアンに、こくこく頷いておく。
かごを持ってくるというライアンを見送って、ロルフと顔を見合わせる。ぼくが捕まえたダンゴムシは、ライアンによってすべて地面に放り出されている。ポケットには入れるなと言われたので、ロルフとふたりで地面のダンゴムシを取り囲む。逃げないように目を光らせる。
「ロルフ落ち込み? 落ち込みロルフ?」
だんまりのロルフを心配すると、「いえ! 大丈夫です!」という力強い返事がある。大丈夫ならいいんだけど。ライアンに注意されて落ち込んだのだろう。そんなに気にしなくても大丈夫だと思う。ライアンはさっぱりした性格だから、そんなに引きずらない。
でもロルフが心配なので、あとできらきらの石をひとつ譲ってあげようと思う。
庭で一生懸命に虫さんを探していた時である。今日のノエルは優しいお兄さんだったので、試しに虫さん探して遊びたいと伝えたところ、ふたつ返事で「いいですよ」と返ってきた。
せっかくだからまた勝負しようとの提案にも、ノエルは即座に頷いた。そうしてノエルと別れて庭を彷徨っていたら、ライアンが姿を見せた。
どうやら先日のぼくの報告を気にしてくれているらしい。ぼくと一緒になって花壇を凝視していたロルフに、こそっと訊ねている。
「今日は普通にノエル様ですよ」
「普通って?」
「えっと、だから。普通に評判通りの優しいノエル様です」
「そうか」
肩透かしをくらったかのように佇むライアンは、ぼくの隣に屈み込んで「なにを?」と小首を傾げる。
「虫さんを探しています。ノエルお兄さんと勝負しています」
「へぇ、なんだか楽しそうですね」
にこっと笑うライアンに、ぼくは顔を上げる。えっと。もしかしてライアンも誘ってほしいのか?
気の利くぼくは「ライアンも仲間に入れてあげます」と言ってみる。目を見開く彼は、「俺はいいですよ」と遠慮してくる。いいの? 本当に?
さっと立ち上がって、周囲を見渡す。ライアンの他に、人影はない。
「ひとりですか?」
「はい。そうですよ」
「リッキーは?」
「リッキー? 訓練場じゃないですか?」
ふーん?
今日は一緒じゃないのか。ライアンとリッキーは、お付き合いしているはずである。それなのに、あまり一緒のところを見ない。
「リッキーとは上手くやっていますか?」
「リッキーと?」
怪訝な顔をしたライアンであるが、すぐに何かを思い出したらしい。「俺とリッキーはただの幼馴染ですよ」と苦笑する。
嘘だな。ふたりは原作小説で結ばれる運命なのだ。それに、ぼくがノエルに閉じ込められたあの事件の時、ライアンとリッキーは人気のない庭で密会していた。これは絶対にお付き合いしている。
リッキーの話が出た途端、ライアンはちょっと焦りをみせる。今だって、突然「仕事が」と忙しいアピールをし始めた。ここから立ち去りたいらしい。
「ライアン。虫さん捕まえないと、ノエルお兄さんに負けちゃいます」
「いえ、俺はいいですよ」
「ライアンも仲間に入れてあげます」
頬を掻くライアンは、しきりにロルフへと視線を向けている。だが、虫さん探しに夢中なロルフは、それに気が付かない。
仕方がない。忙しいライアンのためだ。ぼくが先程捕まえた虫さんを譲ってあげよう。
ズボンのポケットに手を突っ込んで、お目当てのものを掴む。それをライアンに差し出せば、彼は「なんですか?」と不思議そうな顔で受け取った。
「ぼくが捕まえた虫さん。一匹譲ってあげます」
「……え?」
手のひらに乗ったダンゴムシに、ライアンが真顔になる。
「一匹って言いました? もしかして他にも?」
「ぼく虫さん捕まえるの得意です」
得意になって胸を張るぼくだが、ライアンは青い顔。「ちょっと失礼」と断るなり、ぼくの肩に手を置いてポケットを探ってくる。
「あー、なんでこんなところに」
ぼくのポケットからダンゴムシを全部取り出すライアンに、拳を握って抗議する。「やめてくださぁい!」と大声出すが、「こんなところに入れたらダメですよ」と強気に言い返されてしまう。その口調にちょっぴりビビるぼくは、ぴたりと口を閉じる。するとライアンの視線がロルフへと移る。
「虫かごくらい用意したらどうなんだ」
「あー、はい。すみません」
早口で謝るロルフは、ばつが悪そうだった。
ポケットに入れたらダメですよと繰り返すライアンに、こくこく頷いておく。
かごを持ってくるというライアンを見送って、ロルフと顔を見合わせる。ぼくが捕まえたダンゴムシは、ライアンによってすべて地面に放り出されている。ポケットには入れるなと言われたので、ロルフとふたりで地面のダンゴムシを取り囲む。逃げないように目を光らせる。
「ロルフ落ち込み? 落ち込みロルフ?」
だんまりのロルフを心配すると、「いえ! 大丈夫です!」という力強い返事がある。大丈夫ならいいんだけど。ライアンに注意されて落ち込んだのだろう。そんなに気にしなくても大丈夫だと思う。ライアンはさっぱりした性格だから、そんなに引きずらない。
でもロルフが心配なので、あとできらきらの石をひとつ譲ってあげようと思う。
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