53 / 94
53 抱っこしてください
しおりを挟む
騎士棟に来たついでに、リッキーの姿を探してみる。
ライアンの執務室を出て、あまり馴染みのない騎士棟内部を歩きまわる。気分は冒険だ。わくわくと足取り軽く進むぼくの少し後ろを、ロルフがニヤニヤしながらついてくる。ロルフは、いつもぼくのことを緩んだ顔で見つめている。
「リッキーどこだろう」
「なんでリッキーさんを探すんですか?」
「ライアンと仲良くしているか確認するの」
「はぁ」
どうでもよくないですか? と酷いことを言うロルフは、相変わらず何もわかっていない。ライアンとリッキーの恋愛模様は、ぼくの将来に関わるのだ。
「アル様? 珍しいですね、こんなところで」
出鱈目に騎士棟を歩いていた時である。前方から姿を見せた騎士さんが、「おや?」という顔をした。
二十代前半くらいのお兄さんである。よくリオラお兄様の隣にいる人だ。柔和な笑顔が印象的な黒髪のお兄さん。口元にある小さなほくろに、じっとぼくの視線が吸い寄せられる。この人は、原作小説にもたびたび登場していた。名前はジョナス。主にリオラお兄様の護衛を担当していた人だ。すらりと細身で、中性的な顔立ち。原作での出番はあまりなかったけど、いつもリオラお兄様の隣に居たから覚えている。
「ジョナス。何してるの?」
「私は団長に用がありまして。アル様は?」
「ぼくはライアンと会ってきました」
「副団長と?」
小首を傾げるジョナスの動きに合わせて、柔らかそうな黒髪がさらりと揺れる。なんか、きれいだな。
もともとぼくは、ジョナスのことを結構気に入っていた。原作にはあまり登場しないけど、口元のほくろが色っぽくて、おまけに物腰柔らかで。とにかく柔らかいイメージのお兄さんで、なんとなく好きだった。一時期リオラお兄様とくっつくんじゃないかと期待したこともある。
そこまで考えて、ピンとくる。
リオラお兄様の恋人候補。ジョナスも相応しいのでは?
だってジョナスはリオラお兄様の一番近くにいる。優しいお兄さんだし、リオラお兄様だってジョナスのことは信頼していた。まぁ、原作だとリオラお兄様が破滅行動をとったせいで、最終的にはジョナスもお兄様から離れていくわけだけど。
「ジョナス!」
「はい?」
急いでジョナスの腕にしがみつけば、ジョナスが困惑したように腰を屈めてくれる。ぼくと視線を合わせて「どうしました?」と優しく問いかけてくれる彼は、どこからどう見てもいい人だ。リオラお兄様の恋人候補にぴったり。
「恋人いますか?」
「え?」
面食らったらしいジョナスだが、さっと髪を耳にかけて「残念ながら。独り身ですよ」と苦笑する。その無駄に色っぽい仕草に、思わずロルフを振り返って確認する。ぼけっと突っ立っていたロルフは、ぼくと目が合うなり「ん?」と不思議そうな表情をする。
なんか、うん。
とりあえずジョナスと手を繋ごうと奮闘する。ちょこまか動くぼくの意図を察したのか。ジョナスが左手を差し出してきたので、遠慮なくしがみつく。
「抱っこしてください」
「え? 私がですか?」
「はい」
ジョナスを見上げれば、なぜかロルフが「嫌ですよ!」と力強く割り込んでくる。ロルフは関係ないでしょうが。
「ジョナス。抱っこしてくださぁい」
もう歩くの疲れましたと、床にぺたっと座り込んでアピールしてみる。「俺が抱っこしますよ!」と、ロルフが手を伸ばしてくるのでそれをあしらうのも忘れない。ぼくはロルフじゃなくて、ジョナスに抱っこしてもらいたい。
「いつもは抱っこしてなんて言わないじゃないですか!」
「今日は抱っこしてほしい気分」
「じゃあ俺でよくないですか!?」
「ジョナスがいい」
頑張ってジョナスに腕を伸ばすぼく。「なんで!?」とうるさいロルフに若干引いていたジョナスであるが、最終的にはぼくを抱き上げてくれた。
ぎゅっとジョナスの首にしがみつくようにして手をまわす。にこにこと満足していると、ぼくの視線の先に移動してきたロルフが不満そうに半眼となる。
ぼくは、ジョナスのことが結構好き。
香水でもつけているのか、ちょっと甘い匂いがする。へへっと笑えば、ジョナスが背中を軽く叩いてくる。なんだかいいと思う。すごく幸せ。
「ぼく、今日はジョナスと遊びます」
「ダメですよ!」
前のめりで返事をしてくるロルフにふるふると首を振って、ジョナスにしがみつく手に力を込める。絶対に離すものか。今日はずっとジョナスと一緒にいたい気分。
一緒に遊ぼうと誘ってみるが、ジョナスは「仕事が」と困ったようにぼくを床におろそうとしてくる。
ジタバタと抵抗を試みるが、あっさりと床に足がつく。ふんふん床を蹴るぼくの肩を、すかさずロルフが掴んでくる。そのままあっさりとジョナスから引き剥がされてしまう。何をするんだ。
「一緒に遊びたいです」
とりあえず丁寧にお願いしてみれば、ジョナスが前髪を触って小首を傾げる。さらっと流れる黒髪に、ついつい視線が引き寄せられる。
「今日は忙しいので、また今度でもいいですか?」
ジョナスがそう言うなら仕方がない。わかったと頷くぼくの手を取って、ジョナスが「じゃあまた今度遊びましょうか。約束ですね」と、握手してくる。こくこくと、ひたすら頷くぼく。
リオラお兄様の部屋に戻るというジョナスの背中をじっと見つめるぼくの横で、ロルフが「なんであの人に懐くんですか」と不満そうにしていた。
ライアンの執務室を出て、あまり馴染みのない騎士棟内部を歩きまわる。気分は冒険だ。わくわくと足取り軽く進むぼくの少し後ろを、ロルフがニヤニヤしながらついてくる。ロルフは、いつもぼくのことを緩んだ顔で見つめている。
「リッキーどこだろう」
「なんでリッキーさんを探すんですか?」
「ライアンと仲良くしているか確認するの」
「はぁ」
どうでもよくないですか? と酷いことを言うロルフは、相変わらず何もわかっていない。ライアンとリッキーの恋愛模様は、ぼくの将来に関わるのだ。
「アル様? 珍しいですね、こんなところで」
出鱈目に騎士棟を歩いていた時である。前方から姿を見せた騎士さんが、「おや?」という顔をした。
二十代前半くらいのお兄さんである。よくリオラお兄様の隣にいる人だ。柔和な笑顔が印象的な黒髪のお兄さん。口元にある小さなほくろに、じっとぼくの視線が吸い寄せられる。この人は、原作小説にもたびたび登場していた。名前はジョナス。主にリオラお兄様の護衛を担当していた人だ。すらりと細身で、中性的な顔立ち。原作での出番はあまりなかったけど、いつもリオラお兄様の隣に居たから覚えている。
「ジョナス。何してるの?」
「私は団長に用がありまして。アル様は?」
「ぼくはライアンと会ってきました」
「副団長と?」
小首を傾げるジョナスの動きに合わせて、柔らかそうな黒髪がさらりと揺れる。なんか、きれいだな。
もともとぼくは、ジョナスのことを結構気に入っていた。原作にはあまり登場しないけど、口元のほくろが色っぽくて、おまけに物腰柔らかで。とにかく柔らかいイメージのお兄さんで、なんとなく好きだった。一時期リオラお兄様とくっつくんじゃないかと期待したこともある。
そこまで考えて、ピンとくる。
リオラお兄様の恋人候補。ジョナスも相応しいのでは?
だってジョナスはリオラお兄様の一番近くにいる。優しいお兄さんだし、リオラお兄様だってジョナスのことは信頼していた。まぁ、原作だとリオラお兄様が破滅行動をとったせいで、最終的にはジョナスもお兄様から離れていくわけだけど。
「ジョナス!」
「はい?」
急いでジョナスの腕にしがみつけば、ジョナスが困惑したように腰を屈めてくれる。ぼくと視線を合わせて「どうしました?」と優しく問いかけてくれる彼は、どこからどう見てもいい人だ。リオラお兄様の恋人候補にぴったり。
「恋人いますか?」
「え?」
面食らったらしいジョナスだが、さっと髪を耳にかけて「残念ながら。独り身ですよ」と苦笑する。その無駄に色っぽい仕草に、思わずロルフを振り返って確認する。ぼけっと突っ立っていたロルフは、ぼくと目が合うなり「ん?」と不思議そうな表情をする。
なんか、うん。
とりあえずジョナスと手を繋ごうと奮闘する。ちょこまか動くぼくの意図を察したのか。ジョナスが左手を差し出してきたので、遠慮なくしがみつく。
「抱っこしてください」
「え? 私がですか?」
「はい」
ジョナスを見上げれば、なぜかロルフが「嫌ですよ!」と力強く割り込んでくる。ロルフは関係ないでしょうが。
「ジョナス。抱っこしてくださぁい」
もう歩くの疲れましたと、床にぺたっと座り込んでアピールしてみる。「俺が抱っこしますよ!」と、ロルフが手を伸ばしてくるのでそれをあしらうのも忘れない。ぼくはロルフじゃなくて、ジョナスに抱っこしてもらいたい。
「いつもは抱っこしてなんて言わないじゃないですか!」
「今日は抱っこしてほしい気分」
「じゃあ俺でよくないですか!?」
「ジョナスがいい」
頑張ってジョナスに腕を伸ばすぼく。「なんで!?」とうるさいロルフに若干引いていたジョナスであるが、最終的にはぼくを抱き上げてくれた。
ぎゅっとジョナスの首にしがみつくようにして手をまわす。にこにこと満足していると、ぼくの視線の先に移動してきたロルフが不満そうに半眼となる。
ぼくは、ジョナスのことが結構好き。
香水でもつけているのか、ちょっと甘い匂いがする。へへっと笑えば、ジョナスが背中を軽く叩いてくる。なんだかいいと思う。すごく幸せ。
「ぼく、今日はジョナスと遊びます」
「ダメですよ!」
前のめりで返事をしてくるロルフにふるふると首を振って、ジョナスにしがみつく手に力を込める。絶対に離すものか。今日はずっとジョナスと一緒にいたい気分。
一緒に遊ぼうと誘ってみるが、ジョナスは「仕事が」と困ったようにぼくを床におろそうとしてくる。
ジタバタと抵抗を試みるが、あっさりと床に足がつく。ふんふん床を蹴るぼくの肩を、すかさずロルフが掴んでくる。そのままあっさりとジョナスから引き剥がされてしまう。何をするんだ。
「一緒に遊びたいです」
とりあえず丁寧にお願いしてみれば、ジョナスが前髪を触って小首を傾げる。さらっと流れる黒髪に、ついつい視線が引き寄せられる。
「今日は忙しいので、また今度でもいいですか?」
ジョナスがそう言うなら仕方がない。わかったと頷くぼくの手を取って、ジョナスが「じゃあまた今度遊びましょうか。約束ですね」と、握手してくる。こくこくと、ひたすら頷くぼく。
リオラお兄様の部屋に戻るというジョナスの背中をじっと見つめるぼくの横で、ロルフが「なんであの人に懐くんですか」と不満そうにしていた。
1,015
お気に入りに追加
2,323
あなたにおすすめの小説
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
兄たちが溺愛するのは当たり前だと思ってました
不知火
BL
温かい家族に包まれた1人の男の子のお話
爵位などを使った設定がありますが、わたしの知識不足で実際とは異なった表現を使用している場合がございます。ご了承ください。追々、しっかり事実に沿った設定に変更していきたいと思います。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる