悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

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52 お安いご用

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 シャルお兄さん、今日は庭に落ちていなかった。また今度紹介しますとノエルには声をかけて、捜索を諦めた。きっと仕事中だったのだろう。仕方がない。その後も、ノエルは問題なくぼくと遊んでから帰っていった。

 ノエルをお見送りしたその足で、ぼくはロルフと一緒に騎士棟に向かった。ライアンに、ノエルのことを相談しなくては。騎士棟内の執務室に居たライアンは、ぼくとロルフをにこやかに招き入れると、早速話を聞いてくれた。ライアンは、たまに嘘をつくけど基本的にはいい人である。リオラお兄様が惚れるくらいにはいい人。

 これまでの経緯をぼくは頑張って伝えてみた。途中でロルフが補足説明を挟んだが、概ね伝えたいことは伝えられた。主にノエルの悪行を報告しておく。話をじっと聞いてくれたライアンは、まず真っ先にロルフを睨みつけた。

「なぜはやく報告しない」
「え? しましたよ」

 開き直るロルフは、「リオラ様には逐一報告しています」と堂々としている。ロルフは嘘をついていない。ぼくと一緒に、ロルフはリオラお兄様のところに足を運んでこまめに告げ口していた。それを聞いて、ライアンが頭を抱える。

 どうやらリオラお兄様は、ぼくとロルフの報告を騎士団には伝えていなかったらしい。リオラお兄様は、そういうところがある。しっかり者とはいえ、まだ十六歳のリオラお兄様である。たまにびっくりするくらい間抜けなことをする。
 静かに額を押さえるライアンは、言いにくそうにロルフを手招きした。内緒話が気になるので、ぼくもライアンに近寄っていく。

「リオラ様のところで毎回報告止まるから」

 こそっとロルフに耳打ちしたライアンは、苦い顔だ。どうやらリオラお兄様の悪癖に何度か苦労しているらしい。可哀想に。思い返せば、リオラお兄様はいまいちぼくの話を真剣に聞いていなかった。ノエルによる意地悪を報告しても、子供の喧嘩と見做して軽く流されてしまった。

 今後は直接騎士団に報告しろと指示を出すライアンに、ロルフが勢いよく頷いている。どうやらライアンは、ノエルの件について色々と知らなかったらしい。ライアンの中では、ノエルによる閉じ込め事件以来、特に何も報告がないので問題なしと思っていたらしい。

 もともとノエルは歳の割にしっかりしている賢い子として知られていた。その噂を知っていたライアンは、閉じ込め事件でノエルのことを一瞬だけ警戒するも、その後に顔を合わせた際、ノエルとぼくが仲良くしているのを見て警戒を緩めたのだろう。確かに、ぼくはライアンにノエルをお友達と紹介した。ぼくとノエルが仲直りしたと誤解しても仕方がない。

「ノエルお兄さんをどうにかしてください」

 今日みたいに優しいお兄さんであれば問題ないのだが、意地悪な彼と遊ぶのは受け入れられない。それ以前に、ノエルがふたりいるのではないかという変な疑惑も生じている。ぼくだけではどうにもならないので、ライアンの手を借りたい。

 ぼくの視線を受けて、ライアンは短く唸ってしまう。

「モルガン伯爵家って、なんか一時期双子がどうのって噂になりませんでした?」

 そんな中、ロルフがライアンに話をふっている。よく分からないが、口を挟める雰囲気でもないので「ふむふむ」言いながら頷いておく。ひとりで頑張って相槌を打つぼくをよそに、ライアンとロルフは難しい顔で話を続ける。

「いや。それは結局、事実とは異なるってことで終わったはずだけど」
「でも顔だけはそっくりなんですって。絶対に別人ですよ。性格が違いますもん」

 よくわからないが、ロルフが頑張っていることだけはわかる。彼は、ライアン相手にノエル双子説を主張しているらしい。

 ふたりの会話を聞き齧ったところによると、どうもモルガン伯爵家について、一時期双子が生まれたとの噂が広まったらしい。出所は不明だが、その後すぐにモルガン伯爵自身が双子ではないと周囲に説明してまわったことで、この話題は終わったらしい。

 この話は、ぼくも初耳。原作小説にはなかった設定だ。まぁ、原作はライアンとリッキーの恋愛がメインだから、ノエルの家庭に関する情報は書かれていなくて当然だろう。

「とにかく! 副団長も見てみてくださいよ。絶対に別人ですから!」

 見ればわかりますと断言するロルフは、自信たっぷりだった。その勢いにおされる形でライアンが頷く。

 ロルフの主張通り、優しいノエルと意地悪ノエルが別人だとすれば、オルコット公爵家にノエルではない人物が出入りしていることになる。これは由々しき事態である。騎士団としても看過ごすわけにはいかないのだろう。「わかったわかった」とロルフを宥めるライアンは、次に意地悪ノエルが姿を見せたら教えてほしいと柔らかくお願いしてくる。

 それくらいお安いご用だ。「任せてくださぁい!」と胸を叩くぼく。ロルフが「さすがアル様ですね! 頼りになりますね!」と手放しで褒めてくれる。得意な顔をするぼくに、ロルフはいつもの締まりのない笑みを浮かべていた。
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