悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
49 / 141

49 優しい兄

しおりを挟む
「ノエルお兄さんは双子ですか?」
「え?」

 ロルフの主張が気になったので、一応リオラお兄様に確認しておこうと思う。早速部屋を訪れて質問すれば、リオラお兄様は「違うと思うけど」とあっさりと言ってのけた。そこに迷いはない。

 違うってよ、とロルフを振り返ると、彼は複雑な顔をしていた。

 そうだよな。やっぱりノエルが双子なんていう設定は原作にはなかった。だからリオラお兄様の言葉は嘘ではないと思う。でも、ノエルの様子がおかしいのも事実だ。その原因も突き止めなければならない。ぼくの平穏な生活のために。

「どうしてそんなことを訊くの? なにかあったのかな?」

 首を捻るお兄様に、ぼくはノエルの様子がおかしいことを教えてあげた。ついでなので、あいつがぼくのクッキーをほとんど食べてしまったことも告げ口してやる。おかげでぼくはクッキーをちょっとしか食べることができなかった。

「ぼくのおやつだったのに。ノエルお兄さんが食べました。ひどいです。ぼくはすごく悲しいです」
「そ、そうなんだ」

 仲良くしてねと苦笑するリオラお兄様は、何もわかっていない。ぼくはノエルと仲良くしてやろうと毎日努力している。文句も言わずに一緒に遊んであげているし、おやつにも誘ってあげた。それを台無しにしたのはノエルの方だ。あいつはすごく横暴。

「ノエルお兄さんは、たまにすごく我儘になります。ぼく困ってます」

 両手で頭を抱えて困ったアピールをしておく。言葉で伝えるよりも、実際に困った顔を見せた方が説得力が増すと思うのだ。ちらっとリオラお兄様を窺えば、眉間に皺を寄せて困った顔をしていた。なんだかぼくよりも困った顔をしている。

「というか。ノエル来たの? 今日は来られないはずじゃ」
「来ました。ぼくのクッキーを奪えるだけ奪って帰っていきました」

 ひどい奴です! と文句を言うが、リオラお兄様は突然ノエルがやって来たことを不思議に思っているらしい。そこはぼくとロルフも疑問に思っていた。ノエル本人は予定が変わったとか言っていた。本当だろうか。

 考えるが、答えは出ない。出ないので、この話題は終わりにしようと思う。正直言って、ノエルについて考えても楽しくない。もっと楽しいことを考えるべきだ。

「でっかい鳥さん」

 期待の目でリオラお兄様を見つめると、お兄様が露骨に顔を俯けて、ぼくの目を見てくれなくなった。なんてこった。もう一度、小声で「でっかい鳥さん」と呟いておく。地道にアピールしておけば、いつかお兄様がでっかい鳥さん連れてきてくれると信じている。

 わざとらしい咳払いをしたリオラお兄様は、「クッキー食べられなかったんだっけ?」と話を蒸し返してくる。

「そうです。いつもよりも少なくなってしまいました」

 ノエルお兄さんのせいで、と付け足しておく。ノエルの意地悪っぷりをこまめに報告しておけば、きっとリオラお兄様もノエルの本性に気が付いてくれると思う。意地悪ノエルと遊ぶのは、ぼくにとっては負担なのだとわかってほしい。

 でも猫被りの優しいノエルお兄さんと遊ぶのは結構楽しいから、悩みどころだ。

「だったらこれをあげるから」

 そう言って、リオラお兄様は机にのっていたクッキーを差し出してくれた。どうやらリオラお兄様のところにも同じおやつが用意されていたらしい。

「リオラお兄様は食べない?」

 びっくりして問いかけるぼくに、お兄様は「もう食べたから。残りでよければどうぞ」と微笑んでくれる。びっくり展開に、思わず後ろのロルフを確認する。「よかったですね、アル様」と、にこにこするロルフに、ぼくは大きく頷きを返す。

「お兄様。ありがとうございます」
「はーい」

 部屋に戻って食べようと思う。ロルフがクッキーを受け取るのをしっかり確認して、そそくさと廊下に出る。はやく食べないと。また誰かに奪われたら大変だ。

「ロルフ! 急いで! クッキーが無くなっちゃうよ!」
「無くなったりしませんよ。慌てなくても大丈夫です」
「無くなるんだよ! 急いで!」
「はいはい」

 苦笑するロルフを急かして、ぼくは部屋に駆け込んだ。クッキーは大事だからね。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...