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48 捏造はどうなのか
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「あれ、ノエル様じゃないのでは?」
「?」
ノエルは、ぼくのクッキーを奪えるだけ奪って帰って行った。五歳児相手になんて酷い仕打ちだ。「じゃあ僕忙しいから。アルくんとは違って」と、嫌味を残して颯爽と帰宅したノエル。甘い物は好きじゃないと言いながら、結局はぼくの分もほとんど食べてしまった。人のおやつを奪うなんて許せない。覚えておけよ。
ようやく落ち着いた屋敷内にて、ロルフが唐突に言い放った言葉に、ぼくは首を捻る。何を言うのか。あれはどう見てもノエルである。
「ノエルお兄さんです」
「違いませんか? いつもいらっしゃるノエル様とは明らかに別人ですよね。普通に考えてノエル様ではないのでは?」
「別人……?」
固まるぼくに、ロルフは「そうです。きっと別人ですよ」と主張を繰り返してくる。
ノエルは優しいお兄さんの時もあれば、今日みたいに意地悪お兄さんの時もある。ロルフの言う通り、人格が変わり過ぎてたまに別人みたいだ。
しかし、だ。
「ノエルお兄さんは、ノエルお兄さんです」
「いや、ですから」
中身は別人のようだが、外見は一緒である。別人だと考えるのは無理があると思う。そう考えたくなる気持ちもわかるけど。
「ノエルお兄さん。今日はご機嫌ななめ」
「機嫌の問題じゃないですよ」
どう見ても別人ですと言い張るロルフに、ぼくは「はぁ」というやる気のない声を出すことしかできない。よくわからないが、ロルフはノエルがふたりいると言いたいらしい。
「ノエルお兄さんがふたり」
けれども改めて口にすると、しっくりくるような。
「……どっちが本物?」
優しいお兄さんと意地悪お兄さん。果たしてどちらが本物ノエルなのか。固まるぼくに、ロルフは「そういえば」と思い出すように顎に手を持っていく。
「ノエル様って双子だったような。なんかそんな噂を聞いたことがあるようなないような」
「ふたご」
双子!?
びっくり発言に目を丸くする。
え、双子なの? なにその設定。そんな設定あったっけ?
慌てて原作小説の設定を思い出そうとするが、双子なんて記憶にない。ノエルは、原作では恋愛事とは無関係だった。まだ十歳だし、主人公のライアンとも歳の差がある。
原作でのノエルは、主人公たちを都合よくトラブルに巻き込むための存在であった。ノエルが双子である必要はなかったし、実際に双子だなんて話は原作には出ていないはず。
確かにノエルの様子はおかしいが、だからといって原作にない双子設定を捏造するのはどうなのか。しかし、ロルフがそれを言い出すということは、やっぱりノエルは双子なのだろうか。でもロルフも確信がないらしい。あくまでも噂話として耳にした程度らしい。どんな噂だよ。噂話が真実だとすると、モルガン伯爵家はノエルが双子だということを公にしていないということになる。それは何のために?
考えるが、わからない。わからないので、困ったぼくは両手で頭を抱える。原作とは異なる展開がまた増えた。
「困った」
「え、可愛い」
なぜかぼくの真似して頭を抱えるロルフは、ぼくのことを馬鹿にするつもりだろうか。ジトッと抗議の意味も込めて見上げれば、ロルフは「アル様は今日も可愛いですね」と褒めてくる。
「うん。ありがと」
お礼を言えば、ロルフが天を仰いだ。ロルフはよく天を見上げる。何かあるのだろうかと、つられてぼくも上を見るけど、目に入るのはなんの変哲もない天井のみ。天井観察が趣味の人?
ロルフはいつも何を見ているのだろうか。不思議。
「ノエルお兄さんは、ひとりだけ」
「ひとりというか。多分どちらかがノエル様のご兄弟の可能性ありますよ。突然別人みたいに豹変すると考えるよりも、別人だと考える方が自然ですって」
力説するロルフは、双子説をおしたいらしい。
「ノエルお兄さんは、ひとりっ子」
「ですから。可能性としてですね」
「嘘つきロルフ!!」
「えぇ……。突然の嘘つき認定」
しつこいロルフに指を突きつける。ひどいと顔を覆うロルフは、思い返せばいつもちょっぴり嘘つきだった。今回もぼくを揶揄っているに違いない。ロルフには、周囲に便乗してぼくを揶揄うという悪い癖がある。
「ぼくは騙されません!」
先手を打ってはっきり宣言しておけば、ロルフが変な顔をする。腰に手を当てて、何やら強気にぼくを見下ろしてくる。
「ガストン団長とシャルお兄さんとやらは頑なに別人だって言っているじゃないですか。なんでノエル様は別人だって認めないんですか? ノエル様の方がよっぽど別人っぽいですよ」
「ノエルお兄さんは、性格めちゃくちゃだけど顔がおんなじ」
「え? 全部顔で判断しているんですか?」
拍子抜けしたように呟くロルフは、顔だけで判断したらダメですよと正論っぽいことを言ってくる。でもおんなじ顔をした人をおんなじ人だと判断するのは当然のことだと思う。逆に、違う顔したふたりを別人だと判断するのも当然だと思う。
だが、ノエル双子説も一応頭に入れておこうと思う。そんなの原作設定にはなかったけど。
「?」
ノエルは、ぼくのクッキーを奪えるだけ奪って帰って行った。五歳児相手になんて酷い仕打ちだ。「じゃあ僕忙しいから。アルくんとは違って」と、嫌味を残して颯爽と帰宅したノエル。甘い物は好きじゃないと言いながら、結局はぼくの分もほとんど食べてしまった。人のおやつを奪うなんて許せない。覚えておけよ。
ようやく落ち着いた屋敷内にて、ロルフが唐突に言い放った言葉に、ぼくは首を捻る。何を言うのか。あれはどう見てもノエルである。
「ノエルお兄さんです」
「違いませんか? いつもいらっしゃるノエル様とは明らかに別人ですよね。普通に考えてノエル様ではないのでは?」
「別人……?」
固まるぼくに、ロルフは「そうです。きっと別人ですよ」と主張を繰り返してくる。
ノエルは優しいお兄さんの時もあれば、今日みたいに意地悪お兄さんの時もある。ロルフの言う通り、人格が変わり過ぎてたまに別人みたいだ。
しかし、だ。
「ノエルお兄さんは、ノエルお兄さんです」
「いや、ですから」
中身は別人のようだが、外見は一緒である。別人だと考えるのは無理があると思う。そう考えたくなる気持ちもわかるけど。
「ノエルお兄さん。今日はご機嫌ななめ」
「機嫌の問題じゃないですよ」
どう見ても別人ですと言い張るロルフに、ぼくは「はぁ」というやる気のない声を出すことしかできない。よくわからないが、ロルフはノエルがふたりいると言いたいらしい。
「ノエルお兄さんがふたり」
けれども改めて口にすると、しっくりくるような。
「……どっちが本物?」
優しいお兄さんと意地悪お兄さん。果たしてどちらが本物ノエルなのか。固まるぼくに、ロルフは「そういえば」と思い出すように顎に手を持っていく。
「ノエル様って双子だったような。なんかそんな噂を聞いたことがあるようなないような」
「ふたご」
双子!?
びっくり発言に目を丸くする。
え、双子なの? なにその設定。そんな設定あったっけ?
慌てて原作小説の設定を思い出そうとするが、双子なんて記憶にない。ノエルは、原作では恋愛事とは無関係だった。まだ十歳だし、主人公のライアンとも歳の差がある。
原作でのノエルは、主人公たちを都合よくトラブルに巻き込むための存在であった。ノエルが双子である必要はなかったし、実際に双子だなんて話は原作には出ていないはず。
確かにノエルの様子はおかしいが、だからといって原作にない双子設定を捏造するのはどうなのか。しかし、ロルフがそれを言い出すということは、やっぱりノエルは双子なのだろうか。でもロルフも確信がないらしい。あくまでも噂話として耳にした程度らしい。どんな噂だよ。噂話が真実だとすると、モルガン伯爵家はノエルが双子だということを公にしていないということになる。それは何のために?
考えるが、わからない。わからないので、困ったぼくは両手で頭を抱える。原作とは異なる展開がまた増えた。
「困った」
「え、可愛い」
なぜかぼくの真似して頭を抱えるロルフは、ぼくのことを馬鹿にするつもりだろうか。ジトッと抗議の意味も込めて見上げれば、ロルフは「アル様は今日も可愛いですね」と褒めてくる。
「うん。ありがと」
お礼を言えば、ロルフが天を仰いだ。ロルフはよく天を見上げる。何かあるのだろうかと、つられてぼくも上を見るけど、目に入るのはなんの変哲もない天井のみ。天井観察が趣味の人?
ロルフはいつも何を見ているのだろうか。不思議。
「ノエルお兄さんは、ひとりだけ」
「ひとりというか。多分どちらかがノエル様のご兄弟の可能性ありますよ。突然別人みたいに豹変すると考えるよりも、別人だと考える方が自然ですって」
力説するロルフは、双子説をおしたいらしい。
「ノエルお兄さんは、ひとりっ子」
「ですから。可能性としてですね」
「嘘つきロルフ!!」
「えぇ……。突然の嘘つき認定」
しつこいロルフに指を突きつける。ひどいと顔を覆うロルフは、思い返せばいつもちょっぴり嘘つきだった。今回もぼくを揶揄っているに違いない。ロルフには、周囲に便乗してぼくを揶揄うという悪い癖がある。
「ぼくは騙されません!」
先手を打ってはっきり宣言しておけば、ロルフが変な顔をする。腰に手を当てて、何やら強気にぼくを見下ろしてくる。
「ガストン団長とシャルお兄さんとやらは頑なに別人だって言っているじゃないですか。なんでノエル様は別人だって認めないんですか? ノエル様の方がよっぽど別人っぽいですよ」
「ノエルお兄さんは、性格めちゃくちゃだけど顔がおんなじ」
「え? 全部顔で判断しているんですか?」
拍子抜けしたように呟くロルフは、顔だけで判断したらダメですよと正論っぽいことを言ってくる。でもおんなじ顔をした人をおんなじ人だと判断するのは当然のことだと思う。逆に、違う顔したふたりを別人だと判断するのも当然だと思う。
だが、ノエル双子説も一応頭に入れておこうと思う。そんなの原作設定にはなかったけど。
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