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47 クッキー
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「ノエルお兄さん!!」
「うるさ」
大声も出したくなるというものである。
甘い物は嫌いと言っていたノエル。しかしおやつは食べたいと言うので、ぼくの部屋に案内して美味しいおやつを一緒に食べることにした。
今日は焼き立てクッキー。にこにこしながらロルフの淹れてくれる紅茶を静かに待っていた時である。ぼくの向かいに座ったノエルが、突然テーブル中央に置かれていたクッキーへと手を伸ばした。一枚頬張るノエルに、ぼくはびっくり。なんでぼくより先に手をつけるのか。
思わず文句を言いたくなるが、ぼくは大人。きっとノエルはお腹が空いていたに違いない。「なにこれ、あま」と、不満そうに顔を顰めるノエルは、さっさと一枚目を食べ終わると二枚目に手を伸ばした。
ビクッと立ち上がるぼくに、ノエルが「なに?」と怪訝な目を向けてくる。慌てて「なんでもないです」と座り直す。クッキーはまだある。大丈夫。ぼくは、ロルフが紅茶を淹れ終わるのを待つつもりだ。だっていつもそうしているから。
ふたり分の用意に勤しむロルフはいつものように丁寧な手つきだ。ぼくの分にはミルクもお願いしますと告げて、ノエルに不安な眼差しを向ける。遠慮なくクッキーを口に入れるノエルは、「僕はもう少し甘くないほうがいいけどな」とぶつぶつ言っている。
文句があるのなら食べなければいいのに。というか、それはぼくのクッキーだ。ノエルには少しお裾分けするだけだ。はやくもクッキーの半分が無くなったところで、ついにぼくは我慢の限界を迎えた。
大声でノエルの名前を呼んで注意するが、ノエルはいまいち分かっていないらしい。「なに。大声出さないでくれる?」とまだクッキーに手を伸ばそうとしている。
慌てたぼくは、クッキーのお皿に手を伸ばす。そうして皿ごと自分の手元に避難させれば、ノエルが「なにすんの?」と指でテーブルをコツコツ叩く。苛立ったようなその仕草に、ぼくは怒りが込み上げてくる。
「これはぼくのクッキーです! なんで全部食べようとするんですかぁ!」
「アルくんも食べればいいじゃん」
「紅茶がまだです!」
「知らないよ。なにその変なこだわり」
まるでぼくがおかしいみたいに、ノエルは偉そうに腕を組んだ。挑発するような鋭い目線を投げられて、ぼくはぎゅっと拳を握りしめる。
大皿にのったクッキーは、どう考えてもぼくとノエルのふたり分だ。であれば、半分こにするのが普通だろう。それなのに、ノエルはどう見ても半分以上を食べようとしている。
「半分はぼくのです!」
すかさず抗議をするが、ノエルはきょとんとした表情だ。こいつ、正気なのか?
「アルくん、何歳」
「五歳です」
「僕は十歳。歳上である僕がたくさん食べる。それでいいでしょ」
「よくないです!」
なにその暴論。
いいわけないでしょうが。思わずロルフを振り返ると、ちょうど紅茶の用意ができたらしい。ミルクたっぷりねと横から口を出して、それどころではないとノエルに向き直る。
「ノエルお兄さん! もうクッキー食べたらダメです!」
「嫌だよ」
嫌だよ? 予想外の図々しい返答に、ぼくは地団駄を踏む。テーブルから離れて、室内を走りまわる。全てはノエルに対する苛々を発散するためだ。
「え、何事!?」
ぼくとノエルの言い争いを真面目に聞いていなかったらしいロルフが、慌てたようにぼくを捕まえようとしてくる。
「アル様、落ち着きましょう」
「ロルフ! ノエルお兄さんをどうにかしてくださぁい!」
「止まってくださいよ」
ノエルではなく、ぼくをどうにかしようとしてくるロルフに腹を立てる。騒ぐぼくを横目に、ノエルは遠慮なくクッキーを齧っている。
「ノエルお兄さん! やめてください!」
すぐに抗議するが、ノエルは「アルくんも食べればいいじゃん」と悪びれずに言ってのける。ままならない状況に、ぼくは「もう!」と再び地団駄を踏む。
ノエルめ! ぼくのおやつを奪うなんて。許すまじ!
「うるさ」
大声も出したくなるというものである。
甘い物は嫌いと言っていたノエル。しかしおやつは食べたいと言うので、ぼくの部屋に案内して美味しいおやつを一緒に食べることにした。
今日は焼き立てクッキー。にこにこしながらロルフの淹れてくれる紅茶を静かに待っていた時である。ぼくの向かいに座ったノエルが、突然テーブル中央に置かれていたクッキーへと手を伸ばした。一枚頬張るノエルに、ぼくはびっくり。なんでぼくより先に手をつけるのか。
思わず文句を言いたくなるが、ぼくは大人。きっとノエルはお腹が空いていたに違いない。「なにこれ、あま」と、不満そうに顔を顰めるノエルは、さっさと一枚目を食べ終わると二枚目に手を伸ばした。
ビクッと立ち上がるぼくに、ノエルが「なに?」と怪訝な目を向けてくる。慌てて「なんでもないです」と座り直す。クッキーはまだある。大丈夫。ぼくは、ロルフが紅茶を淹れ終わるのを待つつもりだ。だっていつもそうしているから。
ふたり分の用意に勤しむロルフはいつものように丁寧な手つきだ。ぼくの分にはミルクもお願いしますと告げて、ノエルに不安な眼差しを向ける。遠慮なくクッキーを口に入れるノエルは、「僕はもう少し甘くないほうがいいけどな」とぶつぶつ言っている。
文句があるのなら食べなければいいのに。というか、それはぼくのクッキーだ。ノエルには少しお裾分けするだけだ。はやくもクッキーの半分が無くなったところで、ついにぼくは我慢の限界を迎えた。
大声でノエルの名前を呼んで注意するが、ノエルはいまいち分かっていないらしい。「なに。大声出さないでくれる?」とまだクッキーに手を伸ばそうとしている。
慌てたぼくは、クッキーのお皿に手を伸ばす。そうして皿ごと自分の手元に避難させれば、ノエルが「なにすんの?」と指でテーブルをコツコツ叩く。苛立ったようなその仕草に、ぼくは怒りが込み上げてくる。
「これはぼくのクッキーです! なんで全部食べようとするんですかぁ!」
「アルくんも食べればいいじゃん」
「紅茶がまだです!」
「知らないよ。なにその変なこだわり」
まるでぼくがおかしいみたいに、ノエルは偉そうに腕を組んだ。挑発するような鋭い目線を投げられて、ぼくはぎゅっと拳を握りしめる。
大皿にのったクッキーは、どう考えてもぼくとノエルのふたり分だ。であれば、半分こにするのが普通だろう。それなのに、ノエルはどう見ても半分以上を食べようとしている。
「半分はぼくのです!」
すかさず抗議をするが、ノエルはきょとんとした表情だ。こいつ、正気なのか?
「アルくん、何歳」
「五歳です」
「僕は十歳。歳上である僕がたくさん食べる。それでいいでしょ」
「よくないです!」
なにその暴論。
いいわけないでしょうが。思わずロルフを振り返ると、ちょうど紅茶の用意ができたらしい。ミルクたっぷりねと横から口を出して、それどころではないとノエルに向き直る。
「ノエルお兄さん! もうクッキー食べたらダメです!」
「嫌だよ」
嫌だよ? 予想外の図々しい返答に、ぼくは地団駄を踏む。テーブルから離れて、室内を走りまわる。全てはノエルに対する苛々を発散するためだ。
「え、何事!?」
ぼくとノエルの言い争いを真面目に聞いていなかったらしいロルフが、慌てたようにぼくを捕まえようとしてくる。
「アル様、落ち着きましょう」
「ロルフ! ノエルお兄さんをどうにかしてくださぁい!」
「止まってくださいよ」
ノエルではなく、ぼくをどうにかしようとしてくるロルフに腹を立てる。騒ぐぼくを横目に、ノエルは遠慮なくクッキーを齧っている。
「ノエルお兄さん! やめてください!」
すぐに抗議するが、ノエルは「アルくんも食べればいいじゃん」と悪びれずに言ってのける。ままならない状況に、ぼくは「もう!」と再び地団駄を踏む。
ノエルめ! ぼくのおやつを奪うなんて。許すまじ!
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