悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
45 / 141

45 警戒

しおりを挟む
 部屋で遊ぶのにも飽きたぼくは、ロルフと一緒に庭に出た。休憩中のシャルお兄さんでも探そうかなときょろきょろしてみるが、今日は落ちていないらしい。シャルお兄さんは、忙しい人だ。そのせいで、いつもぐったり休憩している。仕事辞めたいというのがシャルお兄さんの口癖だ。

 きらきらの石でも探そうかなと地面をじっと見つめる。ロルフはぼくの後ろから、しきりに話しかけてくる。「今日はいい天気ですね」とか、「暑くないですか?」とか。その度に、ぼくはふむふむと頷く。ロルフは特に意味のある会話はしないので、気楽に聞き流すことにしている。

 そうして庭をのんびりうろうろしていたが、小さい音が聞こえてパッと顔を上げる。誰かの足音だ。前方を確認すれば、小さい人影を発見できた。

「あれ?」

 じっと見つめて、首を捻る。あれ?

「ロルフ! ノエルお兄さんです!」
「え?」

 花壇の前にしゃがみ込んで、真剣に花を見ているのはノエルお兄さんだ。今日は来ないと言っていたのに。気が変わったのだろうか。だとしても、連絡くらいしてくれればよかったのに。不思議に思うぼくだが、深くは考えない。一方のロルフは「え? 今日は来ないと聞いていましたけど」と腑に落ちない様子だ。

「ノエルお兄さん!」

 すたたっと走って行けば、ノエルが顔を上げる。そうして振り返ったノエルは、ぼくのことを見返してくる。

 その冷たい目に、ぼくはピタッと足を止める。

「……ノエルお兄さん?」
「……」

 ん? どうした?

 普段のノエルであれば「こんにちは、アル様」とにこやかに返してくれる場面である。普段はにこにこしているノエルが、真顔である。え、こわ。

 困ってロルフの顔を見上げると、彼も彼で困惑していた。ロルフは、ここにノエルが居ることを不審に思っているらしい。

「ノエルお兄さん。今日は来ないと言っていました」

 どうしてここに居るんですか? と問いかけるが、ノエルはじっと黙り込んだままである。ぼくの声が聞こえていないのかと疑いたくなるほど。

「あのぉ?」

 窺うように首を傾げてみるが、ノエルは無反応。感情のこもらない冷たい目が、じっとぼくを見据えてくる。

 なんか、いつものノエルと違う。今日は不機嫌なんだろうかと考えて、ぼくは思い出す。今日のノエルは、ぼくを物置小屋に閉じ込めた時の彼とそっくりだ。

 考え込むぼくに、ノエルがようやく動きを見せた。周囲を見渡して様子を探った彼は、途端ににこりと笑みを浮かべる。けれども、いつもの優しい微笑みではない。笑っているんだけど、どこか冷たい印象を与える作り物っぽい表情だ。

 ピシッと警戒心が出てきたぼくは、咄嗟にロルフと手を繋ぐ。手を差し出せば、すぐさま握り返してくれるロルフに、ぼくは一安心する。

 そうして心の余裕を取り戻したぼくは、目の前のノエルと向き合う決心をした。さりげなく髪を掻き上げるノエルは、「予定が変わったので」と唐突に吐き捨てる。なんのことかと一瞬考えるが、どうやら先程のぼくの疑問に答えてくれたらしいと悟る。そうですかと頷くが、納得したわけではない。

 ノエルはうちによく出入りするから、みんな顔を覚えている。だからすんなり中に入れたのだろう。それに、彼はぼくの遊び相手ということになっているから、いちいちノエルの訪問をぼくに伝えに来る人もいない。お客さんというより、うちで働く使用人的な扱いをされているのだ。もちろん伯爵家のお坊ちゃんだからそれなりに丁寧な扱いはされているけど。

「急に訪れたら迷惑でしたよね」

 取り繕うように謝罪めいた言葉を発するノエルには、常日頃の優しいお兄さん的な雰囲気はない。

「迷惑ではないです。遊んでくれるなら嬉しいです」

 とりあえず丁寧に接しておけば、ノエルが「そうですか。それはよかったです」と棒読みのセリフを返してくる。

 そっとロルフと顔を見合わせる。
 よくわからないが、今日のノエルは警戒した方がよさそうだ。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...