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45 警戒
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部屋で遊ぶのにも飽きたぼくは、ロルフと一緒に庭に出た。休憩中のシャルお兄さんでも探そうかなときょろきょろしてみるが、今日は落ちていないらしい。シャルお兄さんは、忙しい人だ。そのせいで、いつもぐったり休憩している。仕事辞めたいというのがシャルお兄さんの口癖だ。
きらきらの石でも探そうかなと地面をじっと見つめる。ロルフはぼくの後ろから、しきりに話しかけてくる。「今日はいい天気ですね」とか、「暑くないですか?」とか。その度に、ぼくはふむふむと頷く。ロルフは特に意味のある会話はしないので、気楽に聞き流すことにしている。
そうして庭をのんびりうろうろしていたが、小さい音が聞こえてパッと顔を上げる。誰かの足音だ。前方を確認すれば、小さい人影を発見できた。
「あれ?」
じっと見つめて、首を捻る。あれ?
「ロルフ! ノエルお兄さんです!」
「え?」
花壇の前にしゃがみ込んで、真剣に花を見ているのはノエルお兄さんだ。今日は来ないと言っていたのに。気が変わったのだろうか。だとしても、連絡くらいしてくれればよかったのに。不思議に思うぼくだが、深くは考えない。一方のロルフは「え? 今日は来ないと聞いていましたけど」と腑に落ちない様子だ。
「ノエルお兄さん!」
すたたっと走って行けば、ノエルが顔を上げる。そうして振り返ったノエルは、ぼくのことを見返してくる。
その冷たい目に、ぼくはピタッと足を止める。
「……ノエルお兄さん?」
「……」
ん? どうした?
普段のノエルであれば「こんにちは、アル様」とにこやかに返してくれる場面である。普段はにこにこしているノエルが、真顔である。え、こわ。
困ってロルフの顔を見上げると、彼も彼で困惑していた。ロルフは、ここにノエルが居ることを不審に思っているらしい。
「ノエルお兄さん。今日は来ないと言っていました」
どうしてここに居るんですか? と問いかけるが、ノエルはじっと黙り込んだままである。ぼくの声が聞こえていないのかと疑いたくなるほど。
「あのぉ?」
窺うように首を傾げてみるが、ノエルは無反応。感情のこもらない冷たい目が、じっとぼくを見据えてくる。
なんか、いつものノエルと違う。今日は不機嫌なんだろうかと考えて、ぼくは思い出す。今日のノエルは、ぼくを物置小屋に閉じ込めた時の彼とそっくりだ。
考え込むぼくに、ノエルがようやく動きを見せた。周囲を見渡して様子を探った彼は、途端ににこりと笑みを浮かべる。けれども、いつもの優しい微笑みではない。笑っているんだけど、どこか冷たい印象を与える作り物っぽい表情だ。
ピシッと警戒心が出てきたぼくは、咄嗟にロルフと手を繋ぐ。手を差し出せば、すぐさま握り返してくれるロルフに、ぼくは一安心する。
そうして心の余裕を取り戻したぼくは、目の前のノエルと向き合う決心をした。さりげなく髪を掻き上げるノエルは、「予定が変わったので」と唐突に吐き捨てる。なんのことかと一瞬考えるが、どうやら先程のぼくの疑問に答えてくれたらしいと悟る。そうですかと頷くが、納得したわけではない。
ノエルはうちによく出入りするから、みんな顔を覚えている。だからすんなり中に入れたのだろう。それに、彼はぼくの遊び相手ということになっているから、いちいちノエルの訪問をぼくに伝えに来る人もいない。お客さんというより、うちで働く使用人的な扱いをされているのだ。もちろん伯爵家のお坊ちゃんだからそれなりに丁寧な扱いはされているけど。
「急に訪れたら迷惑でしたよね」
取り繕うように謝罪めいた言葉を発するノエルには、常日頃の優しいお兄さん的な雰囲気はない。
「迷惑ではないです。遊んでくれるなら嬉しいです」
とりあえず丁寧に接しておけば、ノエルが「そうですか。それはよかったです」と棒読みのセリフを返してくる。
そっとロルフと顔を見合わせる。
よくわからないが、今日のノエルは警戒した方がよさそうだ。
きらきらの石でも探そうかなと地面をじっと見つめる。ロルフはぼくの後ろから、しきりに話しかけてくる。「今日はいい天気ですね」とか、「暑くないですか?」とか。その度に、ぼくはふむふむと頷く。ロルフは特に意味のある会話はしないので、気楽に聞き流すことにしている。
そうして庭をのんびりうろうろしていたが、小さい音が聞こえてパッと顔を上げる。誰かの足音だ。前方を確認すれば、小さい人影を発見できた。
「あれ?」
じっと見つめて、首を捻る。あれ?
「ロルフ! ノエルお兄さんです!」
「え?」
花壇の前にしゃがみ込んで、真剣に花を見ているのはノエルお兄さんだ。今日は来ないと言っていたのに。気が変わったのだろうか。だとしても、連絡くらいしてくれればよかったのに。不思議に思うぼくだが、深くは考えない。一方のロルフは「え? 今日は来ないと聞いていましたけど」と腑に落ちない様子だ。
「ノエルお兄さん!」
すたたっと走って行けば、ノエルが顔を上げる。そうして振り返ったノエルは、ぼくのことを見返してくる。
その冷たい目に、ぼくはピタッと足を止める。
「……ノエルお兄さん?」
「……」
ん? どうした?
普段のノエルであれば「こんにちは、アル様」とにこやかに返してくれる場面である。普段はにこにこしているノエルが、真顔である。え、こわ。
困ってロルフの顔を見上げると、彼も彼で困惑していた。ロルフは、ここにノエルが居ることを不審に思っているらしい。
「ノエルお兄さん。今日は来ないと言っていました」
どうしてここに居るんですか? と問いかけるが、ノエルはじっと黙り込んだままである。ぼくの声が聞こえていないのかと疑いたくなるほど。
「あのぉ?」
窺うように首を傾げてみるが、ノエルは無反応。感情のこもらない冷たい目が、じっとぼくを見据えてくる。
なんか、いつものノエルと違う。今日は不機嫌なんだろうかと考えて、ぼくは思い出す。今日のノエルは、ぼくを物置小屋に閉じ込めた時の彼とそっくりだ。
考え込むぼくに、ノエルがようやく動きを見せた。周囲を見渡して様子を探った彼は、途端ににこりと笑みを浮かべる。けれども、いつもの優しい微笑みではない。笑っているんだけど、どこか冷たい印象を与える作り物っぽい表情だ。
ピシッと警戒心が出てきたぼくは、咄嗟にロルフと手を繋ぐ。手を差し出せば、すぐさま握り返してくれるロルフに、ぼくは一安心する。
そうして心の余裕を取り戻したぼくは、目の前のノエルと向き合う決心をした。さりげなく髪を掻き上げるノエルは、「予定が変わったので」と唐突に吐き捨てる。なんのことかと一瞬考えるが、どうやら先程のぼくの疑問に答えてくれたらしいと悟る。そうですかと頷くが、納得したわけではない。
ノエルはうちによく出入りするから、みんな顔を覚えている。だからすんなり中に入れたのだろう。それに、彼はぼくの遊び相手ということになっているから、いちいちノエルの訪問をぼくに伝えに来る人もいない。お客さんというより、うちで働く使用人的な扱いをされているのだ。もちろん伯爵家のお坊ちゃんだからそれなりに丁寧な扱いはされているけど。
「急に訪れたら迷惑でしたよね」
取り繕うように謝罪めいた言葉を発するノエルには、常日頃の優しいお兄さん的な雰囲気はない。
「迷惑ではないです。遊んでくれるなら嬉しいです」
とりあえず丁寧に接しておけば、ノエルが「そうですか。それはよかったです」と棒読みのセリフを返してくる。
そっとロルフと顔を見合わせる。
よくわからないが、今日のノエルは警戒した方がよさそうだ。
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