上 下
39 / 126

39 外面

しおりを挟む
「アル様、見てください。綺麗な石が落ちていますよ」
「それはぼくのきらきらです! 横取りしないでください」

 さっとしゃがんで、きらきらの石を拾う。ノエルと一緒に庭に出てみたはいいが、何をして遊べばいいのかわからない。それはノエルの方も同じらしく、ロルフもまじえて三人で意味もなく庭を散歩する。

 その道中、きらきらの石を見つけたノエルが得意そうに教えてきたのだ。ここはぼくが毎日遊ぶ庭なので。ここに落ちているきらきらの石は、全部ぼくのものだ。ノエルには渡さない。

 素早くポケットに押し込めて、ノエルを見上げる。楽しそうに微笑むノエルは、ぼくにきらきらの石を奪われても怒らない。それどころか、微笑ましいものでも見るかのような視線を向けてくる。なんだその穏やかな雰囲気は。

 ノエルは、ぼくのことをアル様と呼ぶ。先日はアルくん呼びだったのに。

 もしかして、ノエルなりにこの間の閉じ込め事件はまずかったと反省したのだろうか? それで心を入れ替えたとか?

 いいや、ありえない。そもそも反省するくらいなら、はじめからあんなことしなければよかったのだ。だが、本性を現す気配のないノエルに、ぼくは戸惑う。もしかしてロルフがいるから?

 先日の事件は、ぼくが完全にひとりになった瞬間を狙っていた。ロルフがべったり張り付いているから、ノエルも外面を捨てるわけにはいかないのだろうか。

 きらきらの石を、ポケットから取り出す。首を傾げるノエルに突きつけてみれば、彼は「綺麗ですね」とにこにこだ。

「ほしいですか?」

 ちょっと尋ねてみれば、ノエルは「え」と意外そうな顔をする。

「僕はいいですよ。それはアル様が見つけたものですからね」

 正確には、先に発見したのはノエルだ。なんだこの優しいお兄さん。おまえ、ノエルじゃないだろ。こわい。

 そろそろとノエルから距離をとる。
 警戒するぼくは、ロルフの服の裾をガッチリ掴んで身を守る。

 そんなぼくの行動に、ノエルがぱちぱちと目を瞬いている。だが、ぼくの行動を人見知りだと捉えたのだろうか。「突然知らない人と遊べと言われても、困りますよね」と苦笑する。

 まぁ、困っているのは事実だけど。
 だがそれは人見知りというわけではない。頑なに本性を見せないノエルを警戒しているだけだ。
 ノエルの口から、あの事件に対する謝罪の言葉は出てこない。謝ってくれれば、ぼくもちょっとは考える。今後は意地悪しないと約束してくれるのであれば、仲良くしてやらないこともない。

 じっとノエルのことを見つめるが、彼がこの間の件に触れる様子は一切ない。どうやら本気でなかったことにしようとしているらしい。そうはさせるか。

「ノエルお兄さん! ぼくは騙されません!」
「え? 騙される? なんの話ですか」
「とぼけないでくださぁい!」

 こうなったら意地でもノエルの本性を暴いてやる。そしてリオラお兄様に告げ口するのだ。

 ぱっと身を翻したぼくは、庭の一角にある花壇へと走っていく。ロルフとノエルが慌てて追いかけてくるのを確認して、花壇のすみに隠していたお目当てのものを手に取った。

「ノエルお兄さんめ!」
「ちょ!」

 事前にロルフと一緒に作っておいた、ぼくお手製泥団子を投げつけてやる。驚いたノエルが、大慌てで避けている。ロルフが「あー、ダメですよ。アル様」とやんわり止めに入るが、それくらいで止まるぼくではない。

 べちゃっと、狙いが外れて地面に落下する泥団子。無残な姿になった泥の塊に、ぼくは拳を握りしめる。

「避けないでください!」
「なぜですか?」
「ぼくが不愉快になるので」
「はぁ、そうですか」

 頷きつつも、ノエルは納得いかないような顔をしている。納得いかないのは、ぼくの方だ。なんだその呆れたような目は。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...