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38 初めまして?
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「初めまして、アル様」
初めまして?
盛大に首を捻るぼくをよそに、ノエルは呑気に自己紹介してくる。とてもにこやかな笑顔の彼は、つい先日ぼくを物置小屋に閉じ込めたとは思えないくらい穏やかな雰囲気だ。
リオラお兄様にお友達紹介してあげると言われてから数日後。
お兄様の行動は、はやかった。おそらくお兄様は、ぼくがお友達紹介を拒否する可能性についてこれっぽっちも考えていなかったのだと思う。その証拠に、ぼくがノエルお兄さん嫌いですと宣言した瞬間、お兄様はすごく意外そうな顔をしていた。
ぼくが大人の対応をしたことで、正式にノエルがぼくの遊び相手としてオルコット公爵家にやってきた。リオラお兄様に呼び出されたぼくは、渋々お兄様の部屋に足を向けた。そこで早速、ノエルと対面させられているというわけだ。
ぼくの味方はロルフしかいない。ロルフと手を繋いで、ノエルと顔を合わせる。リオラお兄様の手前、良い子ちゃんを貫くノエルは、「よろしくお願いします、アル様」と礼儀正しく挨拶してくる。この余裕はどこから湧いてくるのだろうか。
ノエルは、ぼくを見るなり「初めまして」と言い切った。ぼくたち、この間一緒に遊んだよね? あの日のこと、ノエルと会った事実から綺麗さっぱり抹消しようとしているのか、こいつは。なんて奴。
腹の立ったぼくは「初めましてじゃありません! この間一緒に遊びました。忘れたとは言わせません!」と、ノエルに指を突きつける。隣に控えていたロルフが、そっとぼくの手をおろす。
だが、ノエルはぱちぱちと目を瞬いて「ん?」という反応をした。「初めましてですよ」と、控えめに訂正してくるノエルは、けれどもそれ以上積極的な反論はしてこない。なんだ、こいつ。
そんな見え透いた嘘で誤魔化せると思っているのか? というか、先日ノエルはリオラお兄様とも顔を合わせたはずである。ここで初めましてを装う意味がわからない。
だが、ノエルは信じられないくらいの意地悪お兄さんなので。多少おかしな言動があっても、そんなものかと納得する。だってノエルは所詮十歳児だ。そんな嘘が通用すると思っているあたり、大人びて見えるが、案外子供っぽい。この調子だと、ぼくにも勝ち目はあるかもしれない。
希望の光が見えて、ぼくはにやりと口角を上げる。ぼくはただの五歳児ではない。前世の記憶がある賢い子なのだ。十歳児の手綱を握るなんて容易いことだ。
「ぼくはアルっていいます」
「存じていますよ」
「五歳です」
「そうですか。僕は十歳です」
「年上アピールですか?」
「違います」
きっぱり否定したノエルは、困ったように顔を引き攣らせている。「仲良くするんだよ」というリオラお兄様の言葉に、ぼくは渋々頷いておく。
リオラお兄様は、ぼくとノエルのご挨拶を見て満足したらしい。「いいお友達ができてよかったね」とにこやかだ。ノエルの外面に騙されてはいけない。今はリオラお兄様がいるから優しいお兄さんぶっているだけだ。リオラお兄様の目が離れた瞬間、こいつは本性を現すに決まっている。
ひとりで警戒心を強めるぼくとは対照的に、リオラお兄様は「ふたりで遊んでおいで」と呑気に笑っている。
気が進まないけど、いつまでもリオラお兄様の部屋に居座るわけにもいかない。
今日はロルフも一緒だし大丈夫だろう。ノエルと顔を合わせるにあたって、ロルフはぼくから目を離さないと約束してくれた。
良い子ちゃんぶったノエルを引き連れて、お兄様の部屋をあとにする。「何をして遊びますか?」と、穏やかなノエル。
「ノエルお兄さん。どういうつもりですか?」
「何がでしょうか」
「ノエルお兄さんは意地悪です」
「え? 僕が?」
なぜですかと、しらを切るノエルは、とことん誤魔化すつもりらしい。なんて図々しい奴。
ロルフとそっと視線を交わす。ノエルの外面モードに、ロルフも戸惑っているらしい。にこにこ笑顔のノエルには、先日の意地悪そうな空気は一切感じられなかった。
初めまして?
盛大に首を捻るぼくをよそに、ノエルは呑気に自己紹介してくる。とてもにこやかな笑顔の彼は、つい先日ぼくを物置小屋に閉じ込めたとは思えないくらい穏やかな雰囲気だ。
リオラお兄様にお友達紹介してあげると言われてから数日後。
お兄様の行動は、はやかった。おそらくお兄様は、ぼくがお友達紹介を拒否する可能性についてこれっぽっちも考えていなかったのだと思う。その証拠に、ぼくがノエルお兄さん嫌いですと宣言した瞬間、お兄様はすごく意外そうな顔をしていた。
ぼくが大人の対応をしたことで、正式にノエルがぼくの遊び相手としてオルコット公爵家にやってきた。リオラお兄様に呼び出されたぼくは、渋々お兄様の部屋に足を向けた。そこで早速、ノエルと対面させられているというわけだ。
ぼくの味方はロルフしかいない。ロルフと手を繋いで、ノエルと顔を合わせる。リオラお兄様の手前、良い子ちゃんを貫くノエルは、「よろしくお願いします、アル様」と礼儀正しく挨拶してくる。この余裕はどこから湧いてくるのだろうか。
ノエルは、ぼくを見るなり「初めまして」と言い切った。ぼくたち、この間一緒に遊んだよね? あの日のこと、ノエルと会った事実から綺麗さっぱり抹消しようとしているのか、こいつは。なんて奴。
腹の立ったぼくは「初めましてじゃありません! この間一緒に遊びました。忘れたとは言わせません!」と、ノエルに指を突きつける。隣に控えていたロルフが、そっとぼくの手をおろす。
だが、ノエルはぱちぱちと目を瞬いて「ん?」という反応をした。「初めましてですよ」と、控えめに訂正してくるノエルは、けれどもそれ以上積極的な反論はしてこない。なんだ、こいつ。
そんな見え透いた嘘で誤魔化せると思っているのか? というか、先日ノエルはリオラお兄様とも顔を合わせたはずである。ここで初めましてを装う意味がわからない。
だが、ノエルは信じられないくらいの意地悪お兄さんなので。多少おかしな言動があっても、そんなものかと納得する。だってノエルは所詮十歳児だ。そんな嘘が通用すると思っているあたり、大人びて見えるが、案外子供っぽい。この調子だと、ぼくにも勝ち目はあるかもしれない。
希望の光が見えて、ぼくはにやりと口角を上げる。ぼくはただの五歳児ではない。前世の記憶がある賢い子なのだ。十歳児の手綱を握るなんて容易いことだ。
「ぼくはアルっていいます」
「存じていますよ」
「五歳です」
「そうですか。僕は十歳です」
「年上アピールですか?」
「違います」
きっぱり否定したノエルは、困ったように顔を引き攣らせている。「仲良くするんだよ」というリオラお兄様の言葉に、ぼくは渋々頷いておく。
リオラお兄様は、ぼくとノエルのご挨拶を見て満足したらしい。「いいお友達ができてよかったね」とにこやかだ。ノエルの外面に騙されてはいけない。今はリオラお兄様がいるから優しいお兄さんぶっているだけだ。リオラお兄様の目が離れた瞬間、こいつは本性を現すに決まっている。
ひとりで警戒心を強めるぼくとは対照的に、リオラお兄様は「ふたりで遊んでおいで」と呑気に笑っている。
気が進まないけど、いつまでもリオラお兄様の部屋に居座るわけにもいかない。
今日はロルフも一緒だし大丈夫だろう。ノエルと顔を合わせるにあたって、ロルフはぼくから目を離さないと約束してくれた。
良い子ちゃんぶったノエルを引き連れて、お兄様の部屋をあとにする。「何をして遊びますか?」と、穏やかなノエル。
「ノエルお兄さん。どういうつもりですか?」
「何がでしょうか」
「ノエルお兄さんは意地悪です」
「え? 僕が?」
なぜですかと、しらを切るノエルは、とことん誤魔化すつもりらしい。なんて図々しい奴。
ロルフとそっと視線を交わす。ノエルの外面モードに、ロルフも戸惑っているらしい。にこにこ笑顔のノエルには、先日の意地悪そうな空気は一切感じられなかった。
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