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37 大人の対応

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 リオラお兄様には、まだ恋人できていないらしい。やっぱりライアン一筋なのかな。

 しかし、恋人のご紹介でないとすれば一体誰をご紹介するというのか。ぼけっと立ち尽くすぼくに、リオラお兄様が優しい目を向けてくる。

 ロルフと一緒にお兄様の言葉を待つ。

 咳払いをしたお兄様は「アルも友達がほしいだろ?」と唐突に投げかけてくる。

「いいえ。お構いなく」

 嫌な予感がしたぼくは、素早く首を左右に振って遠慮しておく。原作小説でのアルのお友達はノエルである。先日顔を合わせたノエルは、とんでもない意地悪お兄さんであった。あれの相手をさせられるなんてごめんである。

「ぼくはひとりでも大丈夫。ロルフと遊びます」

 ね? と事情を知っているロルフを振り返れば、「はい! アル様には俺がいますもんね」と元気に答えてくれる。さすがロルフ。頼りになるな。

 そうしてロルフとにこにこしていれば、リオラお兄様が困ったように小首を傾げる。どうやらリオラお兄様の中では、ぼくにお友達を紹介するということで決まっているらしい。そこに諦めるという選択肢はないのか?

 しかし、ノエルは表向き変な噂はないらしいから。先日の件も、ライアンとリッキーには、ぼくを閉じ込めた犯人はノエルだと伝えているのだが、ふたりがリオラお兄様にその件を報告したのかは定かではない。だからリオラお兄様の耳には、ノエルの悪行がまったく入っていない可能性もあるし、聞いた上でそこまで大事だと考えていない可能性もある。

 これはどっちだろうか。だがライアンは騎士団の副団長で責任感は強い方だ。逐一リオラお兄様に報告している可能性の方が高い。

 であれば、リオラお兄様はノエルの悪行を知った上で、彼をぼくの友達にしようとしているのか。まぁ、ぼくは五歳だし。お兄様的にはぼくが大袈裟に騒ぎ立てていると判断してもおかしくはない。

「ぼく、ノエルお兄さん嫌いです」

 とりあえず、ぼくのお気持ちだけ表明しておこうと思う。ノエルとは仲良くできないと伝えれば、リオラお兄様は目を見開いた。

「あれ? 友達がノエルのことだってよくわかったね」

 しまった。
 ぼくには原作の知識があるから当然のようにご紹介される友達はノエルのことだと判断したが、何も知らないアルとしてこの発言はまずい。

 なんとか誤魔化さねば。

「えっと。この間、ノエルお兄さんに会いました。それで、なんかそんな感じのことを聞きました」

 先日のノエルは、おそらくリオラお兄様に呼び出されてオルコット公爵家を訪れていたのだろう。そこでぼくのお友達になってあげてほしいとお願いされたに違いない。だからノエルから聞かされたことにすれば、そこまでおかしくはないはず。

 頑張って誤魔化すぼくに、お兄様は「そうか。そういえばノエルにもう会ったんだってね」と微笑んでくる。「はい! 会いました!」と元気に答えておく。なんとか誤魔化せたようで安心。

 眉尻を下げるお兄様は、「ノエルのことが嫌いになったのかい? 彼、突然公爵家に呼び出されて緊張していたみたいだから」と困ったように頬を掻く。

 ライアンがどのように報告したのかはわからないが、どうやらリオラお兄様も先日の事件は一応知っているらしい。その上で、ノエルをぼくの友達にしたいというのであれば、この間の件はそんなにたいした事ではないという扱いになっている気がする。まぁ、事実としてぼくに怪我があったわけでもないし。たまたまとはいえ、ライアンたちによってすぐに助け出されている。

 しかし、先日のノエルのあれは緊張云々の話ではない。あれは確実にぼくに対する悪意があった。ノエルは外面がよろしいらしく、リオラお兄様も彼の外面に騙されているらしい。ノエルがそんな酷いことをするわけがないという空気をひしひしと感じる。

 原作でもノエルはぼくのお友達だったしな。ここは変更できない流れなのかもしれない。それにリオラお兄様は、案外頑固だ。ライアンのことを諦めずにずっと追っていたお兄様である。意見をコロコロ変えるような性格ではない。

 仕方がない。ここはぼくが折れてやろう。あまりしつこく粘ると、リオラお兄様がストレスたまって爆発するかも。

「ぼくはノエルお兄さんのこと嫌いですけど。仕方がない。お兄様がどうしてもって言うので、一回くらいは遊んであげます」

 ぼくは偉いとお兄様を見上げれば、「え? あ、うん。ありがとう」と困惑気味のお礼が返ってきた。

 ここは、ぼくが大人の対応をすれば済む話だ。とりあえず、いざという時にノエルに投げつけるための泥団子でも作っておこうと思う。
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