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36 ご紹介

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 シャルお兄さんは、頑なに顔を見せてくれない。こだわりが強すぎる。

「もしかして、リオラお兄様にもそんな感じでお顔見せてないの?」
「はぁ」

 そんなんだからリオラお兄様もシャルお兄さんに心を開かないのでは? よく考えれば、頑なに自分の素顔を晒さない人なんて怪しすぎる。お菓子をくれる最高のお兄さんだと思ってなにも考えずに仲良くしていたが、考え直した方がいいのかな。

「シャルお兄さん。なにかお顔を見せられない理由でもありますか?」
「ありませんよ! 私にやましい点なんてひとつもありません!」
「ふーん?」

 前のめりに自分は怪しくないと主張するシャルお兄さんであるが、そこまで力説されると逆に怪しい。ロルフの袖をこそっと引っ張って、屈むように促す。

「シャルお兄さん。怪しいね」

 お兄さんに聞こえないよう小声で耳打ちすれば、ロルフが「だからガストン団長なんですって」とこれまた小声で言い返してくる。

 それはないと思う。

 諦めの悪いロルフに半眼となるぼく。話が一向に進展しないので、深追いはやめておこう。

「シャルお兄さん。なんかびしょ濡れです」
「これはアル様が」

 変な顔をするシャルお兄さんに、ぼくは持っていたハンカチを渡してあげる。「どうぞ」と差し出せば、シャルお兄さんは恐縮しながら受け取った。

「地面で休憩もいいけど。最近は暑いので気をつけてください」

 正直、こんなところで行き倒れるよりも、日の当たらない室内で休憩した方がいいと思う。「さすがアル様。お優しいですね!」とロルフが褒めてくれるので、うんうん頷いておく。ぼくは気遣いもできるお利口さん。

 そろそろ仕事に戻るというシャルお兄さんを見送って、ぼくも部屋に戻ることにする。

「そういえば、リオラ様がアル様に紹介したい方がいると」

 部屋に戻ってぼけっとしていたぼくに、ロルフが唐突に声をかけてきた。

「ご紹介?」

 なんだろうと考えて、ハッとする。急いで立ち上がったぼくに、ロルフが「リオラ様にお会いしますか?」と扉を開けてくれる。

 お兄様がぼくにご紹介したい人だと? それはあれだ。お兄様の恋人さんに違いない。

 だってそうだろう。弟であるぼくにわざわざ紹介するなんて。それしか考えられない。リオラお兄様は恋愛下手くそだと思っていたのに。どうやらぼくの居ないところで、ちゃっかりいい人を見つけていたらしい。これは大変だ。急いで確かめに行かないと。

 慌ててリオラお兄様の部屋に向かうぼくの後ろを、ロルフが「そんなに慌てなくても。転ばないように気をつけてくださいよ」と言いながら心配そうに追いかけてくる。リオラお兄様、今の時間は部屋で仕事をしているはずだ。お目当ての部屋を早速ノックすれば、「どうぞ」というお兄様の聞き慣れた声が返ってくる。

 わくわくしながら扉を開け放ったぼくは「お兄様!」と本題に入る。

「どうしたのかな、アル」

 手を止めて律儀に耳を傾けてくれるお兄様は、優しい笑顔だ。これはあれだ。嬉しいご報告に違いない。

「お兄様! おめでとうございます!」
「ん? なにが?」

 両手をあげてお祝いすれば、リオラお兄様が首を傾げてしまう。

「お兄様。ついに恋人できました?」
「できてないよ」
「え……」

 できてないの?
 予想外の答えに、ぽかんと口を開ける。

「お兄様に恋人さんができたって。ロルフが言いました」
「言ってないです、言ってないです!」

 俺じゃありませんよ! と顔に前でしきりに手を振るロルフは、大慌てでぼくの発言を否定してくる。

「恋人じゃなくて。紹介したい方がいると」
「ご紹介。恋人さんのご紹介」
「違います」

 きっぱり否定してくるロルフと、困った顔でぼくを見つめてくるリオラお兄様を見比べる。

 どうやらぼくの早とちりだったらしい。ロルフに「ごめんさい」と謝っておけば、「ごめんさい。え、ごめんさい?」と額に手を当てて何やら悶えてしまう。

「ロルフ?」

 大丈夫? と見上げれば「大丈夫です!」とシャキッとした返答があった。大丈夫ならいいんだけど。
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