悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
35 / 151

35 可愛い

しおりを挟む
「シャルお兄さん。リオラお兄様とはいい感じですか?」
「え。い、いえ。実を言うとあまり」

 前髪が邪魔で顔の見えないシャルお兄さんだが、困っている雰囲気は伝わってきた。どうやらリオラお兄様とは、あんまり上手くいっていないらしい。そうだと思った。だってリオラお兄様は、シャルお兄さんのことをなぜかガストン団長だと思い込んでいるから。これでは、リオラお兄様とシャルお兄さんの仲が進展するわけない。

 だが、シャルお兄さんには頑張ってもらわねば。胸の前で拳を握って、お兄さんを励ましておく。

「頑張ってください。ぼく、お兄さんのこと応援するので」
「ありがとうございます」

 お礼を述べたシャルお兄さんであったが、ぼくのことを見据えた彼は「ところで」と首を捻ってしまう。

「アル様は、なぜ私をリオラ様の恋人にしようと?」

 こうなった原因に心当たりがないのですが、と困ったように首筋へと手を持っていくシャルお兄さん。

 そういえば、シャルお兄さんには恋人ご紹介しますと説明しただけだった。お兄さんからすれば、ぼくの行動は突拍子もないものだったのかもしれない。しかし何と説明するべきなのか。ここがBL小説の世界で、ぼくには今後起きるであろう展開がわかっていると説明したところで、シャルお兄さんは理解してくれないと思う。だってぼくと毎日一緒のロルフでさえ信じてくれないから。

「えっと。リオラお兄様には恋人いなくて可哀想だから。恋人ご紹介してあげようと思いました」

 結局、そんな当たり障りのない誤魔化しをする。リオラお兄様が心配です! とごり押しすれば、シャルお兄さんが「左様で」と大きく頷いた。

「アル様は、お兄様のことが心配なんですね」
「そう。お兄様は恋愛下手くそだから心配です」

 原作小説でも、リオラお兄様はライアン一筋になるあまり破滅した。なんというか、引き際を理解していなかったのだ。おまけにリッキーに負けてたまるかというプライド的なものもすごかった。リオラお兄様が、自分にチャンスがないと理解して、早々にライアンを諦めていれば、破滅エンドは免れたはずだ。

 だからぼくとしては、リオラお兄様の目をライアン以外に向けたい。ライアンに執着さえしなければ、リオラお兄様の破滅は回避可能だと思うのだ。

「ぼくは、恋愛には詳しいので。リオラお兄様を一生懸命サポートしています」
「はぁ」

 怪訝な様子のシャルお兄さん。ぼくの背後では、ロルフが「詳しい? え、どこからそんな自信が」とぶつぶつ言っている。なんだか悪口を言われているような気がして、くるっと振り返る。ロルフのことをジトっと見上げれば、「なんでもないです」との棒読みが返ってきた。絶対にぼくに何か言いたいことがある顔をしているのに。

「ぼくは恋愛得意です!」

 一応念押ししておけば、ロルフが「そういうことにしておきましょう」と、ぼくを小馬鹿にしたように肩をすくめていた。そういうことにしておきましょうだと?

「ロルフ! ぼくを馬鹿にしたな!」

 謝ってと地団駄を踏むぼくに、ロルフは「えぇ?」と意外そうな顔を見せた。

「してませんよ! 可愛いなって思っただけで」

 どうやらぼくを馬鹿にしたという自覚がないらしい。しかし、可愛いという言葉にぼくの怒りは鎮まってしまう。可愛いと言われて、悪い気分にはならない。

「ぼくは可愛い」
「はい! 可愛いです!」

 可愛いと言い合うぼくとロルフを交互に眺めたシャルお兄さんは「なにこの謎のやり取り」と呆気に取られていた。

 いけないいけない。
 シャルお兄さんのことを忘れていた。

「シャルお兄さんも自信を持ってください。髪の毛もじゃもじゃだけど、お兄さんはすごくいい人」
「この髪型そんなに気に入らないですか?」

 自分の前髪をしきりに触るシャルお兄さんは、「私は結構気に入っているのですが」と不満そうだ。別に嫌いというわけではないけど。前髪が邪魔で目元が見えない点が、ぼくは不満。おめめ見えた方がいいと思う。

「シャルお兄さん。おめめ見せてくれたら、きらきらの石をあげます」
「石……?」

 もしかしたらシャルお兄さんもきらきら好きかもしれない。きらきらの石につられてくれないかなと期待を込めてお願いしてみるが、シャルお兄さんは面食らったように固まってしまう。

 まさか、きらきらの石好きじゃない?

「すごくきらきらしてます。ぼくの宝物です。使い道はないけど」

 頑張ってきらきらの石の魅力を伝えてみるが、シャルお兄さんは「はぁ」と煮え切らない。きらきらにつられない人がこの世に存在するなんて。

 ちょっぴりショックを受けるぼくの背中を、ロルフが忙しく撫でてくる。「アル様?」と呼びかけられて、ようやく我に返る。

「きらきらの石、無力」

 しゅんと肩を落とすぼく。

「そのきらきらの石とやらで、全部どうにかなると思っていたんですか?」

 シャルお兄さんに控えめに問われて、うんうん頷いておく。「アル様が可愛い!」と天を仰ぐロルフは、相変わらず忙しそうだった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...