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ノエルの名前が出てくる前にと、ぼくは素早くリオラお兄様の部屋を後にする。「あ」と、お兄様が引き止めるように手を伸ばしてきたが、「さよなら」と振り切っておく。
ノエルと友達になるとか絶対に無理。そこまで友達に困っていない。それに、ノエルと一緒に遊んでも、ぼくがいじめられる未来しか見えない。意地悪お兄さんとは遊んであげないもんね。
ロルフの手を引いて廊下に出たぼくであったが、大事なことを思い出した。そういえば、ノエルをリオラお兄様の恋人候補その3にするかどうか、お悩み中であった。
ぴたりと足を止める。
だが、ノエルは意地悪なんだよな。あれをリオラお兄様が好きになるとは思えない。歳の差もあるしね。恋人候補には、ちょっと相応しくないかも。
「恋人候補その3は保留にしておこう」
ね? とロルフに同意を求めれば、「え? あ、はい。そうですね」との曖昧な返答。ロルフは、ぼくの話をいまいち理解していない。何度説明しても、リオラお兄様の破滅を信じてくれない。おかげでぼくは苦労している。
「ノエルは、なんであんなに意地悪なんだろう」
思い出したついでに愚痴ってみれば、ロルフが「うーん」と困ったように首を捻ってしまう。
「ノエル様。そんなに変な噂は聞きませんけどね」
「そうなの?」
ロルフいわく、ノエルは十歳にしては落ち着き払った聡明な子というイメージらしい。世間的にも、そんな変な噂は出回っていないとか。
「でも、俺もノエル様にお会いしたのはあれが初めてですしね」
噂ってあてになりませんね、と苦笑するロルフは、若干の罪悪感のようなものを抱いているらしい。ロルフが気にする必要なんてないのに。悪いのは、五歳であるぼくを閉じ込めて放置したノエルである。
どうやらノエルは外面がいいらしい。思い返せば、ぼくを助けてくれたライアンも、ノエルが犯人と言われて少し戸惑っているようだった。盛大に猫被りしているらしい。なんて奴。
「リオラお兄様が、ノエルと友達になれって言ってきたらどうしよう」
その時は、どうにかお断りしないと。リオラお兄様も、ノエルの外面に騙されているに違いない。五歳であるぼくにだけ、ちらっと本性を見せたのだろう。ぼくが五歳だからって、馬鹿にするんじゃない。もやもやと心配を募らせるぼくに、ロルフがからりと笑ってみせた。
「俺が居るから大丈夫ですよ。今度は目を離したりしないので、安心してください!」
力強く拳を握りしめるロルフは、とても頼りになるように思えた。
「そうだね。ロルフが居るから安心」
「はい! 任せてください!」
ロルフと顔を合わせて、にこにこする。ロルフはちょっぴり失礼な従者ではあるが、基本的にはぼくの味方だから安心。
はちみつちょろまかすけど、それ以外は特に害はない。
「それで? ぼくのはちみつどこに隠したの?」
返してくださいと右手を差し出せば、ロルフがわかりやすく頬を引き攣らせる。そこに先程までの自信たっぷりの笑顔はなかった。
「だから。盗んでなんかいませんよ」
「もしかしてもう食べちゃったの?」
じっとロルフのお腹を凝視する。やっぱりね。毎度毎度ぼくのはちみつが少ないなんておかしいと思った。ぼくのはちみつ、ロルフがこっそり舐めているに違いないのだ。
「あれは、ぼくのはちみつです。ぼくがミルクに入れるようのはちみつ。勝手に食べないで」
「食べていませんよ」
「嘘つき!」
「嘘じゃないですって!」
甘い物ばっかり食べると虫歯になりますよ! と、ぼくを脅してくるロルフは強気だった。こいつ、人のはちみつちょろまかしておいて、なんでこんなに強気なのだろうか。
「リオラお兄様に言ってやる!」
「告げ口なんて卑怯ですよ」
「やましいことがあるのか!」
「だからありませんって」
ぼくを卑怯呼ばわりしてくるロルフは、なにか後ろめたいことがあるらしい。リオラお兄様の耳に、己の悪事が入らないかヒヤヒヤしているのだ。だが、ぼくは心の広いできた主人なので。許してあげようと思う。
もう盗んじゃダメだよ、ぼくのはちみつ。
背中をぽんぽん叩いてよく言い聞かせるが、ロルフは「違いますよ。俺はアル様の健康を考えてですね」と、なにやらもごもごと言い訳を始める。
往生際が悪いぞ。
ノエルと友達になるとか絶対に無理。そこまで友達に困っていない。それに、ノエルと一緒に遊んでも、ぼくがいじめられる未来しか見えない。意地悪お兄さんとは遊んであげないもんね。
ロルフの手を引いて廊下に出たぼくであったが、大事なことを思い出した。そういえば、ノエルをリオラお兄様の恋人候補その3にするかどうか、お悩み中であった。
ぴたりと足を止める。
だが、ノエルは意地悪なんだよな。あれをリオラお兄様が好きになるとは思えない。歳の差もあるしね。恋人候補には、ちょっと相応しくないかも。
「恋人候補その3は保留にしておこう」
ね? とロルフに同意を求めれば、「え? あ、はい。そうですね」との曖昧な返答。ロルフは、ぼくの話をいまいち理解していない。何度説明しても、リオラお兄様の破滅を信じてくれない。おかげでぼくは苦労している。
「ノエルは、なんであんなに意地悪なんだろう」
思い出したついでに愚痴ってみれば、ロルフが「うーん」と困ったように首を捻ってしまう。
「ノエル様。そんなに変な噂は聞きませんけどね」
「そうなの?」
ロルフいわく、ノエルは十歳にしては落ち着き払った聡明な子というイメージらしい。世間的にも、そんな変な噂は出回っていないとか。
「でも、俺もノエル様にお会いしたのはあれが初めてですしね」
噂ってあてになりませんね、と苦笑するロルフは、若干の罪悪感のようなものを抱いているらしい。ロルフが気にする必要なんてないのに。悪いのは、五歳であるぼくを閉じ込めて放置したノエルである。
どうやらノエルは外面がいいらしい。思い返せば、ぼくを助けてくれたライアンも、ノエルが犯人と言われて少し戸惑っているようだった。盛大に猫被りしているらしい。なんて奴。
「リオラお兄様が、ノエルと友達になれって言ってきたらどうしよう」
その時は、どうにかお断りしないと。リオラお兄様も、ノエルの外面に騙されているに違いない。五歳であるぼくにだけ、ちらっと本性を見せたのだろう。ぼくが五歳だからって、馬鹿にするんじゃない。もやもやと心配を募らせるぼくに、ロルフがからりと笑ってみせた。
「俺が居るから大丈夫ですよ。今度は目を離したりしないので、安心してください!」
力強く拳を握りしめるロルフは、とても頼りになるように思えた。
「そうだね。ロルフが居るから安心」
「はい! 任せてください!」
ロルフと顔を合わせて、にこにこする。ロルフはちょっぴり失礼な従者ではあるが、基本的にはぼくの味方だから安心。
はちみつちょろまかすけど、それ以外は特に害はない。
「それで? ぼくのはちみつどこに隠したの?」
返してくださいと右手を差し出せば、ロルフがわかりやすく頬を引き攣らせる。そこに先程までの自信たっぷりの笑顔はなかった。
「だから。盗んでなんかいませんよ」
「もしかしてもう食べちゃったの?」
じっとロルフのお腹を凝視する。やっぱりね。毎度毎度ぼくのはちみつが少ないなんておかしいと思った。ぼくのはちみつ、ロルフがこっそり舐めているに違いないのだ。
「あれは、ぼくのはちみつです。ぼくがミルクに入れるようのはちみつ。勝手に食べないで」
「食べていませんよ」
「嘘つき!」
「嘘じゃないですって!」
甘い物ばっかり食べると虫歯になりますよ! と、ぼくを脅してくるロルフは強気だった。こいつ、人のはちみつちょろまかしておいて、なんでこんなに強気なのだろうか。
「リオラお兄様に言ってやる!」
「告げ口なんて卑怯ですよ」
「やましいことがあるのか!」
「だからありませんって」
ぼくを卑怯呼ばわりしてくるロルフは、なにか後ろめたいことがあるらしい。リオラお兄様の耳に、己の悪事が入らないかヒヤヒヤしているのだ。だが、ぼくは心の広いできた主人なので。許してあげようと思う。
もう盗んじゃダメだよ、ぼくのはちみつ。
背中をぽんぽん叩いてよく言い聞かせるが、ロルフは「違いますよ。俺はアル様の健康を考えてですね」と、なにやらもごもごと言い訳を始める。
往生際が悪いぞ。
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