31 / 148
31 きらきら
しおりを挟む
「お待たせいたしました。アル様」
「ライアン! こんちは」
ガストン団長は、言葉通りにライアンとリッキーを連れて来てくれた。袖を捲ってラフな格好のライアンは、額を拭っている。訓練のお邪魔をしてしまったかもしれない。ここは早々に用事を済ませてしまおう。
「ライアン、リッキー。この間は助けてくれてありがとうございました」
「いえいえ。アル様がご無事でなによりでした」
屈んで目線を合わせてくれるライアンは、優しく微笑んでくれる。リッキーは、相変わらず緊張したような面持ちで、微妙にぼくと視線を合わせてくれない。ぼく相手に、そんな身構えなくてもいいのにな。
忙しいガストン団長は、ぼくにライアンを会わせると、すぐに仕事へと戻って行った。ガストン団長、雰囲気はちょっぴり怖いけど、すごくいい人。
「これどうぞ。この間約束したきらきらの石です」
早速ライアンに石を差し出せば、ライアンは首を傾げて「ん?」という顔をした。なんだその顔は。
「ライアンは、ぼくを助けてくれました。そのお礼です」
再度「どうぞ」と石を差し出せば、「あ、あぁ。あの時の?」となんだか煮え切らない反応。もしかして、石のこと忘れていたのか? それとも、ぼくが五歳だから遠慮しているのだろうか。ライアンは、比較的まともな大人なので、子供から物をもらうのは良くないと考えているのかもしれない。
「遠慮しなくていいです。ぼくはまだたくさん持っているので。きらきらの石」
「そうですか。ではお言葉に甘えて」
ようやく受け取ってくれたライアンは、しげしげと石を観察する。巻いてあるリボンを褒めてくれたライアンに、ぼくはにっこにこ。
「リッキーもどうぞ」
「え」
カチコチに固まっているリッキーにも、石を渡しておく。それを素早く受け取ったリッキーは「ありがとうございます」と、礼儀正しく頭を下げてくる。
「ライアンとリッキー、お揃いにしておきました。ふたりは恋人なので」
「違いますよ?」
「違わないです! お付き合いしていること、ぼくは知っています!」
ぼくを誤魔化すことなんてできないからな、と頬を膨らませておけば、ライアンが「困ったな」と小声で眉尻を下げてしまう。
背後で、ロルフが一生懸命に笑いを堪えている。すごく失礼な従者である。
「大丈夫。リオラお兄様には内緒にしておいてあげます」
「なぜリオラ様には内緒なのですか?」
なぜって。だってリオラお兄様はライアンのことが好きだから。変な質問をしてくるライアンは、もしかしてリオラお兄様の気持ちに気が付いていないのだろうか。頑張れ、リオラお兄様。
いや、でも。
ライアンとリッキーがお付き合いしている今、リオラお兄様がライアンに告白しても勝ち目はない。これはあれだ。早々にライアンに代わる恋人候補を見つけてあげないと。お兄様が破滅する。
「じゃあ、ぼくは忙しいので」
はやくリオラお兄様の恋人を見つけてあげないと。ライアンとリッキーが既にお付き合いしているとリオラお兄様に知られたら大変だ。
「リッキーと仲良くね!」
ばいばいとライアンに手を振れば、「いや、ですから。恋人ではありませんよ」と、律儀に訂正してくる。
わかったわかった。
リオラお兄様には内緒にしておいてあげるから。
※※※
「シャルお兄さんに頑張ってもらわないと。リオラお兄様がピンチ」
「リオラ様が?」
ライアンとリッキーにきらきらの石を渡すことに成功したぼくは、ロルフを引き連れて騎士棟を後にする。
そして、ぼくがいつも遊んでいる庭に戻ると「シャルお兄さん居ませんかぁ!?」と大声で叫んでみる。
しんと静まり返る庭。耳を澄ましてみるが、シャルお兄さんの声は聞こえない。
「ガストン団長には先程会ったじゃないですか」
「もう! だからシャルお兄さんは団長じゃないってば」
しつこいロルフは、「同じですよ」と何度も繰り返す。同じじゃないもん。
面倒くさそうな顔をするロルフのことは放っておいて、庭を駆けまわる。「シャルお兄さん!」と呼びかけながら、きょろきょろしてみるが、シャルお兄さんは落ちていない。
いつもは庭の一角にべちゃっと落ちているのに。
「あ! きらきらの石」
代わりに、きらきらの石を発見した。素早く拾ってポケットに入れておく。ぼくの石コレクション。また増えてしまった。
「石、好きですね」
「きらきらしてるから。もしかして、ロルフもほしいの?」
ポケットの中の石を握って、そろそろとロルフを見上げる。欲しいって言われたらどうしよう。譲ってあげるべきかな。でもぼくが先に見つけたものだし。でもな。ぼくは他にも石、持っているもんな。ロルフは持っていないみたいだし。やっぱり譲ってあげるべきかな。
むむむっと考えるぼく。しかし、ロルフは「いえ。俺は大丈夫です」と遠慮してくれた。
ホッとしたぼくは、再びシャルお兄さんを探し始める。「俺が呼んできましょうか?」と提案してくるロルフ。だが、ロルフに任せると、きっとガストン団長を連れてくると思う。ぼくはガストン団長ではなく、シャルお兄さんを探しているのだ。
自力で見つけるので、お構いなく。
「ライアン! こんちは」
ガストン団長は、言葉通りにライアンとリッキーを連れて来てくれた。袖を捲ってラフな格好のライアンは、額を拭っている。訓練のお邪魔をしてしまったかもしれない。ここは早々に用事を済ませてしまおう。
「ライアン、リッキー。この間は助けてくれてありがとうございました」
「いえいえ。アル様がご無事でなによりでした」
屈んで目線を合わせてくれるライアンは、優しく微笑んでくれる。リッキーは、相変わらず緊張したような面持ちで、微妙にぼくと視線を合わせてくれない。ぼく相手に、そんな身構えなくてもいいのにな。
忙しいガストン団長は、ぼくにライアンを会わせると、すぐに仕事へと戻って行った。ガストン団長、雰囲気はちょっぴり怖いけど、すごくいい人。
「これどうぞ。この間約束したきらきらの石です」
早速ライアンに石を差し出せば、ライアンは首を傾げて「ん?」という顔をした。なんだその顔は。
「ライアンは、ぼくを助けてくれました。そのお礼です」
再度「どうぞ」と石を差し出せば、「あ、あぁ。あの時の?」となんだか煮え切らない反応。もしかして、石のこと忘れていたのか? それとも、ぼくが五歳だから遠慮しているのだろうか。ライアンは、比較的まともな大人なので、子供から物をもらうのは良くないと考えているのかもしれない。
「遠慮しなくていいです。ぼくはまだたくさん持っているので。きらきらの石」
「そうですか。ではお言葉に甘えて」
ようやく受け取ってくれたライアンは、しげしげと石を観察する。巻いてあるリボンを褒めてくれたライアンに、ぼくはにっこにこ。
「リッキーもどうぞ」
「え」
カチコチに固まっているリッキーにも、石を渡しておく。それを素早く受け取ったリッキーは「ありがとうございます」と、礼儀正しく頭を下げてくる。
「ライアンとリッキー、お揃いにしておきました。ふたりは恋人なので」
「違いますよ?」
「違わないです! お付き合いしていること、ぼくは知っています!」
ぼくを誤魔化すことなんてできないからな、と頬を膨らませておけば、ライアンが「困ったな」と小声で眉尻を下げてしまう。
背後で、ロルフが一生懸命に笑いを堪えている。すごく失礼な従者である。
「大丈夫。リオラお兄様には内緒にしておいてあげます」
「なぜリオラ様には内緒なのですか?」
なぜって。だってリオラお兄様はライアンのことが好きだから。変な質問をしてくるライアンは、もしかしてリオラお兄様の気持ちに気が付いていないのだろうか。頑張れ、リオラお兄様。
いや、でも。
ライアンとリッキーがお付き合いしている今、リオラお兄様がライアンに告白しても勝ち目はない。これはあれだ。早々にライアンに代わる恋人候補を見つけてあげないと。お兄様が破滅する。
「じゃあ、ぼくは忙しいので」
はやくリオラお兄様の恋人を見つけてあげないと。ライアンとリッキーが既にお付き合いしているとリオラお兄様に知られたら大変だ。
「リッキーと仲良くね!」
ばいばいとライアンに手を振れば、「いや、ですから。恋人ではありませんよ」と、律儀に訂正してくる。
わかったわかった。
リオラお兄様には内緒にしておいてあげるから。
※※※
「シャルお兄さんに頑張ってもらわないと。リオラお兄様がピンチ」
「リオラ様が?」
ライアンとリッキーにきらきらの石を渡すことに成功したぼくは、ロルフを引き連れて騎士棟を後にする。
そして、ぼくがいつも遊んでいる庭に戻ると「シャルお兄さん居ませんかぁ!?」と大声で叫んでみる。
しんと静まり返る庭。耳を澄ましてみるが、シャルお兄さんの声は聞こえない。
「ガストン団長には先程会ったじゃないですか」
「もう! だからシャルお兄さんは団長じゃないってば」
しつこいロルフは、「同じですよ」と何度も繰り返す。同じじゃないもん。
面倒くさそうな顔をするロルフのことは放っておいて、庭を駆けまわる。「シャルお兄さん!」と呼びかけながら、きょろきょろしてみるが、シャルお兄さんは落ちていない。
いつもは庭の一角にべちゃっと落ちているのに。
「あ! きらきらの石」
代わりに、きらきらの石を発見した。素早く拾ってポケットに入れておく。ぼくの石コレクション。また増えてしまった。
「石、好きですね」
「きらきらしてるから。もしかして、ロルフもほしいの?」
ポケットの中の石を握って、そろそろとロルフを見上げる。欲しいって言われたらどうしよう。譲ってあげるべきかな。でもぼくが先に見つけたものだし。でもな。ぼくは他にも石、持っているもんな。ロルフは持っていないみたいだし。やっぱり譲ってあげるべきかな。
むむむっと考えるぼく。しかし、ロルフは「いえ。俺は大丈夫です」と遠慮してくれた。
ホッとしたぼくは、再びシャルお兄さんを探し始める。「俺が呼んできましょうか?」と提案してくるロルフ。だが、ロルフに任せると、きっとガストン団長を連れてくると思う。ぼくはガストン団長ではなく、シャルお兄さんを探しているのだ。
自力で見つけるので、お構いなく。
1,615
お気に入りに追加
2,312
あなたにおすすめの小説
王太子からは逃げられない!
krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。
日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!?
すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。
過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。
そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!?
それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。
逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが
ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク
王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。
余談だが趣味で小説を書いている。
そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが?
全8話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる