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22 前途多難
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リオラお兄様の恋人候補としてシャルお兄さんを紹介したのだが、なんかもうダメかもしれない。
昨夜、リオラお兄様はシャルお兄さんとガストン団長は同じ人だという前提のもとでぼくに話をしてきた。前途多難だ。何度説明しても理解してもらえない。
いけると思ったんだけどな。シャルお兄さんも、自分はガストン団長ではないと強めに主張すればいいのに。やっぱり上司でもあるリオラお兄様相手には強く主張できないのかな。
「ロルフ! 真面目に探して」
「探してますよ。なんでしたっけ。リオラ様の恋人候補でしたっけ?」
もうリオラ様のことは放っておきましょうよ、と冷たいことを言うロルフ。きっと自分が失恋したのに、自分の代わりである恋人候補を探せと言われて腹を立てているのだ。
本当ならば、ぼくひとりでこっそり探すべきなのかもしれない。けれども、ロルフは四六時中ぼくの側にいるから仕方ない。まだ五歳のぼくである。屋敷内とはいえ、騎士団の訓練場もあったりと危ない場所が多々ある。ぼくひとりで屋敷をうろうろすると、お兄様や両親も良い顔をしないのだ。
そうして適当に庭を歩き回っているのだが、なかなかリオラお兄様の新しい恋人候補は発見できない。
そもそもリオラお兄様はライアン一筋。ライアン以上の候補を見つけるのは至難の業だろう。
たたたっと、少し進んでは立ち止まり、休憩を挟む。ぼくのすぐ背後をついてくるロルフが「うわ、かわいい」ともごもご呟きながら追いかけてくる。
なにが可愛いのだろうか。ロルフの視線の先を追いかけてみるが、どうみても彼はぼくのことを見ている。もしかして、ぼくのことかな。ぼくはよく両親から可愛いと言われる。褒められて悪い気はしない。
ニマニマとひとりで頬を緩めていれば、ロルフが「おや?」と視線を遠くに投げる。つられて顔を上げれば、見知らぬ馬車が玄関先に停車していた。お客さんだろうか。
ロルフと顔を見合わせて、ぼくは考える。リオラお兄様のお客様だろうか。勝手に見に行ったら怒られるかな。
しかし先日、リオラお兄様から「私相手に遠慮する必要はないよ?」と言われていたことを思い出す。
じゃあ、遠慮しなくていいかな。
「ロルフ! 行くよ」
勢いよく駆け出せば、ロルフも早足になる。そうして玄関先の馬車までたどり着いたのだが、中は空っぽ。ちょっとがっかり。
馬の面倒を見ている御者と思われる男の人がいたので「こんちは」と挨拶だけしておく。
ぼくを見て、明らかに緊張を走らせた御者さん。あんまり絡むと可哀想なので、そろそろと離れることにする。使用人が公爵家の息子に挨拶されるとか、多分あまりないことだと思う。これ以上、御者さんを困らせてはいけない。
ロルフを引き連れて、もと来た道を急いで駆ける。
「誰だろうね?」
「誰でしょうね?」
ぼくと一緒になって首を捻るロルフは、お客さんにたいして興味がないらしい。「そんなことより、アル様。恋人候補探しとやらはもういいんですか?」と話題を逸らしてくる。
そうだな。お兄様の恋人探しも大事だな。
しかし、いくら庭をうろうろしても、それらしき人が発見できない。というより、そもそも人と出会わない。困ったな。
「ロルフ。やっぱりお外行かない? お庭でお兄様の恋人候補を見つけるのは難しいと思うの」
「えー。でも勝手に外出すると俺が怒られるんで」
そうなのか。
困ったように頬を掻くロルフ。彼が怒られるのは可哀想。仕方がない。もうちょっと庭で頑張ってみようか。
そうしてロルフと一緒にてくてく歩くけど、やっぱり人と出会えない。たまに使用人さんたちとすれ違うけれども、リオラお兄様にぴったりの人は発見できない。
歩きまわって疲れたぼくは、木陰に座って休憩する。
「そろそろお部屋で遊びません? 外は疲れますよ」
ロルフの言う通り、お日様にあたっていると少し疲れてくる。だが、お部屋に戻ってもな。ぼくの部屋には、お兄様の恋人候補はいない。
むむっと考え込むぼくの隣にしゃがんだロルフは、「おやつにします?」と楽しい提案をしてくる。
「うん。たべる」
歩きまわって小腹も空いた。
立ち上がるぼくに、ロルフが手を貸してくれる。そうしてお茶をするために、ぼくとロルフは早足に屋敷へと戻った。
昨夜、リオラお兄様はシャルお兄さんとガストン団長は同じ人だという前提のもとでぼくに話をしてきた。前途多難だ。何度説明しても理解してもらえない。
いけると思ったんだけどな。シャルお兄さんも、自分はガストン団長ではないと強めに主張すればいいのに。やっぱり上司でもあるリオラお兄様相手には強く主張できないのかな。
「ロルフ! 真面目に探して」
「探してますよ。なんでしたっけ。リオラ様の恋人候補でしたっけ?」
もうリオラ様のことは放っておきましょうよ、と冷たいことを言うロルフ。きっと自分が失恋したのに、自分の代わりである恋人候補を探せと言われて腹を立てているのだ。
本当ならば、ぼくひとりでこっそり探すべきなのかもしれない。けれども、ロルフは四六時中ぼくの側にいるから仕方ない。まだ五歳のぼくである。屋敷内とはいえ、騎士団の訓練場もあったりと危ない場所が多々ある。ぼくひとりで屋敷をうろうろすると、お兄様や両親も良い顔をしないのだ。
そうして適当に庭を歩き回っているのだが、なかなかリオラお兄様の新しい恋人候補は発見できない。
そもそもリオラお兄様はライアン一筋。ライアン以上の候補を見つけるのは至難の業だろう。
たたたっと、少し進んでは立ち止まり、休憩を挟む。ぼくのすぐ背後をついてくるロルフが「うわ、かわいい」ともごもご呟きながら追いかけてくる。
なにが可愛いのだろうか。ロルフの視線の先を追いかけてみるが、どうみても彼はぼくのことを見ている。もしかして、ぼくのことかな。ぼくはよく両親から可愛いと言われる。褒められて悪い気はしない。
ニマニマとひとりで頬を緩めていれば、ロルフが「おや?」と視線を遠くに投げる。つられて顔を上げれば、見知らぬ馬車が玄関先に停車していた。お客さんだろうか。
ロルフと顔を見合わせて、ぼくは考える。リオラお兄様のお客様だろうか。勝手に見に行ったら怒られるかな。
しかし先日、リオラお兄様から「私相手に遠慮する必要はないよ?」と言われていたことを思い出す。
じゃあ、遠慮しなくていいかな。
「ロルフ! 行くよ」
勢いよく駆け出せば、ロルフも早足になる。そうして玄関先の馬車までたどり着いたのだが、中は空っぽ。ちょっとがっかり。
馬の面倒を見ている御者と思われる男の人がいたので「こんちは」と挨拶だけしておく。
ぼくを見て、明らかに緊張を走らせた御者さん。あんまり絡むと可哀想なので、そろそろと離れることにする。使用人が公爵家の息子に挨拶されるとか、多分あまりないことだと思う。これ以上、御者さんを困らせてはいけない。
ロルフを引き連れて、もと来た道を急いで駆ける。
「誰だろうね?」
「誰でしょうね?」
ぼくと一緒になって首を捻るロルフは、お客さんにたいして興味がないらしい。「そんなことより、アル様。恋人候補探しとやらはもういいんですか?」と話題を逸らしてくる。
そうだな。お兄様の恋人探しも大事だな。
しかし、いくら庭をうろうろしても、それらしき人が発見できない。というより、そもそも人と出会わない。困ったな。
「ロルフ。やっぱりお外行かない? お庭でお兄様の恋人候補を見つけるのは難しいと思うの」
「えー。でも勝手に外出すると俺が怒られるんで」
そうなのか。
困ったように頬を掻くロルフ。彼が怒られるのは可哀想。仕方がない。もうちょっと庭で頑張ってみようか。
そうしてロルフと一緒にてくてく歩くけど、やっぱり人と出会えない。たまに使用人さんたちとすれ違うけれども、リオラお兄様にぴったりの人は発見できない。
歩きまわって疲れたぼくは、木陰に座って休憩する。
「そろそろお部屋で遊びません? 外は疲れますよ」
ロルフの言う通り、お日様にあたっていると少し疲れてくる。だが、お部屋に戻ってもな。ぼくの部屋には、お兄様の恋人候補はいない。
むむっと考え込むぼくの隣にしゃがんだロルフは、「おやつにします?」と楽しい提案をしてくる。
「うん。たべる」
歩きまわって小腹も空いた。
立ち上がるぼくに、ロルフが手を貸してくれる。そうしてお茶をするために、ぼくとロルフは早足に屋敷へと戻った。
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