悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

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21 ちょろまかし

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 その日の夜。

 お部屋でのんびりしていたぼくの所へ、リオラお兄様がやって来た。

 ロルフは、ちょうどミルクの用意をしに厨房へと行っていた。はちみつたっぷりね、と散々念押ししたのだが少し心配である。ロルフは、なぜかぼくのはちみつをちょろまかすから。さては、ちょろまかしたはちみつをこっそり舐めているのかもしれない。ぼくのはちみつがピンチだ。

「どうかしましたか、お兄様」

 大人なぼくは、ロルフが居なくてもきっちりお兄様をお出迎えする。椅子にご案内すれば、お兄様は「ありがとう」と微笑んだ。いつ見ても綺麗なにこにこ笑顔である。

 よいしょと向かいに腰を下ろして、リオラお兄様を見上げる。

 就寝前だというのに隙のないきらきらお兄様は、なんだか眉尻をちょびっと下げてお困り顔である。なにか大変なことでもあったのだろうか。

 やがて手を組んだお兄様は、気まずそうに視線をぼくに注いでくる。

「あのね、アル」
「なんですか」
「ガストン団長に悪気はないんだよ」
「?」

 なぜ急にガストン団長。
 よくわからないが、「わかりました!」と元気にお返事しておく。リオラお兄様は繊細なので。余計なストレスをかけてはいけない。いつか爆発してしまう。

「ガストン団長はね、休憩中のだらしない姿をアルに見られて気にしているみたいだから」

 大目に見てあげてね、と小さく笑うお兄様。
 これは、あれだ。ガストン団長とシャルお兄さんは同一人物説の話をしているに違いなかった。

 リオラお兄様、まだ真実に気が付いていないのか。思えばお兄様は、激ニブさんである。BL小説の登場人物なくせして、色々と察しが悪い。リオラお兄様って、おとぼけキャラだったっけ? なんかイメージと違うなぁ。

 しかし、騎士団の裏切り疑惑もまだ晴れてはいない。裏でライアンが糸を引いている可能性もある。お兄様はライアンにベタ惚れのはずだから。少しくらいライアンがおかしなことをしても、なんとなく流してしまう可能性があった。

 はて、どうするべきか。

 ここでぼくが、ガストン団長とシャルお兄さんは別人ですと主張しても、「そんなことないよ」で話が終わってしまう。ここは一旦、わかったふりをしてしまおうか。

 もんもんと考えていたぼくであるが、タイミングよくロルフが戻ってきた。片手には、あったかミルク。

「ロルフ! ごくろう」
「もっと褒めてください!」

 ドヤ顔でミルクを掲げるロルフは、褒められ待ちをしていた。そんな大人気ないロルフに、リオラお兄様があわれむような目を向けている。

「はい、はちみつ入りミルクです」

 コトンと音を立てて、ぼくの前にミルクが置かれる。両手でコップを包み込んでから、はっとする。お兄様の分がない。

 ムムッとお兄様を見上げる。迷った末に、ぼくは「半分いりますか?」と尋ねてみた。苦笑するリオラお兄様は「私はいいよ。アルの分だろう?」と遠慮してくれた。

 これで安心して独り占めできる。

 にやにやしながらミルクを口に含む。

「む! はちみつ少ない!」

 ロルフめ! またちょろまかしたな!

「甘くない! はちみつ多めって言ったのに」

 ジタバタするぼくを眺めて、お兄様は「むし歯になるよ」と宥めてくる。なんでぼくに注意をするのか。ロルフを叱るべきだ。

「お兄様! ロルフはいっつも、はちみつちょろまかしてます! ぼくのはちみつこっそり舐めてます!」
「舐めてませんよ!?」

 慌てて否定するロルフは、己の悪事がリオラお兄様に露見して焦っているようであった。

「ぼくのはちみつ返してくださぁい!」
「盗んでなんかいませんよ!」

 助けてください、リオラ様と。なぜかお兄様に助けを求めるロルフ。当のお兄様は、困惑していた。

「アル? もう遅いからね。その話は明日にしようか」
「ぼくのはちみつが、どうなってもいいってことですか!」
「ほら、早く飲まないと冷めちゃうよ?」
「む」

 お兄様の言うことも一理ある。せっかくのあったかミルクが、ひえひえミルクになってしまう。それはダメ。

 はちみつの件は気になるが、気持ちを切り替えてミルクを飲む。何回口をつけても、やはり甘さが足りない。ぼくのはちみつ。今頃、ロルフのお腹の中かもしれない。じっと、ロルフのことを半眼で見つめておく。「盗んでないですってば」と、ロルフがもごもご言い返している。すごく怪しい。

「ロルフはたまに嘘をつきます。ぼくを揶揄って遊んでいます」
「冤罪ですよ」

 どこが冤罪なんだ。ぼくの舌足らずをニヤニヤ笑っているじゃないか。ここぞとばかりに、リオラお兄様にロルフの悪行を報告しておく。眉尻を下げて「そうなんだ」と小首を傾げるお兄様は、いかにロルフが悪い男なのか理解してくれたと思う。

 ムスッと頬を膨らませながらミルクを味わうが、やっぱりはちみつが足りなかった。
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