悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

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14 ちょっと違うかも

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「じゃあ、ぼくは忙しいので帰ります」

 人質お兄さんを解放して、ぺこりとお辞儀しておく。ライアンとガストン団長が引きとめようとしてくるが、全力で走って逃げた。その後ろを、ロルフが余裕の表情でついてくる。

「犯人ごっこはもう終わりですか?」

 ぼくがいつ犯人ごっこなんてしたのか。見る目のないロルフを、じとっと半眼で見遣ってから、屋敷に戻る。

 急いで自室にこもって、作戦会議である。

「まず、ガストン団長はとってもクール」
「そうですかね?」

 なぜか疑問を呈してくるロルフは、ガストン団長は嘘つきだと主張している。何を言うのか。嘘つきはライアンの方だ。

「それで、ライアンはガストン団長のことが嫌い」
「別に嫌いではないと思いますよ? ちょっと団長の見栄っ張りに呆れているだけで」

 だからその見栄っ張り設定はなんなのだ。原作小説にも、ガストン団長が見栄っ張りという設定はなかったぞ。

「あとロルフも嘘つき」
「なんでですか」

 ムッとするロルフは、嘘つきは団長だとしつこく主張してくる。君はちょっと黙っていなさい。

 現時点でわかっていることを、ひとつずつ確認していくが、まとまらない。

 一体誰と誰が仲良しで、誰と誰が不仲なのか。よくわからなくなってしまった。

 そもそも原作小説でのリオラお兄様は、悪役令息である。それはもうわかりやすい悪役令息だったので、なんかこうもっと意地の悪い感じの男だった。それがどうだ。今のリオラお兄様は、ただただ線の細いイケメンさんだ。のほほんと穏やかで、常ににこにこしている。

 原作とイメージがちょっと違う。悪役特有の冷たさを感じない。

「……リオラお兄様って実は意地悪だったりする?」

 もしや弟であるぼくの前でだけは、優しいお兄ちゃんの皮を被っている可能性もある。ロルフに確認すれば、「この間から。なんでリオラ様を悪者っぽく言うんですか? 喧嘩でもしました? 反抗期?」と、首を捻られてしまった。

 なにやらぼくの悪口が聞こえた気もするが、ここはスルーしておこう。

 どうやらロルフの目から見ても、リオラお兄様は優しいお兄ちゃんに見えるらしい。

 これは一体?

 現実と原作小説との違いが多過ぎる。これまでは、多少の違いがあっても「まぁ、現実世界にフィクションそのままは持ってこれないよね」で納得していたのだが。実際に、原作小説では語られていない時間が存在している。

 原作開始はリオラお兄様が十六歳の時(つまり今)であり、それより前の時間については語られていない。

 けれども、ここは現実である以上、ぼくはリオラお兄様が十五歳や十四歳の時の姿をこの目でしっかりと見ている。だから小説展開と多少の違いがあっても仕方がないと考えていたのだが、流石に登場人物のキャラが違い過ぎるのは見過ごせない。

 もはや原作小説要素の方が少ないまである。

 ちらりとロルフを見上げる。こいつだって、小説には登場していなかった。

 もしかして、既に原作小説から展開がズレている?

 衝撃の可能性に思い至ったぼくは、固まってしまう。そうだとすれば、リオラお兄様が悪役令息にならない未来へと動いているのか? そうだとすれば喜ぶべきだが、まだ不明点が多い。手放しでは喜べない。

 こういう時って、どうすればいいのだろうか。

 とりあえず、原作路線に戻してみるか? いや、それだとリオラお兄様が破滅してしまう。であれば、やはりお兄様が自暴自棄にならないよう、お兄様とライアンをくっつけるべきか。だが、そうなるとリッキーはどうなるのか。

 そもそも、ライアンとリッキーは既にお付き合いしているのか? 原作小説だと、ライアンがリッキーに猛アピールしていてもおかしくはないくらいの時期だと思うのだが、そのような気配は感じない。

 どうしよう。終着点が見えなくなってしまった。

 黙り込んでしまったぼくを、ロルフが心配そうに見てくるが、それどころではなかった。
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