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11 騎士団
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リオラお兄様いわく。
落ちてるお兄さんは、ガストン団長である。しかし、ガストン団長は見栄っ張りでもある。ぼくがきらきらした目で、ガストン団長はあんな風にべちゃっとしません! と大声で宣言したものだから、ぼくの期待を裏切ってはいけないと、咄嗟に自分は落ちてるお兄さんではないと嘘をついたらしい。
「ガストンにも困ったものだね。なんであんなに見栄っ張りなのか」
苦笑するリオラお兄様を、ぼくはずっと半眼で眺めている。果たして、どこまで信用してよいのか。
情報源を問いただすと、あろうことかライアンだと言う。あいつは、ちょびっと嘘つきである。リオラお兄様を騙している可能性は捨てきれない。
自分の保身のために、ガストン団長を悪者に仕立て上げようとしているのかもしれない。疑いを抱いたまま、「そうですか」とお返事しておく。
これ以上、リオラお兄様を困らせるわけにはいかない。お兄様は、原作小説にて、自暴自棄になって破滅行為をするほど繊細なのだ。余計なストレスをかけると、爆発するかもしれない。
なので、表面上ではお兄様の言葉に乗っかっておくことにする。おのれ、ライアンめ! お兄様を騙すためにガストン団長を陥れるとは何事だ。
「ガストン団長は、見栄っ張り」
とりあえず、ライアンが捏造した設定を覚えておこうと何度も見栄っ張りと口の中で繰り返しておくと、リオラお兄様が「いや、あの。そんな真剣に覚えなくても大丈夫だよ?」と困った顔になってしまう。
ひと通り話して満足したのだろう。腰を上げたお兄様は、「夜更かししたらいけないよ」と言い残して帰って行った。
入れ替わりで入室して来たロルフを手招きする。
「ロルフ! 大変だよ」
「なんですか? 寝る前のミルクでも禁止されましたか」
「違う!」
ぼくはここ最近、おやすみ前にあったかいミルクを飲むのがお気に入りなのだ。はちみつたっぷりの甘いやつ。もっとはちみつ入れろと指示するのだが、ロルフはいつもはちみつ少なめにしてしまう。
あまりにもロルフが言うこときかないものだから、一度リオラお兄様に、ロルフがはちみつをちょろまかしていると報告したことがある。首を捻ったお兄様は、「虫歯になるよ?」と、なぜかぼくを注意してきた。ちゃんと歯磨きしているから大丈夫です!
そういえば、今日はまだミルクを飲んでいない。はやく準備してとロルフを急かせば、彼は「はいはい。はちみつ少なめですね」と、部屋を出ていく。だから! はちみつはたくさんって言っているでしょうが!
※※※
「ライアンは嘘つき」
「うーん? 嘘つきはガストン団長だと思いますけどね」
翌日。
朝から気合いバッチリのぼくは、ロルフを引き連れて庭を歩きまわっていた。じっと足元を凝視して、落ちている枝を物色して歩くぼくの後ろを、ロルフが不満たらたらでついてくる。
「ロルフも嘘つきって、リオラお兄様に言っておいたから!」
ビシッと指差せば、そっと手を下ろされる。「告げ口なんて卑怯ですよ」と、困った顔するロルフは、まったく反省していなかった。
「ぼくに謝って」
「えぇ? なんの謝罪ですか」
顔を顰めるロルフは、告げ口されたことでリオラお兄様に叱られることを恐れているらしい。ぼくに嘘なんてつくから、こうなるんだぞ。どうしてロルフが、ライアンと一緒になってぼくを騙したのか、理由がはっきりしない。だがロルフはだいたいいつも失礼な人だ。ぼくが騙されてあわあわしている姿を見たくて、ライアンに便乗して嘘をついたのかもしれない。
「えー、申し訳ありませんでしたぁ」
頭を掻くロルフは、すごく棒読みで謝罪してきた。全然心がこもっていない。
ロルフをひと睨みして、手頃な枝を拾う。結構大きくて良い枝だ。試しにぶんぶん振りまわしてみれば、ロルフが「アル様がご乱心」と失礼なことを口走る。
「よし! 行くぞ、ロルフ」
「どちらへ?」
「騎士棟」
「またですか」
げんなりするロルフに、本日の目的を教えてやる。今日は重要ミッションがあるのだ。
「いいか、ロルフ。今日は、騎士団に殴り込みに行きます」
「殴り込みに……?」
口元を覆ったロルフは、「え。マジでご乱心ですか?」とクソ失礼なことを言ってくる。
ここまでの状況を簡潔にまとめると、ライアンは大嘘つき野郎である。
それだけならまだしも。ライアンの大嘘に、騎士団が丸ごと関与している可能性が浮上した。これは見過ごせない。
原作小説でも、リオラお兄様が破滅するのは、騎士団の反乱が原因と言っても過言ではない。それを主導したのがガストン団長だ。
ライアンとリッキーの仲を応援していた騎士団は、リッキーに嫌がらせをするリオラお兄様に敵意を持ち始める。だが、リオラお兄様は簡単に言ってしまえば彼らの雇用主である。内心で不満を抱いていたとしても、彼らはそれを表には出さない。職を失うと困るからな。そんなこんなで、表面上ではオルコット家は平穏を保っていた。
けれどもそれも、長くは続かない。リッキーへの嫌がらせが度を越した瞬間、ぎりぎりで保たれていた均衡は呆気なく崩れ去った。
オルコット家に見切りをつけた騎士たちは、裏で結託を始める。そうしてライアンとリッキーが去ったオルコット家は、ついに騎士たちの怒りが爆発して破滅を迎えるのだ。
要するに、騎士団との関係が悪化するというのは、リオラお兄様が破滅への道を順調に進んでいるということの証拠となってしまう。
そこで、ぼくが今やるべきことはひとつ。
騎士団に乗り込んで、彼らのリオラお兄様への忠誠がいかほどのものか確かめるのだ。
落ちてるお兄さんは、ガストン団長である。しかし、ガストン団長は見栄っ張りでもある。ぼくがきらきらした目で、ガストン団長はあんな風にべちゃっとしません! と大声で宣言したものだから、ぼくの期待を裏切ってはいけないと、咄嗟に自分は落ちてるお兄さんではないと嘘をついたらしい。
「ガストンにも困ったものだね。なんであんなに見栄っ張りなのか」
苦笑するリオラお兄様を、ぼくはずっと半眼で眺めている。果たして、どこまで信用してよいのか。
情報源を問いただすと、あろうことかライアンだと言う。あいつは、ちょびっと嘘つきである。リオラお兄様を騙している可能性は捨てきれない。
自分の保身のために、ガストン団長を悪者に仕立て上げようとしているのかもしれない。疑いを抱いたまま、「そうですか」とお返事しておく。
これ以上、リオラお兄様を困らせるわけにはいかない。お兄様は、原作小説にて、自暴自棄になって破滅行為をするほど繊細なのだ。余計なストレスをかけると、爆発するかもしれない。
なので、表面上ではお兄様の言葉に乗っかっておくことにする。おのれ、ライアンめ! お兄様を騙すためにガストン団長を陥れるとは何事だ。
「ガストン団長は、見栄っ張り」
とりあえず、ライアンが捏造した設定を覚えておこうと何度も見栄っ張りと口の中で繰り返しておくと、リオラお兄様が「いや、あの。そんな真剣に覚えなくても大丈夫だよ?」と困った顔になってしまう。
ひと通り話して満足したのだろう。腰を上げたお兄様は、「夜更かししたらいけないよ」と言い残して帰って行った。
入れ替わりで入室して来たロルフを手招きする。
「ロルフ! 大変だよ」
「なんですか? 寝る前のミルクでも禁止されましたか」
「違う!」
ぼくはここ最近、おやすみ前にあったかいミルクを飲むのがお気に入りなのだ。はちみつたっぷりの甘いやつ。もっとはちみつ入れろと指示するのだが、ロルフはいつもはちみつ少なめにしてしまう。
あまりにもロルフが言うこときかないものだから、一度リオラお兄様に、ロルフがはちみつをちょろまかしていると報告したことがある。首を捻ったお兄様は、「虫歯になるよ?」と、なぜかぼくを注意してきた。ちゃんと歯磨きしているから大丈夫です!
そういえば、今日はまだミルクを飲んでいない。はやく準備してとロルフを急かせば、彼は「はいはい。はちみつ少なめですね」と、部屋を出ていく。だから! はちみつはたくさんって言っているでしょうが!
※※※
「ライアンは嘘つき」
「うーん? 嘘つきはガストン団長だと思いますけどね」
翌日。
朝から気合いバッチリのぼくは、ロルフを引き連れて庭を歩きまわっていた。じっと足元を凝視して、落ちている枝を物色して歩くぼくの後ろを、ロルフが不満たらたらでついてくる。
「ロルフも嘘つきって、リオラお兄様に言っておいたから!」
ビシッと指差せば、そっと手を下ろされる。「告げ口なんて卑怯ですよ」と、困った顔するロルフは、まったく反省していなかった。
「ぼくに謝って」
「えぇ? なんの謝罪ですか」
顔を顰めるロルフは、告げ口されたことでリオラお兄様に叱られることを恐れているらしい。ぼくに嘘なんてつくから、こうなるんだぞ。どうしてロルフが、ライアンと一緒になってぼくを騙したのか、理由がはっきりしない。だがロルフはだいたいいつも失礼な人だ。ぼくが騙されてあわあわしている姿を見たくて、ライアンに便乗して嘘をついたのかもしれない。
「えー、申し訳ありませんでしたぁ」
頭を掻くロルフは、すごく棒読みで謝罪してきた。全然心がこもっていない。
ロルフをひと睨みして、手頃な枝を拾う。結構大きくて良い枝だ。試しにぶんぶん振りまわしてみれば、ロルフが「アル様がご乱心」と失礼なことを口走る。
「よし! 行くぞ、ロルフ」
「どちらへ?」
「騎士棟」
「またですか」
げんなりするロルフに、本日の目的を教えてやる。今日は重要ミッションがあるのだ。
「いいか、ロルフ。今日は、騎士団に殴り込みに行きます」
「殴り込みに……?」
口元を覆ったロルフは、「え。マジでご乱心ですか?」とクソ失礼なことを言ってくる。
ここまでの状況を簡潔にまとめると、ライアンは大嘘つき野郎である。
それだけならまだしも。ライアンの大嘘に、騎士団が丸ごと関与している可能性が浮上した。これは見過ごせない。
原作小説でも、リオラお兄様が破滅するのは、騎士団の反乱が原因と言っても過言ではない。それを主導したのがガストン団長だ。
ライアンとリッキーの仲を応援していた騎士団は、リッキーに嫌がらせをするリオラお兄様に敵意を持ち始める。だが、リオラお兄様は簡単に言ってしまえば彼らの雇用主である。内心で不満を抱いていたとしても、彼らはそれを表には出さない。職を失うと困るからな。そんなこんなで、表面上ではオルコット家は平穏を保っていた。
けれどもそれも、長くは続かない。リッキーへの嫌がらせが度を越した瞬間、ぎりぎりで保たれていた均衡は呆気なく崩れ去った。
オルコット家に見切りをつけた騎士たちは、裏で結託を始める。そうしてライアンとリッキーが去ったオルコット家は、ついに騎士たちの怒りが爆発して破滅を迎えるのだ。
要するに、騎士団との関係が悪化するというのは、リオラお兄様が破滅への道を順調に進んでいるということの証拠となってしまう。
そこで、ぼくが今やるべきことはひとつ。
騎士団に乗り込んで、彼らのリオラお兄様への忠誠がいかほどのものか確かめるのだ。
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