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9 ガストン団長
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「ガストン団長に確認します! 嘘だったら許さないから!」
リオラお兄様に言いつけてやる! とビシッとロルフを指差せば、そっと手を下ろされた。
ライアンは頑なだった。落ちてるお兄さんは、ガストン団長だと言って譲らなかった。ぼくを揶揄って遊ぶなんて許せない。ふんっと気合いを入れてガストン団長探しを始めようとするぼくを、ライアンが止めた。
「団長でしたら俺が呼んできますよ。アル様はここでお待ちください」
「よろしくお願い、はっ!」
「アル様?」
それはいけない。
強かなライアンのことである。落ちてるお兄さんとガストン団長が同一人物だという盛大な嘘をついた彼は、なんかこう上手い具合に誤魔化すおそれがあった。たぶん、ぼくをここに残してひとりガストン団長を探しに行ったライアンは、そのままガストン団長との口裏合わせをするんだ。ぼくを騙すためにそこまでするか。主人公め!
「ぼくも一緒に探しに行きます!」
手をあげて宣言すれば、ライアンが「アル様はここでお待ちください。どこにいるかわかりませんので少々探さなければなりません」とどうにかぼくを撒こうとしてくる。なんて奴だ。そこまでしてぼくを騙したいか。
「大丈夫です。ぼくも探します。探し物は得意です。最近もよく虫さんを見つけています」
「ガストン団長って虫と同列なんですか?」
なにやら笑いを堪えるライアンは、そう言って俯いてしまう。このままでは置いて行かれてしまう。ピンチに陥ったぼくは、ロルフの袖を握る。
「ロルフに抱っこしてもらうのでたくさん歩けます。ご心配なく」
「それってたくさん歩くのは俺ですよね?」
意外と鋭いロルフは、嫌なことに気付いてしまう。だが彼はぼくのお世話係だ。責任持ってお世話するべきだ。
「抱っこして。お礼に一番きれいな石をあげる」
「石……?」
お庭で拾ったきらきらの石だ。きれいだから拾ったけれど、使い道がない。持て余しているのでロルフにあげてしまおう。
だがロルフは不服そうな表情だ。構うものか。両手を広げて抱っこをお願いする。しばらくぼくをじっと凝視していたロルフであったが、やがて屈んで抱き上げてくれた。よしよし。あとできらきらの石をあげないと。一番大きいやつを譲ってあげよう。
「ガストン団長! ガストン団長はどこですか!」
「すごい大声出しますね、アル様」
なんだ。五歳児が大声出したらいけないのか。ガストン団長を発見するためにはこれくらい大声出さないとダメなのだ。
ロルフの言葉にムスッとするぼくであったが、ぼくは現在ロルフに抱っこされていた。もしかして耳元で叫ぶなって意味? だったらごめんなさい。
「うるさかった? ごめんさい」
「ごめんさい……。もう一回言ってもらえません?」
再度の謝罪を要求してくるロルフは、なにやらブチ切れているらしい。なんてことだ。まさかそんなに怒るなんて。そんなにうるさかったのか、ぼく。あわわと震えていれば、ロルフが「え。急にどうされましたか?」とあわあわし始める。
「ロルフブチ切れ。ぼく悲し」
「えぇ? 怒ってはないですよ。ただ言い方が可愛らしかったんでもう一度って思っただけで」
なんだと。紛らわしいことしやがって!
「ぼくを笑う気だな! なんてやつだ!」
許すまじ! とロルフの頭をぺしぺし叩いておく。「笑いはしませんよ」と言い訳を並べるロルフなんてもう知らない。
「ガストン団長はどこですかぁ!」
「声でか」
腹いせにありったけの大声を出しておく。五歳児を舐めてはいけない。そうして何度かガストン団長の名前を連呼していた時である。苦笑しながら前方を歩いていたライアンが「あ。団長いましたよ」とにこやかに振り向いた。
「団長! 団長をこっちに呼んでください」
手を振ってライアンに要求すれば、「はい、ただいま」と応じてくれる。
「ほら! ロルフもはやく! 団長を逃してはいけない」
「別に逃げはしないと思いますけどね」
ぐちぐちたらたら文句ばかりのロルフ。いいから。君はぼくのお世話をしておきなさい。
そうしてようやく会うことのできたガストン団長は、小説通りクールなイケメンさんだった。
キリッとした表情は、なにを考えているのかわからない。冷たい印象を与える鋭い黒目が、ぼくを射抜く。背が高く体格も良い。艶のある黒髪をきっちり撫で付けて、立ち振る舞いにも隙がない。
まさしく寡黙なヒーロー。ガストン・シャーウッドその人だった。
あまりの威圧感に口を噤むぼく。だって五歳児だもん。にこにこしてない大人には近寄りがたいお年頃なのです。代わりにロルフの頭をぺしぺし叩いて促してみる。意図を察したロルフは偉い。ご褒美にきらきらの石をもう一個あげようと思う。
「ガストン団長。つかぬことをお伺いいたしますが。アル様がおっしゃっている落ちてるお兄さんとやらは貴殿のことでよろしいですよね」
動かないガストン団長。ピリつく雰囲気に、ぼくは拳を握りしめる。緊張の瞬間である。
そうして静かに団長の言葉を待つぼくであったが、寡黙なガストン団長は僅かに眉を寄せるだけで否定も肯定もしない。
こ、これは!
そんなわけないだろ的な空気をひしひし感じる。大人でクールなガストン団長が地面にべちゃっと落ちてるお兄さんと同一人物なわけがなかった。ライアンめ! やっぱりぼくを騙したな!
「ガストン団長はクールな大人。あんな風にべちゃっと落ちません!」
ふんっと鼻息荒く宣言すれば、ガストン団長が一瞬だけ目を見張る。だがさすがクール。すぐにすんっと無表情に戻った彼は「左様でございます」と落ち着き払った声音で応じる。
「落ちてるお兄さんとやらに心当たりはございません。なにかの勘違いでは?」
「ほら! 嘘つきライアンめ! お兄様に言い付けてやる!」
ビシッと指を突きつけてやれば、ライアンが驚いたように目を剥いていた。
「はぁ!? 今更なにをクールぶっているんですか!」
「クールぶってなどいない。私は元からこういう性格だ」
「盛大な嘘をつかないで頂きたい」
すごい勢いでガストン団長に詰め寄るライアンは、団長が思い通りの返答をしてくれないことが不満らしい。そんなに上手くいくと思うなよ。ぼくを騙そうなんてするからだ。
勝ち誇るぼくに、ロルフが微妙な視線を向けてくる。そういえばこいつも嘘つきだ。ライアンと共にぼくを貶めようとした共犯である。許すまじ。
「ロルフ、やっぱりきれいな石はあげない」
嘘つきにご褒美なんてあげないもんね。「はぁ」と気の抜けた返事をするロルフは、石がもらえなくてショックを受けているらしい。
「嘘つくからこうなるんだよ」
もう嘘ついたらダメだよ、と諭せば、ロルフは「いや、嘘つきはガストン団長ですよ」と悪あがきしてくる。往生際悪いぞ!
リオラお兄様に言いつけてやる! とビシッとロルフを指差せば、そっと手を下ろされた。
ライアンは頑なだった。落ちてるお兄さんは、ガストン団長だと言って譲らなかった。ぼくを揶揄って遊ぶなんて許せない。ふんっと気合いを入れてガストン団長探しを始めようとするぼくを、ライアンが止めた。
「団長でしたら俺が呼んできますよ。アル様はここでお待ちください」
「よろしくお願い、はっ!」
「アル様?」
それはいけない。
強かなライアンのことである。落ちてるお兄さんとガストン団長が同一人物だという盛大な嘘をついた彼は、なんかこう上手い具合に誤魔化すおそれがあった。たぶん、ぼくをここに残してひとりガストン団長を探しに行ったライアンは、そのままガストン団長との口裏合わせをするんだ。ぼくを騙すためにそこまでするか。主人公め!
「ぼくも一緒に探しに行きます!」
手をあげて宣言すれば、ライアンが「アル様はここでお待ちください。どこにいるかわかりませんので少々探さなければなりません」とどうにかぼくを撒こうとしてくる。なんて奴だ。そこまでしてぼくを騙したいか。
「大丈夫です。ぼくも探します。探し物は得意です。最近もよく虫さんを見つけています」
「ガストン団長って虫と同列なんですか?」
なにやら笑いを堪えるライアンは、そう言って俯いてしまう。このままでは置いて行かれてしまう。ピンチに陥ったぼくは、ロルフの袖を握る。
「ロルフに抱っこしてもらうのでたくさん歩けます。ご心配なく」
「それってたくさん歩くのは俺ですよね?」
意外と鋭いロルフは、嫌なことに気付いてしまう。だが彼はぼくのお世話係だ。責任持ってお世話するべきだ。
「抱っこして。お礼に一番きれいな石をあげる」
「石……?」
お庭で拾ったきらきらの石だ。きれいだから拾ったけれど、使い道がない。持て余しているのでロルフにあげてしまおう。
だがロルフは不服そうな表情だ。構うものか。両手を広げて抱っこをお願いする。しばらくぼくをじっと凝視していたロルフであったが、やがて屈んで抱き上げてくれた。よしよし。あとできらきらの石をあげないと。一番大きいやつを譲ってあげよう。
「ガストン団長! ガストン団長はどこですか!」
「すごい大声出しますね、アル様」
なんだ。五歳児が大声出したらいけないのか。ガストン団長を発見するためにはこれくらい大声出さないとダメなのだ。
ロルフの言葉にムスッとするぼくであったが、ぼくは現在ロルフに抱っこされていた。もしかして耳元で叫ぶなって意味? だったらごめんなさい。
「うるさかった? ごめんさい」
「ごめんさい……。もう一回言ってもらえません?」
再度の謝罪を要求してくるロルフは、なにやらブチ切れているらしい。なんてことだ。まさかそんなに怒るなんて。そんなにうるさかったのか、ぼく。あわわと震えていれば、ロルフが「え。急にどうされましたか?」とあわあわし始める。
「ロルフブチ切れ。ぼく悲し」
「えぇ? 怒ってはないですよ。ただ言い方が可愛らしかったんでもう一度って思っただけで」
なんだと。紛らわしいことしやがって!
「ぼくを笑う気だな! なんてやつだ!」
許すまじ! とロルフの頭をぺしぺし叩いておく。「笑いはしませんよ」と言い訳を並べるロルフなんてもう知らない。
「ガストン団長はどこですかぁ!」
「声でか」
腹いせにありったけの大声を出しておく。五歳児を舐めてはいけない。そうして何度かガストン団長の名前を連呼していた時である。苦笑しながら前方を歩いていたライアンが「あ。団長いましたよ」とにこやかに振り向いた。
「団長! 団長をこっちに呼んでください」
手を振ってライアンに要求すれば、「はい、ただいま」と応じてくれる。
「ほら! ロルフもはやく! 団長を逃してはいけない」
「別に逃げはしないと思いますけどね」
ぐちぐちたらたら文句ばかりのロルフ。いいから。君はぼくのお世話をしておきなさい。
そうしてようやく会うことのできたガストン団長は、小説通りクールなイケメンさんだった。
キリッとした表情は、なにを考えているのかわからない。冷たい印象を与える鋭い黒目が、ぼくを射抜く。背が高く体格も良い。艶のある黒髪をきっちり撫で付けて、立ち振る舞いにも隙がない。
まさしく寡黙なヒーロー。ガストン・シャーウッドその人だった。
あまりの威圧感に口を噤むぼく。だって五歳児だもん。にこにこしてない大人には近寄りがたいお年頃なのです。代わりにロルフの頭をぺしぺし叩いて促してみる。意図を察したロルフは偉い。ご褒美にきらきらの石をもう一個あげようと思う。
「ガストン団長。つかぬことをお伺いいたしますが。アル様がおっしゃっている落ちてるお兄さんとやらは貴殿のことでよろしいですよね」
動かないガストン団長。ピリつく雰囲気に、ぼくは拳を握りしめる。緊張の瞬間である。
そうして静かに団長の言葉を待つぼくであったが、寡黙なガストン団長は僅かに眉を寄せるだけで否定も肯定もしない。
こ、これは!
そんなわけないだろ的な空気をひしひし感じる。大人でクールなガストン団長が地面にべちゃっと落ちてるお兄さんと同一人物なわけがなかった。ライアンめ! やっぱりぼくを騙したな!
「ガストン団長はクールな大人。あんな風にべちゃっと落ちません!」
ふんっと鼻息荒く宣言すれば、ガストン団長が一瞬だけ目を見張る。だがさすがクール。すぐにすんっと無表情に戻った彼は「左様でございます」と落ち着き払った声音で応じる。
「落ちてるお兄さんとやらに心当たりはございません。なにかの勘違いでは?」
「ほら! 嘘つきライアンめ! お兄様に言い付けてやる!」
ビシッと指を突きつけてやれば、ライアンが驚いたように目を剥いていた。
「はぁ!? 今更なにをクールぶっているんですか!」
「クールぶってなどいない。私は元からこういう性格だ」
「盛大な嘘をつかないで頂きたい」
すごい勢いでガストン団長に詰め寄るライアンは、団長が思い通りの返答をしてくれないことが不満らしい。そんなに上手くいくと思うなよ。ぼくを騙そうなんてするからだ。
勝ち誇るぼくに、ロルフが微妙な視線を向けてくる。そういえばこいつも嘘つきだ。ライアンと共にぼくを貶めようとした共犯である。許すまじ。
「ロルフ、やっぱりきれいな石はあげない」
嘘つきにご褒美なんてあげないもんね。「はぁ」と気の抜けた返事をするロルフは、石がもらえなくてショックを受けているらしい。
「嘘つくからこうなるんだよ」
もう嘘ついたらダメだよ、と諭せば、ロルフは「いや、嘘つきはガストン団長ですよ」と悪あがきしてくる。往生際悪いぞ!
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