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8 安心安全
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リオラお兄様の恋人候補その2に認定してもいいお兄さんを見つけた。いつもお庭に落ちている例のお兄さんである。
だがその前に、お兄さんの素性を探らなければならない。ということで、ぼくはロルフと共にお兄さんを探していた。
仕事に戻ると宣言した白シャツのお兄さんは、颯爽と職場(?)に戻って行った。お兄さんが向かったのは騎士棟がある方向である。もしかしたら騎士団にお勤めなのかもしれない。
お兄さんが向かったであろう方面に歩いていく。後ろからロルフがついてきているか確認しながらなのでちょっと時間がかかる。
「ロルフ! ちゃんと歩いてね」
「アル様、前見てくださいね」
そうして騎士棟までやって来たぼくであったが、早速途方に暮れていた。落ちてるお兄さんが見当たらない。うんうん唸りながらキョロキョロしていると「アル様」というかっこいい声が聞こえてきた。間違いない。ライアン副団長である。
「最近よくいらっしゃいますね。もしや剣術に興味がおありですか?」
「そういうわけではないです」
剣は怖いからあんまり好きではない。ふるふると首を横に振れば、ライアンが「左様で」と小さく笑う。
「ではなんのご用でしょうか」
優しく尋ねてくれるライアンは、さすが主人公だ。
「あのね、落ちてるお兄さんを探してます」
「落ちてるお兄さん?」
ぱちぱちと目を瞬くライアンに、お兄さんの特徴を教えてあげる。
「あのですね、よくお庭にお兄さんが落ちています。お菓子くれる優しいお兄さんです。さっきこっちの方向に歩いて行くのを見ました」
白いシャツのお兄さんです、と付け足すが、ライアンは怪訝な表情のままだ。おかしい。ライアンは落ちてるお兄さんとお知り合いのはずだ。
「ライアンも知っているお兄さんです。たまにライアンが落ちてるお兄さんを蹴っていること、ぼくは知っています」
にやっと笑えば、ライアンが「あぁ」と大きく頷く。「見られていましたか」と苦笑するライアンはばつが悪そうだった。
「あれはガストン団長ですね」
「どれがですか」
「ですからその、落ちてるお兄さんとやらです」
「……?」
なにを言い出すんだ、ライアンは。
ガストン・シャーウッド。二十四歳。
オルコット公爵家騎士団の団長である。クールな黒髪お兄さんで、時に冷徹。団長にしては結構若いが、職務に忠実な彼である。原作小説でも大活躍していた。リオラお兄様の忠実なしもべで、当初は主人公ライアンの敵かと思われた彼であったが、最後の最後に寝返った。
リオラお兄様を裏切って、ライアン側についたのだ。おそらくライアンたちが去った後のオルコット家にて色々手を回したに違いない。詳しい描写はなかったが、リオラお兄様を破滅に追いやった主犯だと思われる。
表ではリオラお兄様に忠実なふりをして、内心ではお兄様への疑心を募らせていたのだ。原作小説では正義のヒーローみたいな扱いをされていたが、それはあくまでライアン側から見た話だ。
リオラお兄様から見れば、彼は酷い裏切り者である。
そんな重要キャラの存在をいまさら思い出したぼくは、あわわと大慌てする。だが確か、ガストンはリッキーに執拗な嫌がらせをするお兄様を見て不信感を募らせたはず。であれば、やはりリッキーへの嫌がらせを阻止すれば万事解決だ。落ち着け、ぼく。
まだガストンが裏切り者と決まったわけではない。落ち着きを取り戻したぼくであったが、先程のライアンの発言を思い出して首を捻る。
「ガストン団長はかっこいいクールなお兄さん。落ちてるお兄さんはべちゃってしてます。まったく別の人」
「いえ、同一人物ですよ。落ちてるお兄さんはオフのガストン団長です」
「ライアンが酷い嘘をつく」
嘘つきはリオラお兄様に叱られるんだぞ! とお知らせしてやるが、ライアンは困ったように笑うだけで撤回しない。なんて図太い奴だ。さすが主人公。
「ロルフ! ライアンが嘘をつく!」
くるりと背後を振り返れば、ロルフが「あー」と気まずそうに頬を掻く。
「ライアン殿は嘘なんてついていませんよ。あれは休憩中のガストン団長です。やはりご存知なかったんですね」
「……ロルフ? 失恋したからって嘘はダメだよ」
「今それ関係ないでしょ。てかあれを失恋とは認めません!」
頑なに失恋を否定するロルフは、見ていてあわれだった。
「失恋?」
首を傾げるライアンに事の顛末を語ってあげる。
「あのですね、ロルフはリオラお兄様のことが好き。でもリオラお兄様に振られたの。あわれな人なの」
「はぁ」
なんだか妙な顔をしたライアンは、ぼくとロルフを困ったように見比べる。死んだ目をしたロルフが「お気になさらず」とぼそっと呟いた。
「この間からどうされたのですか、アル様?」
眉尻を下げるライアンは、どうやらあまりロルフの失恋に興味がないらしい。そうだよね、ライアンが興味を持っているのはリッキーだもんね。リッキーひと筋のライアンに思わず頬が緩んでしまう。
にっこにっこと微笑んでいれば、ロルフとライアンが困惑したように顔を見合わせていた。
だがその前に、お兄さんの素性を探らなければならない。ということで、ぼくはロルフと共にお兄さんを探していた。
仕事に戻ると宣言した白シャツのお兄さんは、颯爽と職場(?)に戻って行った。お兄さんが向かったのは騎士棟がある方向である。もしかしたら騎士団にお勤めなのかもしれない。
お兄さんが向かったであろう方面に歩いていく。後ろからロルフがついてきているか確認しながらなのでちょっと時間がかかる。
「ロルフ! ちゃんと歩いてね」
「アル様、前見てくださいね」
そうして騎士棟までやって来たぼくであったが、早速途方に暮れていた。落ちてるお兄さんが見当たらない。うんうん唸りながらキョロキョロしていると「アル様」というかっこいい声が聞こえてきた。間違いない。ライアン副団長である。
「最近よくいらっしゃいますね。もしや剣術に興味がおありですか?」
「そういうわけではないです」
剣は怖いからあんまり好きではない。ふるふると首を横に振れば、ライアンが「左様で」と小さく笑う。
「ではなんのご用でしょうか」
優しく尋ねてくれるライアンは、さすが主人公だ。
「あのね、落ちてるお兄さんを探してます」
「落ちてるお兄さん?」
ぱちぱちと目を瞬くライアンに、お兄さんの特徴を教えてあげる。
「あのですね、よくお庭にお兄さんが落ちています。お菓子くれる優しいお兄さんです。さっきこっちの方向に歩いて行くのを見ました」
白いシャツのお兄さんです、と付け足すが、ライアンは怪訝な表情のままだ。おかしい。ライアンは落ちてるお兄さんとお知り合いのはずだ。
「ライアンも知っているお兄さんです。たまにライアンが落ちてるお兄さんを蹴っていること、ぼくは知っています」
にやっと笑えば、ライアンが「あぁ」と大きく頷く。「見られていましたか」と苦笑するライアンはばつが悪そうだった。
「あれはガストン団長ですね」
「どれがですか」
「ですからその、落ちてるお兄さんとやらです」
「……?」
なにを言い出すんだ、ライアンは。
ガストン・シャーウッド。二十四歳。
オルコット公爵家騎士団の団長である。クールな黒髪お兄さんで、時に冷徹。団長にしては結構若いが、職務に忠実な彼である。原作小説でも大活躍していた。リオラお兄様の忠実なしもべで、当初は主人公ライアンの敵かと思われた彼であったが、最後の最後に寝返った。
リオラお兄様を裏切って、ライアン側についたのだ。おそらくライアンたちが去った後のオルコット家にて色々手を回したに違いない。詳しい描写はなかったが、リオラお兄様を破滅に追いやった主犯だと思われる。
表ではリオラお兄様に忠実なふりをして、内心ではお兄様への疑心を募らせていたのだ。原作小説では正義のヒーローみたいな扱いをされていたが、それはあくまでライアン側から見た話だ。
リオラお兄様から見れば、彼は酷い裏切り者である。
そんな重要キャラの存在をいまさら思い出したぼくは、あわわと大慌てする。だが確か、ガストンはリッキーに執拗な嫌がらせをするお兄様を見て不信感を募らせたはず。であれば、やはりリッキーへの嫌がらせを阻止すれば万事解決だ。落ち着け、ぼく。
まだガストンが裏切り者と決まったわけではない。落ち着きを取り戻したぼくであったが、先程のライアンの発言を思い出して首を捻る。
「ガストン団長はかっこいいクールなお兄さん。落ちてるお兄さんはべちゃってしてます。まったく別の人」
「いえ、同一人物ですよ。落ちてるお兄さんはオフのガストン団長です」
「ライアンが酷い嘘をつく」
嘘つきはリオラお兄様に叱られるんだぞ! とお知らせしてやるが、ライアンは困ったように笑うだけで撤回しない。なんて図太い奴だ。さすが主人公。
「ロルフ! ライアンが嘘をつく!」
くるりと背後を振り返れば、ロルフが「あー」と気まずそうに頬を掻く。
「ライアン殿は嘘なんてついていませんよ。あれは休憩中のガストン団長です。やはりご存知なかったんですね」
「……ロルフ? 失恋したからって嘘はダメだよ」
「今それ関係ないでしょ。てかあれを失恋とは認めません!」
頑なに失恋を否定するロルフは、見ていてあわれだった。
「失恋?」
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「あのですね、ロルフはリオラお兄様のことが好き。でもリオラお兄様に振られたの。あわれな人なの」
「はぁ」
なんだか妙な顔をしたライアンは、ぼくとロルフを困ったように見比べる。死んだ目をしたロルフが「お気になさらず」とぼそっと呟いた。
「この間からどうされたのですか、アル様?」
眉尻を下げるライアンは、どうやらあまりロルフの失恋に興味がないらしい。そうだよね、ライアンが興味を持っているのはリッキーだもんね。リッキーひと筋のライアンに思わず頬が緩んでしまう。
にっこにっこと微笑んでいれば、ロルフとライアンが困惑したように顔を見合わせていた。
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