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4 ライアンの幼馴染
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お兄様にもらったお菓子をもぐもぐしたぼく。
なんだかロルフが、じっとこちらを見つめていたが彼の分はないのだ。お兄様がひとつしかくれなかったから。
「文句ならお兄様に言ってね」
「え? なにがですか?」
首を捻ってみせるロルフは、必死にお菓子が欲しいという感情を押し殺しているらしい。大人って大変だな。口元をロルフに拭ってもらって、ぱんぱんと手を払う。
「よし! 行くぞ、ロルフ」
「今度はどちらへ?」
「騎士棟」
「さっき行きましたね」
またですか、と眉尻を下げるロルフは放っておこう。この作戦には、ぼくとお兄様の未来がかかっているのだ。多少の手間を惜しんではいけない。
そうして再び騎士棟へとやってきたぼくとロルフ。
てくてく歩いて探すのは、何を隠そうライアンの幼馴染である。騎士である彼は、ライアンと結ばれる。このBL小説は、リオラお兄様という権力を持った悪役令息に負けず、幸せに結ばれる騎士ふたりの物語である。
先程と同じくきょろきょろしていると、カツカツとこちらへ寄って来る者があった。ライアン副団長である。
「ライアン! こんちは!」
「アル様。先程もお会いしましたね」
苦笑するライアンは、ぼくの前に片膝を付く。
「今度はどうされましたか?」
優しく微笑むライアンは、さすが主人公といった感じの好青年だった。かっこいい騎士服もよく似合っている。柔和な態度も大人だ。
「リッキーはどこですか?」
「リッキー? なんでまた」
怪訝な表情をするライアン。しまった。
ぼくは前世を思い出したからリッキーのことを知っているが、アルはリッキーのことを知らないはずだ。副団長であるライアンはともかく、リッキーはただの騎士だ。公爵家のお坊ちゃんがろくに会話もしたことない騎士の名前を知っているのは、不自然だったかもしれない。
んっとと頭を捻る。なんかいい感じの言い訳を探さないと。
「リ、リッキーはライアンの幼馴染って聞きました」
「えぇ、よくご存知で」
「それで、ちょっと会ってみたい」
「そうですか」
にこりと笑ったライアンは「アル様は好奇心旺盛ですね」と楽しそうだ。
「そう。ぼくは、こーきしんおーせーなのです」
ふふっと小さく笑ったライアンは「少々お待ちください」と言い置いてどこかへ去ってしまう。たぶんリッキーを探しに行ったのだろう。優しい人である。さすが主人公。
ぼくはお利口さんなので、じっとライアンの帰りを待つことにする。横のロルフが「好奇心旺盛ってもう一回言ってもらえませんか?」と意味不明なリクエストをしてくるが無視だ。こいつはぼくの舌足らずを笑いたいのだ。嫌な奴である。五歳児なんだから仕方ないだろ。
「ライアン副団長の幼馴染に会って、どうするんですか?」
「この前教えたでしょ。ライアンはリッキーのことが好きなの。それでリオラお兄様が振られて破滅するから」
「まだ続いていたんですね、そのお話。リオラ様に一体なんのお恨みが」
わからないと小首を傾げるロルフは、どうやらいまだにぼくの妄想だと思っているらしい。好きに解釈するがいい。ぼくは、ぼくのために最善を尽くすだけだ。
あまり間を置かずに戻ってきたライアン副団長は、後ろにイケメンお兄さんを連れていた。優し気な顔立ちにほんわかした雰囲気。明るい茶髪のハーフアップが特徴的な優男くん。間違いない。リッキーだ。
リッキー・セルデン。二十歳。
オルコット公爵家の私営騎士団所属の騎士にして、ライアンの幼馴染。ライアンの背中を追いかけて騎士団に入団した彼は、仕事でもプライベートでもライアンと共に過ごす。そうして結ばれたふたりは、やがてリオラお兄様から壮絶な嫌がらせを受けることになる。
リオラお兄様としては、自分よりも地位の劣るリッキーに、ライアンを奪われたことが許せなかったのだろう。わかるよ。自分の方が立場はずっと上なのに、幼馴染ってだけでライアンの隣をいつもリッキーに奪われていたもんね。
だが、リオラお兄様は公爵家の跡継ぎである。地位も権力もばっちり。なにもかもリッキーに勝利しているお兄様は、最終的には自分がライアンと結ばれると信じていた。だが、ライアンは権力よりも愛を選んだ。捨てられたリオラお兄様は、ショックのあまり自暴自棄に。そしてリッキーへの嫌がらせを開始するのだ。
「こんちは、リッキー」
「初めまして、アル様」
なんだか強張った顔で挨拶をしたリッキー。その目が助けを求めるようにライアンにちらちらと向けられている。え? もしかしてすでに成就してる?
危機感を覚えたぼくは、果敢に立ち向かう。
「リッキーとライアンはもうお付き合いしてますか?」
「んん?」
なんだか変な顔をしたライアン副団長と、咽せるリッキー。ロルフが口元を押さえて笑いを堪えている。
「アル様? なんのお話ですかね?」
「ライアン。ぼくは知ってる。ライアンはリッキーのことが好き」
「ライアンは俺ですがね。その情報は初耳ですね」
「なんと。ライアンよりも先にライアンの気持ちに気付いてしまった。ぼくはお利口さんなので」
ふふっと、ロルフが吹き出した。こいつは先程からずっと失礼だ。
「あの、アル様。私とライアン副団長はただの幼馴染でございます。そういった関係にはないのでご安心ください」
「嘘だ。嘘ついたらリオラお兄様に叱られるんだよ!」
むっと頬を膨らませれば、リッキーとライアンが困ったように顔を見合わせている。
どうやら子供であるぼく相手には、恋愛云々の話を隠し通すつもりらしい。だが残念だったな。ぼくは前世の記憶のある賢い子なので。誤魔化されません!
なんだかロルフが、じっとこちらを見つめていたが彼の分はないのだ。お兄様がひとつしかくれなかったから。
「文句ならお兄様に言ってね」
「え? なにがですか?」
首を捻ってみせるロルフは、必死にお菓子が欲しいという感情を押し殺しているらしい。大人って大変だな。口元をロルフに拭ってもらって、ぱんぱんと手を払う。
「よし! 行くぞ、ロルフ」
「今度はどちらへ?」
「騎士棟」
「さっき行きましたね」
またですか、と眉尻を下げるロルフは放っておこう。この作戦には、ぼくとお兄様の未来がかかっているのだ。多少の手間を惜しんではいけない。
そうして再び騎士棟へとやってきたぼくとロルフ。
てくてく歩いて探すのは、何を隠そうライアンの幼馴染である。騎士である彼は、ライアンと結ばれる。このBL小説は、リオラお兄様という権力を持った悪役令息に負けず、幸せに結ばれる騎士ふたりの物語である。
先程と同じくきょろきょろしていると、カツカツとこちらへ寄って来る者があった。ライアン副団長である。
「ライアン! こんちは!」
「アル様。先程もお会いしましたね」
苦笑するライアンは、ぼくの前に片膝を付く。
「今度はどうされましたか?」
優しく微笑むライアンは、さすが主人公といった感じの好青年だった。かっこいい騎士服もよく似合っている。柔和な態度も大人だ。
「リッキーはどこですか?」
「リッキー? なんでまた」
怪訝な表情をするライアン。しまった。
ぼくは前世を思い出したからリッキーのことを知っているが、アルはリッキーのことを知らないはずだ。副団長であるライアンはともかく、リッキーはただの騎士だ。公爵家のお坊ちゃんがろくに会話もしたことない騎士の名前を知っているのは、不自然だったかもしれない。
んっとと頭を捻る。なんかいい感じの言い訳を探さないと。
「リ、リッキーはライアンの幼馴染って聞きました」
「えぇ、よくご存知で」
「それで、ちょっと会ってみたい」
「そうですか」
にこりと笑ったライアンは「アル様は好奇心旺盛ですね」と楽しそうだ。
「そう。ぼくは、こーきしんおーせーなのです」
ふふっと小さく笑ったライアンは「少々お待ちください」と言い置いてどこかへ去ってしまう。たぶんリッキーを探しに行ったのだろう。優しい人である。さすが主人公。
ぼくはお利口さんなので、じっとライアンの帰りを待つことにする。横のロルフが「好奇心旺盛ってもう一回言ってもらえませんか?」と意味不明なリクエストをしてくるが無視だ。こいつはぼくの舌足らずを笑いたいのだ。嫌な奴である。五歳児なんだから仕方ないだろ。
「ライアン副団長の幼馴染に会って、どうするんですか?」
「この前教えたでしょ。ライアンはリッキーのことが好きなの。それでリオラお兄様が振られて破滅するから」
「まだ続いていたんですね、そのお話。リオラ様に一体なんのお恨みが」
わからないと小首を傾げるロルフは、どうやらいまだにぼくの妄想だと思っているらしい。好きに解釈するがいい。ぼくは、ぼくのために最善を尽くすだけだ。
あまり間を置かずに戻ってきたライアン副団長は、後ろにイケメンお兄さんを連れていた。優し気な顔立ちにほんわかした雰囲気。明るい茶髪のハーフアップが特徴的な優男くん。間違いない。リッキーだ。
リッキー・セルデン。二十歳。
オルコット公爵家の私営騎士団所属の騎士にして、ライアンの幼馴染。ライアンの背中を追いかけて騎士団に入団した彼は、仕事でもプライベートでもライアンと共に過ごす。そうして結ばれたふたりは、やがてリオラお兄様から壮絶な嫌がらせを受けることになる。
リオラお兄様としては、自分よりも地位の劣るリッキーに、ライアンを奪われたことが許せなかったのだろう。わかるよ。自分の方が立場はずっと上なのに、幼馴染ってだけでライアンの隣をいつもリッキーに奪われていたもんね。
だが、リオラお兄様は公爵家の跡継ぎである。地位も権力もばっちり。なにもかもリッキーに勝利しているお兄様は、最終的には自分がライアンと結ばれると信じていた。だが、ライアンは権力よりも愛を選んだ。捨てられたリオラお兄様は、ショックのあまり自暴自棄に。そしてリッキーへの嫌がらせを開始するのだ。
「こんちは、リッキー」
「初めまして、アル様」
なんだか強張った顔で挨拶をしたリッキー。その目が助けを求めるようにライアンにちらちらと向けられている。え? もしかしてすでに成就してる?
危機感を覚えたぼくは、果敢に立ち向かう。
「リッキーとライアンはもうお付き合いしてますか?」
「んん?」
なんだか変な顔をしたライアン副団長と、咽せるリッキー。ロルフが口元を押さえて笑いを堪えている。
「アル様? なんのお話ですかね?」
「ライアン。ぼくは知ってる。ライアンはリッキーのことが好き」
「ライアンは俺ですがね。その情報は初耳ですね」
「なんと。ライアンよりも先にライアンの気持ちに気付いてしまった。ぼくはお利口さんなので」
ふふっと、ロルフが吹き出した。こいつは先程からずっと失礼だ。
「あの、アル様。私とライアン副団長はただの幼馴染でございます。そういった関係にはないのでご安心ください」
「嘘だ。嘘ついたらリオラお兄様に叱られるんだよ!」
むっと頬を膨らませれば、リッキーとライアンが困ったように顔を見合わせている。
どうやら子供であるぼく相手には、恋愛云々の話を隠し通すつもりらしい。だが残念だったな。ぼくは前世の記憶のある賢い子なので。誤魔化されません!
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