私が死ぬまでの七ヶ月

春のした

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出会い

03

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「ごめんね。僕、ここ気に入ってるからさ。死に場所にしたいんだよねー」

 まるで、場所取りの話でもしてるかのように、のんきな口調で男の子が言った。
 え?何を言ってるのだろう。

「し、死ぬ?」
「そう。ここで死にたいの。自殺ってやつだね」
「じ、自殺……」

 私には、彼の言ってることがわからなかった。
 脳で言葉は理解できても、心で意味を理解することを拒んでいた。
 頭がガンガンする。

 私がどんなに神に願っても手に入らないものを、この人は、まるでゴミを捨てるかのように、簡単に手放そうとしているんだ。

 理解なんて、したくなかった。

「冗談でよね?…」
「本気だよ」
「なんで…」

 なんで…そんなことを。

「何でだろうね。…捨てたくなったから。かな?」
「そんな、物みたいに!」

 思わず声を荒げてしまった。

「…物だよ」

 そう答えた彼の声は、とても…とても冷たい、何も感情を感じない声だった。

「物…」

 息が苦しい。
 目の前がぐにゃぐにゃに歪んでいく…。

 悔しい…悔しい。

「ちょっと君…?」

 少し心配そうに話しかけてきた彼を睨んだ。

「君、大丈夫?ふらふらして…」
「ください…」
「えっ?」
「くださいっ!物なら、くださいっ」

 目の前が暗くなってきた。動悸が酷くなってきている…ああ、またこの体は、私の言うことを聞かないんだ。

「ずるいよ…生きれるのに」
「だ、大丈夫?ちょっ」
「生きた…い…よぉ」

 彼が急いで私に近寄ったのを感じながら、そっと意識を手放した。




――――――――――――――――――



「えっ?」

 目が覚めた。
 目が覚めた瞬間、今まで何も感じていなかった鼻が、潮の匂いを感じ始める。
 その中に、微かに甘い匂いがした。

「目が覚めた?」

 一番最初に目に入ったのは、死にたがりの男の子の顔だった。

「あ…すみません」
「いいよ、無理に起き上がらなくて」

 急いで起き上がろうとした私の肩が、そっと優しく押し戻される。
 そこで、私は彼に膝枕してもらっていることに気がついた。
 体には、彼が着ていた筈のコートとマフラーがぐるぐる巻かれている。 
 暖かい…。
 手を動かすと、お腹辺りに乗ってものがあるのを感じる。カサリと音を立てて触ると、温かいカイロの手触りがあった。

「カイロ…」
「僕の。わざわざ海に死にに来たくせにさ…僕、寒いの嫌だったんだよね」

 そう言って、おかしいでしょ?と、彼が笑った。
 海で死のうとしてるのに、その道中の寒さは嫌なんだ…そう思うと、ちょっと面白かった。

「ごめんね、なんか」
「あ、いえ、私こそ興奮しちゃって」

 こんな寒い中、コートを奪ってしまって…倒れていた時間はそんなに長くないと思うけど、それでも申し訳ない。

「もう大丈夫です。寒いのにごめんなさい」

 起き上がって、彼の横に座り、私にかけられていたコート達を返す。

「もう大丈夫?」
「大丈夫です。慣れてるんで」
「…そっか。よかった」

 よかった。と良いながら、彼は複雑そうな笑顔を浮かべた。

「体調よくないの?」
「まあ、そんな感じです…」
「そっか」

 少しの下を向いて、彼がポツリと言った。

「ごめんね…君には大切な命なのに」
「えっ?」

 下を向いて、砂浜の砂たちを指でいじっている。
 あまり表情が見えなかった。
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