転生したら異世界の神話《蒼穹の眠り姫》に巻き込まれてしまった

リョウ

文字の大きさ
5 / 27

校長との対面

しおりを挟む
 きぃー、という蝶番が軋むような音はなく、煙のように一瞬で姿を消した扉。
「おおっ」
 日本では見たことのない現象に思わず声を出してしまう。
「なんだ?」
「ンでもねぇーって」
 あんまりビビらすなよ……。
 そう思いながらも視線を前に向けた。広さは日本の表現でいくならば10畳ほどだろうか。
 たった一つの部屋として考えるなら、相当にでかい。
 まぁ、これを一人で使ってるんだよな……。
「こっちだ」
 後ろからハゲ頭が声をかけるために、振り返る。
 おいおい……まじかよ。
 消えたはずの扉は元通りになっていた。やばい……。魔法のある国ってのがわからん……。
 何でもありじゃねぇーかよ。なんかマンガやアニメでよくある人を生き返らせる魔法があっても不思議じゃねぇーぞ。
 不思議そうにあたりを見渡しながら1歩1歩と部屋の奥へと進んでいく。
 床は大理石調の白タイルで埋め尽くされており、四方は天井に届く高い本棚が並んでいる。
 その本棚にはびっしりと本が並べられていて、僅かな隙間さえない。
 う、うわぁ……。
 圧倒的すぎる本の量に気圧されながらも、俺は歩みを進めた。
 瞬間、体が何かに呑まれたかのような浮遊感を覚えた。そして同時に音が消えた。
 な、なんだ……?
 慌てて辺りを確認しようとするも、水の中にいるかのようで瞬間的な動きができない。
 どうなってんだよ。校長室じゃなかったのか!?
 深海のように真っ暗な後ろを見た俺は、胸中で毒づく。不意に、前方で明かりが走った。
 自分の中では慌てて、しかし、傍から見ればゆっくりと、前方に視線をやった。
 そこには何かに呑まれる前に見た、大理石調の床があり、焦げ茶に塗装された両袖デスクが存在している。
 そしてその奥には見るからに高級そうな椅子に腰を下ろす一人の青年がいた。
 じ、ジジイじゃない……?
 俺の概念からいくと、校長と言えばジジイのイメージだ。故に、30代前半と思われるその男性を見て驚かずにいられなかった。
 その青年の隣にはハゲ頭が立っている。
 何やらペコペコしながら真剣な顔で話し込んでいる。
 しばらくハゲ頭が一方的に話し続けると、青年は幾回か頷き、指を鳴らす素振りを見せた。実際には、鳴らしたのかもしれないが何かに呑まれている俺に音は届かなかった。
 だが瞬間──。俺の耳に音が届いた。
 日本の学校のような喧騒な音はない。重苦しい空気の中に、ハゲ頭のボソボソと話す声が洩れるだけ。しかし、先ほどまでの無音とは天地の差だ。
 鳥のさえずりがあり、空気の流れさえ感じることができる。
「何だったんだよ……」
 体にモヤモヤした感じを残したまま、俺流れるように零した。
「合格だ」
 扉の前で聞いた若々しいと感じた声がそう告げた。
「……」
 どういう意味か分からず、俺は訝しげにその青年を見た。
「何がどうなってる? そういった感情か?」
 どこか愉しそうな口調で青年は言った。
 嘘だろ……。考えまで見透かされてるのか?
 ──大丈夫。この心意魔法が使えるのは私だけだから
 そう考えた瞬間、俺の頭の中に目の前に座る青年の声が響いた。
「えっ!?」
 予想だにしない場所に響いた声に思わず声を洩らしてしまう。
「コラッ! 静かにせんか!」
 ハゲ頭が顔を真っ赤にして俺に言う。
 こいつは一体何なんだよ……。どれだけ校長に媚びたいんだ?
「いいんだ。ところでハーハッド先生」
 青年は椅子に座ったまま、ハゲ頭──ハーハッドを見上げ優しい笑顔で話す。
「な、なんですか?」
 対してハゲ頭は引き攣った笑顔で答える。
「授業の方はどうなったのですか?」
「……え、えっとですね。じ、自習ということにしています」
「私の許可も取らずに自習……ですか。貴方も偉くなられましたね」
 優しい笑顔のはずなのに、俺はある種の恐怖を体感した。声にトゲがあるようには感じられない。だが、俺は恐怖を体感した。
 こいつは……一体何者なんだ? 本当にただの人間なのか?
 根拠があるわけではない。ただ、人間としてのシックスセンスがそう叫んでいるのだ。
「す、すいません!」
 ハゲ頭はその頭に脂汗を浮かべながら、頭を下げる。
「今すぐ戻ります」
「よろしい」
 より一層優しさの増した表情。だがそれは、造られた仮面のようで俺には冷たさが伝わった。
 ハゲ頭は怯えた顔で急いで駆け出す。そして、俺の横を通り過ぎる瞬間
「気をつけろよ」
 と囁いた。
 直後、ボンっという音がし、ハゲ頭は完全にこの場から姿を消した。

「はじめまして」
 俺の戸惑う気持ちを知っているのか、青年校長は穏やかな笑顔で俺に言う。
「……」
 訝しげな瞳で俺は青年校長を値踏みする。信用に値する人物なのだろうか?
「何も話してくれないのかな?」
 青年校長は穏やかなそれを崩さず、更に穏やかさを増したような声音で告げる。
 だが俺は答えない。いや、答えるべき言葉を選べなかった。
 何を話すべきか。どの言葉を選べば、相手が情報を洩らしてくれる?
 考えれば考えるほどに結論がまとまらない。
 しかし、情報を奪えないのであればそれは無駄と言うものだ。日本──いや、地球という情報が戦局を動かす大きな要因となる世界を生きてきた俺はそれを知っている。
「ふーん、情報が欲しいのかな?」
「なっ!?」
 俺の思考を読んだのか?
 ドンピシャで当てられた思考に、思わず声を洩らしてしまう。
 まさか考えまで読めると言うんじゃねぇーだろうな……。
 ──そのまさかだよ。でも、心意魔法を使えるのはどこに行こうと私だけだから安心したまえ
 安心? そんなの出来るわけがない。思考が読めるなら、話しかける必要もないだろう。
 声に出してしまいそうな言葉を喉を閉めて、俺は脳内で叫ぶ。
「私たちは二人きりだぞ?」
 表情から感情が伺えない。俺はただ黙ってその場の流れを伺う。
「んー、まだ話す気にはなれないか……」
 ここで青年校長は困ったような顔を見せる。
「なら、こういうのはどうだろうか? 私も、この世界の人間ではないのだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。 死因は癌だった。 癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。 そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。 死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。 それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。 啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。 挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。 インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。 そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。 これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

処理中です...