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第3章 エルフとの会談
訪れた幕切れ
しおりを挟む「……はぁ……はぁ……」
虚ろな瞳、覚束無い足取りで、コータはゆるゆると血を噴き出し倒れ込んでいるアバイゾに歩み寄る。
『じっとしていた方がいいのでは?』
『そうよ。あんたまで殺られちゃ……』
ピクシャの心配する声に、ミリも同調する。ミリは眼前で撃ち抜かれ殺されたロイを思い返したのか、涙色を滲ませる。
「だい……じょうぶ」
全身の痺れは収まらず、歩くのですら一苦労だ。コータはボロボロになった月の宝刀を地面に突き立てながら、一歩また一歩とアバイゾに向かう。
「貴様ら……ごときに……」
しばらく歩いて、ようやくアバイゾの元に辿り着くとコータに向かってそのような声をかけた。
目の焦点すらあっていない。褐色の肌は噴き出した自分の鮮血に染められ、呼吸は大きく乱れている。
「どうして……」
自らの攻撃はない。どちらかと言えば、コータは魔法勝負に負けていた。なのに、立っているのはコータで、血まみれになり倒れているのはアバイゾなのだ。
『おそらく、さっきのコータと同じ現象よ』
「俺と同じ?」
体の中からピクシャが説明をする。
『えぇ。コータは魔力を使いすぎで体内から血が吹き出たでしょ?』
「あ、あぁ」
『それと同じことが奴にも起きたのよ』
「まさかっ。アバイゾも魔力を使いすぎで?」
「そんなこと……ある訳……ないだろ?」
這いつくばったまま、アバイゾは毒を吐き震えた体に鞭を打つ。
右手を上げ、その掌の先をコータに向ける。
「し……ねッ」
手のひらに魔力を集めようと意識を集中させている。アバイゾの手のひらにゆっくりと魔力が集まり出し、ほのかに光が灯ろうとする。だが、瞬間アバイゾの手のひらから光が消え、アバイゾの口からは血が吐き出される。
『魔力が枯渇している状態で無理に使おうとするからよ』
ピクシャが呆れたような物言いをする。それを聞き、コータも自身の魔力が底を尽きそうであることを悟り、ボロボロになった月の宝刀の切っ先をアバイゾに向ける。
「どうしてこのようなことを?」
「それを聞いてどうなる?」
鮮血にまみれた顔で、不敵に嗤いながら悪態をつくアバイゾ。
「お前が何故このようなことをしたか、目的が知れる」
「そう言われて、易々と答えると思うか?」
アバイゾは苦しそうな声音で、しかしハッキリとした悪態で答えた。
「全ては魔王コバヤシ様のために」
途切れ途切れの言葉の中、それだけは途切れずに紡ぐとアバイゾは自らの舌を噛みきった。途端、アバイゾはピクリとも動かなくなった。
――死んだのだ。
「う、ウァァァッ」
アバイゾがピクリとも動かなくなったのを確認した瞬間、コータは体の中が軋むような感覚を覚えた。全身があらゆる方向から引っ張られ、血が有るべからず方向へ流れようとしている。
それが痛み、という形でコータに訴えかけてきている。
『落ち着いて。統合解除と唱えればいいから!』
内容とは裏腹に、焦りに満ちた声音でコータに呼びかけるピクシャ。その声に応えようと口を開くが、想像を絶する激痛に上手く言葉になってくれない。
「うゥ……」
『早く言いなさいよ!』
目からは血の涙が溢れ出し、血管は切れて血が吹き出している。コータの命の危険を感じたのか、ミリが金切り声で叫ぶ。
「統合…………解除……」
吐血しながら、どうにかそう呟いたコータ。瞬間、コータの体を光が包み、コータの体の中にいたはずのピクシャとミリが姿を現した。
コータの髪に混じっていた、ほのかに光を放つ赤色と緑色の房は消え、瞳も赤と翡翠のオッドアイから通常の黒い瞳に戻っている。
だが、解除したからといって体が元に戻るわけではない。魔力を大量使用し、体に大きな負担がかかると分かった上で使用した二重統合。
それらの負担が軽いわけがない。解除され、元の姿に戻った精霊種の2人もダメージを負っている様子で、宙を漂う様もどこか覚束無いように見える。
「自滅で終わる……かよ」
全体重をボロボロの月の宝刀に預け、コータは眼前で舌を噛みちぎり、息を引き取った血まみれのアバイゾを見ながら呟く。
「結局何も分からなかったわね」
ピクシャが辛そうに吐息を交えながら言う。
「そうだな」
何とも後味の悪い勝利に、コータは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
戦いにはどうにか勝つことが出来た。だが、死に間際までアバイゾにペースを握られ、結局目的を聞き出すことすら出来ず、自殺をさせてしまった。
勝負に勝って試合に負けたかの如くだ。
「ミリ、契約はどうする?」
ミリの感情は計り知れない。もし、契約をしたままが嫌だと言うのならば、コータには解除する意思があった。だが、ミリは不格好な笑顔を浮かべて言った。
「これは私が選んだ道なの。遠慮はいらないわ」
たぶんこれは強がりだ。そう悟ったが、コータは何も言わずに小さく呟いた。
「そうか。なら、これからよろしく頼む」
「任せなさいよっ」
涙色が色濃く出たように感じた。まだ悲しみやら色々な感情に整理が付けられてないのだろう。それでも、先へ進もうとするミリの覚悟にコータは、笑顔で応えたのだった。
* * * *
「魔王コバヤシ様。魔族七天将、第6席ダークハイエルフのアバイゾが死んだようです」
妖艶な口調で、色香を全身に纏いし女性が光の差さない漆黒の部屋で佇む人物に声をかける。
黒い外套を纏う魔王コバヤシは、燃え上がる焔よりも赤い瞳で、声を上げた女性を見た。
女性は露出度の高い濃紺のドレスに身を包み、黒衣のマントを羽織っている。
どのような物でも吸い込んでしまいそうなほどに大きな漆黒の瞳は、忠誠を誓いし魔王コバヤシに向けられているように見える。
筋の通った鼻に、ふっくらとした唇、長いまつ毛。
どこをとってもあまりに端麗で、作り物のようにさえ感じられる。
「魔族七天将第2席ヴァンパイア種ウルアルネ。勇者は復活したと思うか?」
「恐らく。コータと呼ばれている彼が勇者でしょう」
「恐らく?」
言いきらないウルアルネに、魔王コバヤシは鋭い視線をぶつける。瞬間、部屋全体に圧倒的な圧力が浸透する。
それが魔力を引き金として起こっている現象なのか、それともただただ魔王コバヤシから放たれるプレッシャーなのか。
「えぇ。本人に自覚が無いようで……」
第2席を与えられているはずのウルアルネですらもその圧に少し圧されているようだ。
「では、王都で噂になっている勇者召喚の失敗というのはあながち間違ってはいないのか」
ウルアルネの言葉に独りごちる魔王コバヤシ。
「わかった。報告は以上か?」
「はい」
視線を上げ、ウルアルネに向けるや否や魔王コバヤシはそう訊く。ウルアルネは慌てて背筋を伸ばし返事をした。
「もう行っていいぞ」
魔王コバヤシのその言葉を聞くと同時に、ウルアルネは深く頭を下げてから扉に向かって歩み出す。その背中を静かに見つめる魔王コバヤシは、ウルアルネが部屋を出ようとした瞬間に声を上げる。
「そうだ」
「どうかいたしましたか?」
ウルアルネは魔王コバヤシの声に瞬時に反応し、振り返る。
「我に歯向かうようなことだけはするなよ?」
「心に誓って」
圧力で抑えつけるような声ではなかった。だが、それ以上に体が恐怖する何かが込められており、ウルアルネは思わず身震いをしてしまう。
「呼び止めてすまなかった。それだけだ」
ウルアルネ子言葉に満足をしたのか、魔王コバヤシはそう言った。ウルアルネは短く礼をしてから、部屋を立ち去る。
「黒、だな。さぁて、勇者の存在も分かったんだ。そろそろ本格的に準備を始めようか」
誰もいなくなり、部屋にいるのは魔王コバヤシたった1人となった。静寂と黒に支配されたその部屋で、魔王コバヤシは妖しくそう呟くのだった。
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