異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

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第3章 エルフとの会談

VSアバイゾ 1

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 天に聳える樹々が鬱蒼と生えるここは、ハイエルフたちが根城としている樹海。
 エルフたちのような、生活感があるわけではない。家も、店も、何もかもがない。
 ただ、そこら辺に野生の獣の死骸やらが転がり、火が炊かれた跡がある。

「こんな所で食べ物とかどうしてたんだ?」

 野生の獣が出なければ、食べ物はなくなる。それに、コータが倒したハイエルフが全部だとは思えない。それだけの数が毎日食する獣を狩るとなれば、獣の方が1年も持たずに全滅するだろう。

「それは樹海を抜けた先に耕作地があるから問題ない」

 コータは知らない事実を知り、少し意外のように思いながら相槌を打つ。

「そうなのか」
「あぁ。気、引き締めろよ」

 樹海を歩き進んでいると、方向感覚がおかしくなっているように感じた。辺り一面、どのように見渡しても樹々しかなく、景色が変化しない。
 それゆえ、方向感覚を失い、疲労感も大きくなっている。ロイが先頭を歩いてくれていなかったら、今頃絶対に迷子になっていただろう。

「そろそろなのか?」

 一体どれくらい樹海を進んだのか分からない。コータは眉間にシワを寄せながら、聞き返す。すると、ロイは声を出すことはなく、代わりに首肯した。

「この先、この辺りよりは開けた場所があるの。いつもそこで集会をやってるわ」

 後ろから、コータが迷子にならないように見張っていたミリが口を開いた。

「そうなのか」
「話している暇はないみたいですよ」

 コータとミリの会話に割って入ったのはピクシャだ。だが、その顔は茶化すようなものでは無い。真剣で、緊迫感のあるそれだ。

「みたいだな」

 引き攣るような表情で、ロイは硬い声で呟いた。
 何が起こっているのか分からないコータは、ロイの前に視線を向けた。

「……ッ」

 その姿を見たコータは思わず息を飲んだ。見た目はエルフのそれとよく似ている。だが、身に纏う空気が全く違うのだ。
 宙を漂う空気が怯えているような風に思える。
 通常のエルフとは色が異なる、褐色の肌を持ち紫の髪をなびかせるエルフに、全身の毛が逆立つのを感じた。

「これはこれは。どういった風の吹き回しかな?」

 ダークハイエルフは鋭い視線をロイに向け、静かに言い放つ。ロイは固唾を呑み、口を開こうとした。だが、その一瞬早くダークハイエルフが動いた。

「口答えするのですか?」

 ロイとダークハイエルフとの間には距離があった。コータがどれたけ全力で走ったところで、5秒はかかるだろう。
 だが、その距離を刹那で詰め寄ったダークハイエルフは、ロイの口を塞いでいた。

「ッ!」

 目を見開き、何かを言おうとしているロイ。だが、そうすればする程に、力が込められ、ロイの顔はゆがみ、ひずんでいく。

「やめろ!」

 苦悶に満ちた表情を浮かべるロイを、見ていることが出来ずにコータは腰に差してある剣を抜刀した。
 剣先がダークハイエルフに向く。それを一瞥するも、ダークハイエルフはそれを気にした様子もなく、ロイの顔を握る手にさらなる力を加えた。
 ミシッ、と頭蓋骨が軋む音がした。

「斬鉄撃ッ!」

 柄を握る手に力を込め、吼えるようにそう言うや、月の宝刀の刀身が光に包まれる。

「雑魚が」

 短く吐き捨てるやロイを投げ捨て、人差し指を立てて見せた。
 斬鉄撃は目にも止まらぬ速度でダークハイエルフに迫る。しかし、ダークハイエルフはその場から1歩も動くことなく、立てて人差し指で斬鉄撃を止めて見せた。

「こんな攻撃、何百年受け続けても問題ない。魔族七天将が一人、アバイゾにとってはな」

 不敵にそう笑ったアバイゾは、コータとの距離を詰め寄る。そして、脚を振り上げコータの腹部に一撃をくらわせる。
 砂埃1つ立たない、瞬間移動のような移動でコータの前まで来たアバイゾは、地面に転がるコータを見下ろす。

「うぅ……ッ」
「雑魚が調子に乗るな」

 強烈な一撃に、耐えきれず嘔吐しているコータ。そんなコータに、侮蔑の目を向けたアバイゾは抑揚のない言葉で吐き捨てる。

「それにしても、せっかく魔王様から預かった武器を粗末に扱うなんて。ハイエルフたちは教育がなってないよな?」

 怒りに塗れた声音が宙を舞う。語尾を強めたことにより、全身が畏れという感情に支配されているような感覚に陥る。
 アバイゾはコータの感情など露知らず、胸元から拳銃を取り出し、倒れ込むコータに銃口を向けた。

「この世界にも銃はあるのか?」

 呼吸をするだけでも痛い。おそらく、肋の数本は折れているだろう。しかし、コータは力を振り絞って銃口を自分に向けるアバイゾに聞いた。すると、アバイゾは不思議そうに首を傾げた。

「お前はこの武器を知ってるのか?」
「お前は知らないのか?」

 銃口を相手に向けてトリガーに指をかけている辺り、最低限武器の扱いは知っているようだ。

「コバヤシ魔王から賜ったものだ。何かは知らん」
「コバヤシ……」 

 どう考えても日本人の苗字だ。そこに違和感を感じているのも束の間。
 アバイゾの目が獲物を狙うそれに変化した。

 確実にコータを仕留める。そんな目になっていた。

 やばい。直感的にそう思った。しかし、腹部が痛すぎてその場を動くことが出来ない。
 まだ死ぬような怪我をしていない。そのため、痛みを和らげ、動きを上げてくれる称号の力は発揮されない。
 ここで一撃を食らってしまったならば、コータは死ぬだろう。

 そう感じていながらも、どうにも出来ない状況が歯がゆくて。悔しくて。
 ぐぅ、と奥歯を噛み締めた瞬間――

 アバイゾがトリガーを引いた。
 同時に耳を劈く破裂音が轟いた。
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