上 下
55 / 78
第3章 エルフとの会談

逃げるコータとネーロスタ

しおりを挟む

火焔弾プロメティア

 言葉に反応するように、コータに向けられた手のひらに赤色を帯びた魔法陣が展開される。
 刹那で展開して魔法陣からは、この世を焼き付くさんばかりの紅蓮の焔が吹き出す。
 焔はうねりを上げ、次第に火球よりも小さい形を作り上げていく。
 大きさは小さい。が、1つ1つから感じる魔力量は、火球など話にならない。
 コータは魔法を発動したハイエルフの周囲に漂う5つの火球弾に目を配る。

 ――正直言って、ヤバすぎるだろ。

 国に投下されしものならば、その国は焼け落ちることは目に見えている。
 それほどまでに膨大な威力を誇っているだろう。

「ここで消えてもらう」

 ターゲットはもちろんネーロスタ。
 視線で判別できる。だが、この場にいるコータも無事では済まないことは明白。

「正直、防御魔法は苦手なんだよな」

 てか、まだちゃんと使ったことないかも。

 模擬戦争においても、守るより攻めるを重視していた。そのため、コータは防御魔法に関してはほとんど特訓をしていない。

「やるだけやってみるか。暴風の圧"ウィンディ・プロテクト"」

 自身の前に強い風がうずまき、自身を守る盾となる。
 そうイメージをし、コータは魔法制御を試みる。
 体内に循環する魔力と、放出する魔力。全てを感じて制御する。
 先程の魔法発動で、魔法制御に成功したことは大きいだろう。
 眼前に現れた緑色を帯びた魔法陣から、瞬時に暴風が巻き上がり、自身を守る盾となる。
 同時に、ハイエルフが火球弾を撃ち込んでくる。
 焔と暴風がふれあい、互いを相殺していく。

「まさかッ!? 我らハイエルフと同等の魔法だとでも言うのか!?」

 栄えあるハイエルフが、人間と同レベルの魔法を放つ。
 そのようなことはあってはならない。
 そう言わんばかりに、ハイエルフは目を見開き声を荒らげる。

「嘘でしょ……」

 コータの横では、ハイエルフと同様にネーロスタが驚きを露わにしている。

 ――そんなに凄いのか? 俺の魔法。

 何を以て凄いと言っていいのか。その基準が分からないコータには、驚かれてもあまりピンと来ない。
 だが、分かることだってある。それは、この場から逃げることがどれだけ重要であるか、ということだ。
 このままこの場に留まれば、次から次へと魔法が放たれ、コータの魔力が尽きることは目に見ている。
 だから――

「行きますよ」

 コータは事態に思考が追いつかず、フリーズしてしまっているネーロスタの腕を取る。他のエルフはコータが台風テンペストを放ち、ハイエルフたちの魔法が相殺されたときにこの場から姿を消している。
 あとは、ネーロスタだけなのだ。
 許可など取っている暇はない。
 強引に腕を引き、コータは駆け出す。

「ちょっ、ちょっと!」

 その強引な行動に、ネーロスタは戸惑いを隠せない。だが、コータはそれを聞き入れることはできない。
 ここで止まれば、すぐに魔法が編まれ攻撃されるのは必須。

「いいから。ここから逃げるんです」

 ハイエルフが強いということは、先程の魔法攻撃を見れば分かる。
 強いと分かる相手に数でも負けている。その状況で戦いを挑むのは、アホだ。アホのすることだ。
 コータは腕を引く力を弱めることなく、高等住民区と住民区を繋ぐ景観な場所。
 天に聳えるように生える樹、ソレイユが並び綺麗な小川が流れるそこを横に入る。
 ハイエルフが住まう樹海よりは樹々の量は少ない。だが、それでも樹々が並んでいるだけはあり、迷路のようになっている。

「どこに逃げようと無駄だぞ」

 少し後方より、そんな声が届く。

「今は逃げるんです。こちらが体勢を整えない限りは防戦一方になって、何もできません」

 コータの言葉にネーロスタは黙り込んだ。
 反撃をしようにも、すれば話が拗れる。
 ただ防御しているだけでは、いつかは破られてエルフがやられることになる。
 だから、逃げるが最善だということは理解していた。
 しかし、恐怖がネーロスタをその場に貼り付けていた。

「ありがと」

 だからこそ、引っ張ってでも逃がしてくれているコータに礼を告げた。蚊の鳴くような声で、コータに届いたかどうかも分からない。
 それでも、言葉にしておきたかった。
 ネーロスタの気持ち的に。

「何か言いましたか?」

「いえ、なんでもないです」

 ぎこちない笑みを浮かべたネーロスタが、そう言った時だった。
 高笑いのような声が周囲に轟いた。

 そして次の瞬間、耳を劈くようなパンッ! という轟音が鳴り響いた。
 強い空気の振動が鼓膜に達し、激しく鼓膜を揺らす。
 コータは握っていたネーロスタの腕を離し、思わず耳を塞いだ。

「なっ!?」

 音と同時に眼前に繰り広げられた光景に、コータは喘ぐような声を漏らした。

 樹々には大穴が穿たれ、ミシミシと軋みをあげており今にも折れそうである。

 ――魔法を使った様子もなかった。一体どうなっるんだよ。

 得体の知れない一撃に、恐怖が、焦りが、戸惑いが、全身を襲う。
 コータは何が行われたを確認するため、攻撃元を辿る。
 大穴が穿たれた樹を始点として、後方へと視線を流していく。

「ピストル……?」

 攻撃元を視認したコータは、そう洩らした。
 この世界にあるかどうかは分からない。だが、あのフォルムに似たものは見たことがあった。
 コータが元の世界に居た時にドラマや映画の中で使われていた拳銃。
 穿たれた樹に向かった銃口からは硝煙が上がったている。ハイエルフの手にあるものは、コータのよく知る拳銃、正しくそれだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...