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第2章 国立キャルメット学院の悲劇
違和感覚える身体
しおりを挟むどうしてこんなことになったのか。
私には皆目分からなかった。ただ、対抗戦をしていただけ。それなのに、どうして魔物が出てくるのか。
「この森、ドこまで……」
走れど走れど森を抜ける様子はない。一向に晴れることの無い景色に、苛立ちを覚えながらも、私は走った。
コータやリゼッタ様を助けるために、この状況を先生たちに伝えるために。
学院周囲の地形はだいたい、頭に入っていた。この森は、学院の裏にあるもので、ここを抜ければすぐに学院が見てることは分かっている。分かっていても、見えなければ不安になる。
――一体、私たちは森のどの辺にいたのよ。
そう思ってしまうほどに、遠い距離を走った。そして、ようやく、学院の校舎の一部が視界に入る。少しの安堵を覚えながら、私は足に力を入れ走る速度を上げる。
そんな時だった。
鉄臭い、触れたくない臭いが鼻腔に届いた。
そして、同時にあちらこちらから剣戟が聞こえる。
「うそっ……。どうイうこトなの?」
口をつく言葉。不安が過ぎる。
もしかして、魔族が復活したの?
『憎シミヲ、思ウガママニ解放セヨ』
脳が吹き飛びそうなほどの痛みを覚える。立っていることすらままならなくなり、私はその場に崩れる。しかし、脳内に響く声は弱まることない。それどころか、さらに強くなる。
『殺セ。弱キ者ガ今、力ヲ見セツケロ』
迸る感情が、体の中からグツグツと煮えたぎる力を沸きあげる。
「う、うるサい!」
怒りに任せ、私は近くの木に拳をぶつけた。確かに力は込めた。だが、私の力ではせいぜいコツン、と音がなる程度のはず。
しかし、拳が触れた瞬間、木はゴキっ、と大きな音を立てて折れる。
「ど、ドうしテ」
予想だにしない大きな力を前に、私は思わず声が洩らした。そして、気づいた。言葉が上手く発せていないことに――。
だが、そんなことを言ってる暇などない。私は鳴り響く言葉を無視して、足を進めた。そして、ようやく学院にたどり着く。
先生に今の状況を説明して、助けて貰わなきゃ。
その一心でここまできた私にとって、眼前に広がる景色は絶望でしかなかった。
血が飛び散り、生徒とオーガの死体が散らばっている。串刺しになって死んでいる者、顔面を潰され死んでいる者。
亡くなり方はそれぞれだが、しっかりと目に刻むことが出来ないものだった。
込み上げる吐き気をどうにか堪え、ゆっくりと歩みを進め、先生の姿を探す。
「いタ」
見つけたのは返り血を浴び、大きく息を乱しているクックス先生だ。
「先生!」
そんな先生に、私は大きな声で呼びかけるのだった。
* * * *
ガースとバニラの戦闘不能から立て続けに、やられたコータたち模擬戦争チーム。
意識を保ち、立っている者はもう残っていなかった。
先程倒したばかりのリゼッタとマレアを見下ろしながら、男オーガは重々しい声で放つ。
「人間トハ、ココマデ弱イノカ」
どこか残念そうにもとれる表情の男オーガに、女オーガが言う。
「蹂躙スル相手ガ弱イノハ良イコト」
「ソレハソウダガ」
男オーガは剣に付着した血を眺めてから、一振でそれを払う。
そんな時だった。女オーガが表情を険しくし、周囲に警戒を見せた。
「ドウシタ」
落ち着いた様子の男オーガは、女オーガの様子に怪訝げな表情を浮かべた。
「何カ来ル」
瞬間、そこにはオーガたちが倒したはずの男――コータの姿があった。
コータの目は焦点が合っていないようで、立っていることすら不思議に感じさせるほどだ。
右手には月の宝刀を持ち、どのタイミングで切りかかるのか見ているようにすら思わせる。
「不気味ダナ」
オーガが感じ取る気配と、見た目の違いに違和感を感じたのか、男オーガは柄を強く握り直す。
「神聖なる息吹 母なる大地に芽吹くもの 混沌の世に終わりを告げる 荒れ狂う風となれ 蒼凛の鎌鼬"シナツヒコ"」
どこに意識があるかなんて分からない。ただ、コータは頭に流れてくる言葉に従い、文言を紡ぐ。
瞬間、コータの視界に赤色の文字が浮かび上がった。
今まで文字が浮かんできたことはあった。
だが、赤色の文字なんて見たことがない。定まらない焦点で、どうにかその文字を読む。
『古代魔法の使い手を発動します』
その言葉はコータの冒険者カードに記載されていたものだった。強そうな印象を受け、コータ自身が不安に感じたそれが発動したのだ。
体を包み込んでいく、圧倒的な魔力。今まで感じたことのなかった、ヒリつくような威圧感がコータを襲う。そして、コータは気づく。それが、魔力なのだと。
そうこうしている間に、コータの周囲には蒼色を纏う暴風が吹き荒れる。だがそれは、コータには何も感じさせない。風の流れは目に見える、しかし肌には感じられないのだ。
――まだ早いのですが、今回だけですよ。
コータは頭の中でそんな声を聞いたような気がした。そしてそれと同時に、暴風がオーガを襲った。
強い暴風は周囲の木々を折り倒す。
周囲の木々は、折れても戻ると言われているが、復活の兆しすら見せていない。
男オーガはその暴風の威力に危険を感じたのか、体の前で剣を構えた。だが、剣で風が切れるわけがない。呆気なく、何もすることが出来ずに、男オーガは鮮血を撒き散らし、体を木っ端微塵にした。
「ソ、ソンナッ」
その様子を見ていた女オーガが、驚きの声を上げる。しかし、コータにその姿を捉えることは出来ない。ステレスを使い、姿を隠しているのだ。だが、女オーガ自体はこの場に存在している。幾ら姿を隠そうとも、風には関係がない。見えていても、見えていなくても、攻撃はあたる。
「ウゥ」
短いうめき声が洩れ、同時に鮮血が迸る。見えない相手に、確実にダメージが与えられている証拠だ。
あまりにも強い暴風はその勢いを殺さないままに、女オーガを襲い続ける。
「アァァァァァ」
攻撃に耐えかねた体からは大量の血が飛散し、金切り声のような断末魔を上げた。
そしてその瞬間、暴風は激しい爪痕だけ残し、姿を消した。
「んっ……」
意識を失っていたマレアの意識が戻った。何度か瞬きをしてから、マレアの意識は完全に覚醒する。
そして同時に、肩から激しい痛みが走った。
「うぅ……」
視認すると、肩の周りは真っ赤に染まっており、注意して見ると刺さった跡がある。
そして、オーガに刺されたことを思い出す。同時に、痛みが増したような気がする。
肩を抑え、覚束無い足取りでゆっくりと立ち上がる。
そこでようやく気がつく。周囲の異常事態に。
「ど、どうなってるの?」
折れても修復すると言われている木々は、根元から折れており、大地は抉ったような跡が残っている。
そして視界に映り気づく。マレアが気絶するまではそこにいなかったはずの人物、コータがいることに。
「まさか……、コータがやったって言うの?」
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