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一章 理不尽な別れと新たな出会い

かつて心から信頼し慕っていた人物達

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「おーい、あんた!! おーい!! ったく……」

 男らしい野太い声が聞こえ、俺は目を覚ました。

「……あれ、何だ? 俺何してたっけ……」
「おいおい、大丈夫なのかあんた。記憶喪失でもしたか?」

 野太い声のほうに寝起きで半開きの目をやると、頭に白いタオルを巻いて防具を着たおっさんが俺を心配そうに見つめている。

「いや、記憶喪失はないと思うけど……あ……そうだ」

 思い出した。
 俺は確かヤケクソでソロ仕事をして、仕事途中に少女と会って化け物に遭遇して、逃げようとしたら墜落したんだった。
 ってことは、はッ!?

「おっさん……あんた、さっきの少女か!? そんな姿してたのか……嘘だよな。嘘だと言ってくれ!!」

 嫌だ。あんな可愛くてエロティックな少女が実はこんな姿だったなんて。
 そんなの、俺はこれから二度と女性を信用できなくなる。

「……兄ちゃん、やっぱ寝ぼけてるなぁ。この髭が、ごつい腕が、少女に見えるか!? 見えるんなら撤退船から病院へ直行してやるよ」
「そんな訳ないよな」
「急に冷静になるなよ……ちょっと悲しいだろ」
「あの子は何処へ――」

 クイッ。
 俺の白シャツが軽く引っ張られた。

「あ……」
「無事、です。私が少女、シフォンです」

 引っ張られたほうに振り向くと、先程まで共に悪戦苦闘していた少女がいた。

「良かった……無事か。君の名前、シフォンって言うんだな。可愛い名前だ」
「あ、ありがとうございます。あの、名前聞いてませんでしたよね。聞いてもいいですか?」
「もちろん。俺の名前はエクリル・マドムウェルだ。よろしく、シフォン」

 お互いの名前を告げた後、俺はシフォンに手を差し出した。
 激戦を乗り切った労いの握手だ。
 シフォンの手に触れたいとか、そんなことは思っていない。

「はい。よろしくお願いします、エクリルさん!」

 シフォンは、差し出した手に喜んで答えてくれた。
 純粋で健気で、なんていい子なんだ。ベリーキュート。

「なああんたら。熱い握手を邪魔したいわけじゃないんだが、こっちも生活のことなんかがあってだな。最近嫁とのあいだにチビが産まれたんだ。そんなわけで大黒柱として仕事頑張ってるわけよ。だから硬貨を支払ってほしいんだが」
「「あ……」」
「硬貨はあるかい?」

 そうだった。
 俺達は仕事の途中で、撤退船を使おうって話をしてたな。
 ってことは、このおっさんは撤退船の人か。

「俺は気絶してて撤退船を呼んだ覚えなんてない……ってことは、シフォンが撤退船を呼んでくれたんだな。ありがとう、助かる」
「いえ、大丈夫です……。エクリルさんが気絶したのは私のせいだし、こんなことしかやれることがないから……」
「シフォンのせいなんて全く思ってないって。まぁとにかく硬貨を払おう。おっさんがチビを養っていけなくなるからな」
「ガハハハッ!! ボロボロのとこ悪いな。こっちも商売だからよ。チビを気遣ってくれてありがとうな」

 そう言って高らかに笑うおっさんに金を支払った後、俺達は帰還の為に撤退船に乗り込んだ。

 ※

「成る程。そういうことだったのか」

 撤退船の船内で、俺は自分が気絶した後のことをシフォンに聞いていた。

「つまり、俺が気絶した後、爆速スピードで暴走する自分を奇跡的に制御できて、なんとか着地。気絶する俺を寝かして撤退船を呼んだってことか」
「はい。本当に奇跡的に、ですけど」

 なんとまあ情けない話だろうか。
 空を飛ぶことに慣れていないこの子が歯を食いしばって頑張っていたのに、普段から空を飛んでいる俺が意識ぶっ飛んでたなんて。

「ごめんな。ホントは俺がリードすべきところを……」
「いえ、仕方ないことだと思います。私こそ、スピード調節もできないのに飛んでしまってごめんなさい」
「そこだ。俺が気になっているのはそこなんだよ」

 そう、俺が気になっていたシフォンの疑問点。

「レンザスに来て一週間って言ってたよな? レンザスに来たってことは、シフォンは冒険者か? まぁ俺が言えた立場じゃないんだけどさ、もっとこう、他の国で経験とか積まないのか?」
「はい、駆け出しですけど、私は冒険者です。ここに来る前、故郷ではそれも考えました。でも、夢を叶えるにはここが一番かなって思ったんです。ここが一番成長できそうだったので」
「夢? どんな夢か聞いてもいいか?」

 冒険者は常に危険が伴う。
 モンスターと戦ったり、危険な場所を冒険したり。
 こんな危険な仕事、夢がないと続けていくのは難しい。

「あの、恥ずかしいんですけど……『アスタロト』へ行ってみたいんです」
「アスタロト……まじか」

 『世界危険指定地域アスタロト』は、まだ実態があまり分かっていない未開の地で、並の冒険者や狩人がアスタロトに立ち入ることはない。
 というか、立ち入れない。
 上位パーティーや有名騎士団の団員でもない限り、すぐに命を落とすだろう。
 しかも、噂では危険な宗教団体が、自分達の理想郷を作るためにアスタロトの進行を暗に進めているとか。
 このように危険なアスタロトだが、冒険者にとっては憧れの地だ。
 まだ人の手が加わっていないからこそ、ロマンを感じる。
 俺も例に漏れず憧れたことはあったが、あまりにレベルが違いすぎるのでほぼほぼ諦めている。

「何でアスタロトへ? やっぱ未開の地だから、気になるのか?」
「あ、はい。それもあるんですけど……」

 シフォンは、何やら恥ずかしそうにゴニョニョしはじめた。
 ゴニョニョ可愛いなおい。

「や、別に言いたくないならいいんだ。それにしても、いい夢じゃないか!! シフォンは凄いな」
「あ……ありがとう、ございます!!!!」
「うおっ――!?」

 シフォンの大声が響き渡る。
 
「あ……すいません!! つい……」
「大丈夫大丈夫」

 声のボリュームをミスったみたいだ。
 よくあることだ。仕方ない。
 それほど夢に本気ということなんだろう。

「おーい、ボルリオに着いたぜ。準備しな」

 俺達が色々話していると、おっさんが到着を報告してくれた。
 俺達冒険者が使う撤退船は、目的地に到着すると、空中の撤退船から地上にロープ網が垂らされる。
 そしてそのロープ網で地上まで降りるというのが撤退船の仕組みだ。

「よし、シフォン。着いたみたいだ。降りるか」
「あ……はい」
「どうした?」

 ボルリオに着いた途端、シフォンは何故か浮かない表情になってしまった。
 理由を聞こうとしたが、何か闇が深そうだったので止めておくことにした。

 ※

 俺達が仕事の報告をしするために訪れたボルリオでは、常に冒険者、狩人なんかで賑わっている。
 今回も例に漏れず、ガヤガヤと人だかりができていた。

「よし、それじゃあ俺は報告しにいくか。何とか討伐できて本当によかった。いきなり負けてちゃ幸先悪いからな」

 三年目の奴が、針龍ニードルドラゴンに負けましたなんて報告したら、流石に担当の人に笑われてしまう。

「あ……シフォンは報告無いし、ここまでだよな。短い間だったけど、改めて、本当に世話になった!! 色々あったけど、なんかそれ含めて楽しかったよ。ありがとな」
 
 そう、短い時間だったけど、何だかシフォンと共に冒険するのは楽しかった。
 冒険が楽しいなんて気持ち、生きるのに必死で忘れかけていたかもしれない。

「あの……えっと……私も、なんです」
「え? 私も?」

 シフォンも、俺との旅が楽しかったと、そう言ってくれるのだろうか。
 これは、恋が始まりそうな予感が――

「私も、実はさっき討伐依頼の任務を受けていたんですけど……負けてしまって」
「――あえ? シフォンも任務途中だったの?」

 もしかして、負けたから言い出し辛かったのか。

「はい。そうなんです。私――」
「おいお前ら、見ろよ!! 夢だけはいっちょ前のザコ冒険者がいたぜぇ!! また失敗したのかぁ~?」

 突然、ボルリオの建物内に大声が響き渡った。
 誰かが何かを叫んでいる。傍迷惑な奴だ。
 急な出来事に俺も多少驚いたが、もっと驚いていたのはシフォンだった。
 ビクッと肩を震わせ、顔がみるみる青ざめていく。
 冷や汗もかいているようだった。

「シフォン……? どうした?」

 何故そこまで怖がっているのか。
 俺はそれを確かめるべく、大声を出した奴の方へ振り返った。
 そこには――




「……は?」



 
 そこには、かつて俺が苦楽を共にしたパーティーメンバー。かつて俺が心から信頼し、慕っていた人物達。
 キルフェン達がいた。
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