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異世界転移したら……雪だるま!?

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 個体名:桑原銀河くわはらぎんが
 種族:特殊型アイススノーマン

 ――異世界召喚を開始します――

 ・
 ・
 ・
 ・



 ※※※※※※


 ――ヒュオオオオオオオオオォォォ……


「うーん……うーん……」

「おい、お前さん……おーい」

 あれ、何か聞こえるな……
 確か、学校帰りに急に意識が無くなって、それから――

「うーん……う……っ!?」

 眼前に気配を感じ、俺は目を覚ました。
 ここは――

「雪……?」

 目を覚ました俺の眼前に映し出されていたのは、吹き荒れる吹雪、一点の濁りも存在しない純白の雪原、それらに情緒を与えるように雄々しく聳え立つ、雪を被った樹木の数々。
 その理解しがたい状況に、俺は瞠目せざるを得ない。

「目を覚ましたか……お主、まだ若いアイススノーマンじゃろ」

「ん……?」

 俺が意味不明な状況に怖気立っていると、目の前から掠れた男の声がした。
 もしかして、俺は遭難でもしたのか……?
 だとしたら一刻も早く――

「――ぎゃああああああああああああっ!?」

「――ぎゃああああああああああああっ!?」

「いや、何でお前まで驚いてんだよっ!! 俺だけでいいだろ!!!」

 え、何だこれ?
 目の前に存在する奇妙な生き物に、俺はただ凝然と目を見開くしかなかった。

 白い玉が垂れ下がっている赤白のナイトキャップ。
 白目は存在せず、黒瞳こくとうだけの目。
 暖かそうな深緑のマフラー。
 人参か何か、尖ったもので作られた尖がり鼻。
 腹部には黒の点が縦に二つ、ちょんちょんと取り付けられている。


 雪だ。雪だるまだ。
 雪だるまが喋っとる。
 掠れた男の声で、雪だるまが喋っとる。

「意味わかんねぇ……何だ、あんた生きてんのか? しかも雪だるまに髭生えてるし」

「失礼なっ!! 生きとるわい!! そんな老いたように見えるか、悪かったな!!」

 枝で作られた手をシャカシャカさせながら憤慨する怪奇に、俺は理解が追い付かなかった。

「まて、待て待て待て……まず、俺は大学から帰宅途中だったハズだ……そんで、バスに乗る手前で意識が無くなって……それで、気づいたら雪原へ……」

 自分に起きた出来事の記憶を反芻しても、何が何やら。
 むしろ反芻したことで余計に分からなくなった。

「それにしてもまぁ……」

 再び辺りを見渡す。
 ――なんとも風光明媚な景色だ。
 この世の純白を結集したかのような雪原。
 一切の汚れが無かった。

「いつみても綺麗じゃよな」

「ああ、心が汚れきった俺の心に沁みるぜ……全ての憂いことを優しく包んでくれるような、慈愛に満ちた景色だ……」

「おお、お前さんは雪の優しさが分かるか…そうじゃよ、雪は素晴らしいんじゃ。どれ、雪合戦でもするか」

「ハハ、そりゃいい。雪合戦なんて久方振りだ……って、雪だるまテメェ!?」

 ――危ない危ない。
 雪原に心惹かれて、眼前の怪奇に自然に溶け込んでしまうところだった。

「何じゃ!? いきなり怒鳴ったりしおって、お前さん情緒不安定かっ!?」

「雪だるまが喋るとか新感覚ホラーすぎるだろっ!!! 何当たり前みたいに一緒にしみじみしてんだよ!! ここが異世界じゃあるまいし……あれ」

 俺は、先程から頭の片隅にある可能性を、完全に一蹴してしまえないということに気づいた。
 ここが異世界じゃないと言い切れるのか?
 そもそもなぜ俺は雪原に?
 あり得ないだろ。あり得ないことが今俺の身に降り掛かっている。

「ん……? もしかして、ここって異世界だったりする……? なぁ雪だるまのじいさん。俺、ここで何してたか分かるか?」

「それは知らんが、ワシが雪原の警備をしとったら、アイススノーマンのお前さんが眠っておったから声を掛けたんじゃ。ここらはエルゲイル辺境伯の根城から近いから、こんな所で午睡しとったら危ないと思っての」

「エルゲイル辺境伯……」

 耳馴染みのない名前と、辺境伯というファンタジー感満載の言葉に、俺は自分の身に起きたことを悟った。

「ふむ、どうやら俺は異世界転移したみたいだな。信じられないけど、現に今信じられないことが起きてるし……このパターンはいわゆるって奴だろ。……って、雪だるまテメェ!?」

「またか!? 今度は何じゃ!?」

「今、のお前さんって言ったか!? どういうことだよ!?」

「どうも何も、お主はアイススノーマン族じゃろうが」

「違うわ!! 俺は桑原銀河くわはらぎんがだ!!」

「違わんじゃろ!! ギンガ、お主はどう考えても三百六十度、アイススノーマン族じゃ!!」

 この馬鹿雪だるま、何言ってやがる?
 アイススノーマンってのはつまり雪だるまのことだろ?
 俺は桑原銀河くわはらぎんが
 二十歳の引きこもり族の人間だ。

「俺は人間だぞ……あ」

 ふと、俺はあることに気づいた。
 いや、気づいてしまった。
 何故、雪だるまのじいさんと目の高さが合ってるんだ。
 百七十七センチの雪だるまとかあり得ないだろ。怖いわ。
 しかも、周りの樹木がバカデカい。

「は……嘘、だ」

 俺は情けない声音でそう呟くしかなかった。
 こんな雪だらけの中にいて、寒くないのは何故だ。
 事実を否定しようとすればするほど、否定を上回る肯定が次々見つかる。

「身に覚えが無いなら、ウチの村に来なさい。姿見で自分の姿を見ればわかるだろう。実は、ワシは村の村長なんだ。案内してやろう」

「村長だるまだったのか。ああ……すまねぇ。ここはそうさせてくれ」

 そもそもここが異世界なら、俺に身寄りなど無い。
 ここは村長だるまの力を貸してもらう他無いようだ。

 こうして、奇怪な村長だるまに連れられ、俺は案内された村へ向かうことにした。
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