兄貴による俺のための指導法

日向 ずい

文字の大きさ
上 下
21 / 39
第2章 「愛のカタチは、複雑である。」

「母親が毒親に...。(愛音視点)」

しおりを挟む
 「母さん....今少しいいかな。話したいことがあるんだ。」

 「....???何かしら???愛音からお母さんに声を掛けることなんて珍しいわね。」

 「うん、少し話したいことがあって.....とても大切な事なんだ。」

 「はぁ....分かったわ。」

 俺は成績、素行、容姿などなど、自分で言うことではないが、人よりも幾分も優れていた。

 そんな俺には、何をさせても平凡な弟がいて....母親は、弟より優れている俺のことを、分かりやすく特別扱いしていた。

 「愛音は、ほんとに出来がいいわね。拓三は何をやらせても、平凡なみにしか出来なくて....ほんと、誰に似たのかしら????(笑)」

 トゲのある言葉が、いつしか母親の口癖になっていた。

 ちょうどこの頃からだ....俺が母親の考え方に疑問を覚えたのは....。

 平凡ってなんだ....出来が良いってなんだ.....出来が良かったら....誰かよりも優れているからと言って、それが一体何になるって言うんだ????

 出来ること出来ないことは、個性なんじゃないのか???

 個性に優劣をつけることは、果たして本当に正しいことなんだろうか????

 それに何を良いと感じるのかは人それぞれだ....母さんは拓三のことを酷くけなしているが、俺は拓三が羨ましいし、素敵な人間だと思っている。

 母さんは俺がすごいって言っているけど....俺は、男が好きなんだよ....母さんは俺の本性を知っても、変わらずに凄い人だって言ってくれるの????

 物心ついた時からこう考えていた俺は、今日母親に自身の悩みについて打ち明けようと考えていた。

 俺に期待してくれている母親なら、きっと俺のすべてを受け入れてくれると思ったから。

 こう思った俺は、リビングにいた母親に勇気を振り絞って声を掛け、話をすることにしたのだった。

 「母さん、話って言うのは.....俺の性別についてなんだ。俺はね、今までずっと母さんや父さんのことを考えて自身の中に押し殺していたんだけど....俺は、その.....男の人に惹かれるんだ。つまり...恋愛対象が男性なんだ.....母さんは、分かってくれるよね。」

 言いにくそうにこう話をした俺に向かって、母親は優しい笑顔とは裏腹にとても冷たい声色で、目の前に座る俺にこう告げたのだった。

 「.....話はそれだけ????....男の人に惹かれるなんて、あなたはまたとんでもない冗談を口にするのね。いくら全てが優れているからといって、そんな気持ちの悪い冗談を言って良いはずがないわ。愛音、貴方はこれからもっともっと自分を磨かなければならないのよ????拓三はもうダメなの...なんの取り柄もないあんな子、羽馬家の恥だわ!!!それくらい、あなたにも分かるでしょ???そのことを理解しているのかしら????....分かったら、もう二度とそんな下品で評価を下げるような発言をしないで頂戴。」

 「....っ.....すっ....すみませんでした。」

 想定外だった....俺の中で何かが崩れ落ちた気がした。

 俺は勇気を出して母親に打ち明けたのに、あろうことか俺のその勇気を冗談だと...下品であると言ったのだ。

 母親になら、受け入れて貰えると思っていたのに....俺が自分の性に対して、どれだけ悩み続けていたと思っているんだ。

 ....そういうことか....俺が欲を張り過ぎたんだ。

 拓三よりも親に愛されていたにも関わらず、俺の悩みについてまで理解して貰おうと欲を張ってしまったから、今あるものを壊すことになってしまったんだな....。

 そっか....人間とは、欲を張ることにより全てのものを失ってしまう生き物なんだな。

 ....俺は静かになったリビングで、独りソファに腰を下ろしながら、あふれ出す涙を何度も拭いつつ...幼いながらも我慢という言葉を実体験で覚えたのだった。

 俺はこの日以降....自我を抑え、極力人に関わらず、必要以上のことを望まないように、日常生活を送るようになっていった。

 本当は.....全てを受け入れてくれる人に、甘やかされたいんだ....誰でもいい、ただ俺に溢れんばかりの愛情を注いでくれる人であれば、それだけで十分だ。

 誰か俺に、安らげる時間を与えてくれないだろうか...。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...