兄貴による俺のための指導法

日向 ずい

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第2章 「愛のカタチは、複雑である。」

「なんで...拓三が。(愛音視点)」

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 あれからどれぐらいの月日が流れたのだろうか...。

 いつしか俺は、賢治と同棲するようになっていた。

 拓三もそうだが、俺の母親は心配していないのかと疑問に思う人も多いと思うが...生憎母親は、今時時代遅れな世間体を気にする毒親なんだ。

 ここまで育てて貰って、親不孝者だって思う人もいるだろうが...俺が母親のことをよく思えなくなったのは、俺がまだ10代の頃だった....。

 あの頃は、母親とも良好な関係を築けていたのだが、俺が母親に自身の性癖について打ち明けた日を境に、その関係は跡形もなく崩れ去ったのだ。

 俺は勇気を出して母親に打ち明けたんだ...母親は俺のことを分かってくれるとこう思って...。

 でも俺の望みとは裏腹に、母親はその日から俺のことを毛嫌いするようになったんだ。

 俺はそれ以降...余計なことを言わない...しないようにと心に決めて、生活を送るようになった。

 欲を張れば、今あるものを壊しかねないから....この教訓はこの出来事が教えてくれたことだった。

 だから母親は、普通ではない俺がいなくなって、今頃清々していることだろう。

 ふと昔のことを考えていた俺を背後から抱きしめてきたのは、心配そうな表情を浮かべる上半身裸の賢治だった。

 「どうした???また、不安そうな顔してる。...そんな表情しないでよ、愛音。俺...心配になるじゃんか。」

 こう俺の耳元で囁いた賢治は、俺の首にかかった服の襟を少し開(はだ)けさせると、その箇所に優しく唇を這わせてきた。

 最近の賢治は特に優しくなった気がする....っ、やっぱり賢治の与える愛は拓三のくれる愛よりも幾分か大人なものだな...。

 俺がビクッと反応を示すと、賢治はクスッと笑いを零し

 「愛音...可愛すぎ。俺...今ので勃っちゃった...。ねぇ、この責任...取って貰ってもいい???」

 と甘い声で囁くと、俺の返事を待たずに俺に服のボタンに手を掛け、俺の唇に深い口づけを与えてきた。

 俺....攻められるのも悪くないかも...。

 俺は最近こんなことを考えるようになっていた。

 行為が終わり、今日は双方特に用事が無かったため、俺と賢治は買い物に行くことになった。

 いつものように街中を歩いていると....俺の目の前に現れたのは...拓三????

 俺は目の前の人物が拓三だということに気が付いてしまい、途端に視線を賢治の方に向けたのだった。

 どうか...気が付かないでくれ。

 せっかく、拓三を忘れてきているんだ...今声を掛けられれば、確実に離れることが出来なくなる...。

 こう考えた俺の意思とは裏腹に、拓三は俺のことを目に留めると

 「あっ、兄貴......??...えっ、隣の男...。」

 と聞こえるか聞こえないかの微妙な声量で、俺のことを信じられないという表情で見つめてきたのだ。

 ヤバいと思い、咄嗟に賢治を見つめると賢治は俺の顔を見るなり、隣を歩く俺の肩をグッと抱き寄せ俺の耳元で

 「何か嫌なもの見つけたの???あー、ストーカーとか???愛音...そんなに震えなくて大丈夫だよ、心配しなくても俺がお前を守るから。」

 と囁くと、俺に薄く微笑みかけてくれた。

 俺は優しい表情を浮かべる賢治にそっと頷くと、そのままその場を立ち去ろうとしたのだが...俺の背後から、酷く焦っているのか震えた声が俺のことを呼び止めてきたのだった。

 「...愛音!!!その横の男...誰だよ!!!!」

 この声に俺は恐る恐る背後にいる拓三に視線を向けると、拓三は俺の隣に佇む賢治のことを鋭く睨みつけていた。

 俺は恐ろしい形相で俺たちを見つめる拓三の様子に耐えきれなくなり、わざと拓三から視線を外すと

 「......えっと...どちら様でしょうか...??...愛音とは...??人違いでは??」

 と呟き動揺している賢治に「ごめんね。」と小さく告げると、そのまま歩きだそうとした。

 これで良かったんだ....きっと、拓三も分かってくれる。

 こう安心したのもつかの間、拓三は俺に近づくと俺の肩に手を置き、勢いよく俺のことを振り向かせたのだった。

 俺の明らかに困り果てている表情に、今度は賢治が拓三を睨みつけると

 「...あの...俺の恋人に何か用ですか...??というより、こいつの名前は愛音じゃないし...気安く人の女に触れてんじゃねぇよ!!!警察呼ぶぞ??」

 と大声をあげ、俺にかかった拓三の手を乱暴にはたき落とすと、拓三の胸ぐらをグッと掴み激しく威嚇していた。

 拓三はそんな賢治のことを生意気な態度で見据えると

 「はぁ???...お前に関係ないだろ??と言うよりも、俺が...俺の大事なヤツを見間違うわけないだろうが!!...てめぇの方が、ふざけてんじゃないのか??」

 と言い、賢治に喧嘩を売ったのだった。

 そんな拓三の様子に賢治は事情を知らないため、拓三の胸ぐらを掴んでいない方の手で拳を作り、次の瞬間拓三の左頬めがけてパンチを繰り出していた。

 「っ.....!!!!!」

 どうしよう...どうすれば...。

 俺はこう焦るだけで、自分がとるべき行動が思い当たらず、焦った表情で揉み合う二人のことを見つめていたのだった。

 俺が慌てている間にも、賢治は拓三を殴りつけながら大きな声でこう怒鳴り始めた。

 「オラっ!!!...お前なぁ、子供だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!!!大人をからかうなんざ、命知らずな奴だなぁ???あぁ???...このまま、お前の意識吹っ飛ばしてやろうか???」

 「っ。......っ!!!...うっ...あっ.........!!」

 「......。」

 流石に見ていられなかった...拓三が殴られる様子に体が無意識に震えていることに気が付いたことで、この状況に恐怖を感じている自分がいることが容易に理解出来た。

 俺は耐えきれず目に涙を浮かべてボロボロの拓三のことを見つめると、荒い呼吸を繰り返している拓三が俺に視線を向け、ゆっくりとこう言葉を紡ぎ始めたのだった。

 「...愛音...ご...めんな...。お...れが...あのとき...ひどい...こ......としなけ...れ...ば、こんな...こと...に...は......なっていなかった...はず...だ...。...あの...時は、言えなかった...けど...愛音のこと...大好き...だった...。」

 拓三のこの言葉に俺は、震える手をぐっと握りしめると、険しい表情をしている賢治に

 「...ごめん...もう、いいよ。...ほら、あまりやりすぎると、警察に捕まっちゃうかもしれないだろ...。」
 
 というと、賢治は息を切らしながら拓三を殴る手を止め、俺の方を振り向き

 「...はぁ...分かったよ。...ほら、じゃあもう行こう??」

 と呆れ口調で言い、拓三から手を離すと俺の方に近づき、そのまま歩きだそうとした。

 俺は拓三の...そして自分の為だと思い、賢治に「少し待ってて...。」と呟くと、地面に倒れる拓三に近づき一言、「もう...俺に関わらないでくれ。」とこう囁きかけ、再び賢治に元に戻ろうとした。

 もう拓三には、俺のことに干渉して欲しくない...これ以上俺で傷付いて欲しくないと思い、俺はこう言ったのだが...拓三は何を思ったのか、俺の腕を掴みふらつきながら立ち上がると

 「...ほらよ...。金やるから...こいつ...俺に譲ってくれないか...???」

 と言い、動揺する俺の手を引き賢治の方へと歩いていくと、彼のポケットに数万円を入れ込み、唖然とする彼を放ったらかしたまま、俺を連れてその場を立ち去ったのだった。

 拓三は...一体何を考えて...というよりも、怒っている???

 俺の目の前を歩く拓三は、どこか険しい表情をしていてまともに話しかけられる雰囲気ではなかった。

 そうして拓三が俺を引き連れて入ったのは...賢治と別れた場所からさほど遠くないラブホテルだった。

 ラブホテル....拓三...拓三は今何を考えているんだ????

 俺の意思など関係なく、拓三は受付を早急に済ませると、俺のことを部屋に入れ込み乱暴に部屋の風呂場の床に投げ飛ばしたのだった。

 突然のことに言葉が追いつかず、俺は唖然とした表情で拓三を見つめていたのだが....。

 拓三はそんな俺のことを白い目で見つめ、壁にかけてあるシャワーに手を掛けた。

 まさかと思い咄嗟に、「やめて!!!」と叫んだ俺に対して、拓三は勢いよくシャワーを浴びせてきたのだった。

 冷たっ...どうしよう...息が....息が出来ないっ....拓三が怖い!!!!

 拓三のこんな姿を今まで見たことがなく....これからどうなるのか、全く予測が出来なくて...俺は、ガタガタと小刻みに震えながら、冷めた目で俺のことを見下ろす拓三のことを、酷く怯えた表情で見つめたのだった。
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