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第4章 「目覚めた頃には...世界が180度変わってる。」
「僕...いや、私は変わったんだ。」
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「愛さん??...あっ、すみません!!羽馬さん!!あの、この資料に目を通したのですが...。」
「ん???...あー、ありがとう!!やっぱり少し分かりにくいわよね....。そんな申し訳なさそうな表情しないでよ。分かりにくい資料を作成してしまった私が悪いのよ。だから大丈夫よ。(笑)気にしないで!!」
「ほんとにすみません。ご期待に添えず...えっと、それでは失礼します。」
僕...???うーん、俺????...いや、私は変わったんだ。
今の私は、IT企業の中の上辺りの社員。
まだ若いけど、仕事が出来る将来有望な期待の社員だ!!!...って、自分で言うのかって話だけど...でも、それくらい期待されているのよ???
まぁ、そうね。
昔と大きく変わったことといえば、そんなに無いけど...それでも大きく変わったのは...。
なんと言っても、性別よね。
私は、拓三から受けていた歪んだ愛情に我慢が出来ず...あの日以降、拓三の前から完全に姿を消したのよ。
なにも....怖くて恐ろしかったっていうのだけが理由じゃないわ???
拓三の......気持ちを知るのが怖かったの...。
拓三は、私のことが好きだと言ってくれていたけど、本当の気持ちは...分からない。
分からないけど、理解は出来ていた。
...本当はきっと、私のこと都合のいい性処理の道具としか思ってなかったと思うの...。
それにきっと、拓三があんなふうになってしまったのは...私のせいだから。
私があの日...あの日、拓三にちょっかいをかけていなければ....好奇心旺盛な年頃の男子高校生を誘ってしまわなければ....私の異常な性別を知って貰おうとしていなければ....欲を張らなければ......数えだしたらキリがないけど...きっと、こんなことにはなっていなかったのよ。
そう....全ては私のせい。
拓三の人生を壊してしまったのも....この私。
だから、私は...拓三の前から姿を消したの。
消したからって...拓三にしてしまったことが、許されるなんて....なかったことになるなんて思ってない。
でも、だからって...あのまま拓三とともに生活していたら、私か拓三のどちらか一方が相手を殺害することになっていただろう.....拓三は異常な判断力で....私は、恐怖心と過剰なストレスにより....。
だから、これで良かったのよ。
私は拓三の監禁から逃れ、最初は夜のお店などで働いてお金を稼いでいたけど、ある程度一人暮らしを始めるには、十分なお金が貯まった頃に、拓三が絶対に入社しないであろうIT企業へと就職することにしたの...今までやっていた仕事は、とっくに解雇されていたことと、拓三にみつかる可能性が高かったため、そこでの再就職は諦めたわ...まぁ、今さら夜勤するほどお金に困ってないしね...。
ここまでやったんだもの!!
もうこれで拓三に逢うことはないと、そう思っていたのに......。
今日もいつものように、数少なくなってきた上司に告げられた仕事を、難なくこなし、定時帰りをしようと思っていた矢先...。
そんな私の目の前には......
「たくみっ......。いえ、失礼いたしました。...あの、部長...失礼ですがこちらの方は???」
私が目の前の人物を目にとめた瞬間、血相を変えたのは言うまでもない。
何故なら、私の目の前にいたのは髪の毛をきっちり整え、スーツをビシッと着こなした、私の知らない男の人...だが、どう見ても拓三と思われる人物が立っていたのだから。
最初は、人違いかもしれないと思ったわよ???
でもね、拓三の昔からの癖......緊張してる時に、上唇を軽く噛む仕草......これを見せられたら、誰だって確信するに決まってる。
でも、幸いにも拓三は私の正体には気づいていないみたい。
って、当たり前か...。
だって、私は服装だって髪型だって...全部、何もかも女の愛音に生まれ変わったのだから。
私は、自身の考えをそっと胸の中にしまい込むと、改めて隣に控える部長に目の前の人物について紹介を求めた。
すると部長は、ポーカーフェイスな私にニコッと微笑みかけ、目の前の人物の肩をパシッと掴むと
「あぁ、彼は新しくこの部署で働くことになった羽馬 拓三くんだ。...君には、この子の教育指導をお願いしたい。」
と何食わぬ顔で告げ、私を見つめてきたのだ。
そんな部長の様子に、私は有り得ないほど目を丸くして
「ちょっ...ちょっと待ってください...!!!(汗)...なんで私なんですか???他に優秀でいい人いっぱいいますよね???」
と珍しく大声をあげ、部長を問い詰めると、部長は何故か罰が悪そうな顔をして、コソッと私にこう耳打ちしてきたの。
「いやぁ...それがね??...彼が直々にキミがいいって...キミに教育係をお願いしたいと言っててね...。でも彼、凄く頭も容量もいいから、我社としては、彼の機嫌を損ねたくはないんだよ...。だから、頼むよ。」
私は内心呆れながら、だが...部長の頼みということもあり断りきれず...結局、コクリと部長に頷き、渋々了承したのだった。
そんな私の心情など微塵も知らず、目の前で不思議そうに首を傾げている拓三に対して、私は渾身の笑顔でニコッと微笑むと
「...えっと、とりあえずこれからよろしくね...羽馬くん。...それじゃあ、私は定時なのでお先に失礼しますね。また、明日からよろしくお願いします。」
と半ば早口でこう告げると、当たり障りなく部屋から出ていこうとした。
だが、関わって欲しくないオーラを醸し出していたはずの私に、何を考えたのか拓三は
「...こちらこそよろしくお願いします。えっと、すみません。お名前は、なんとお呼びしたら宜しいでしょうか??」
とこう訊ねてきたのよ???
その瞬間、私はドキリとしてしまったわ。
もし、ここで私の名前を全て名乗ってしまえば、勘のいい拓三なら勘づいてしまうかもしれない。
私が、羽馬 愛音だと言うことに...。
それだけは、なんとしても避けたかった。
せっかく拓三から離れて、晴れて平凡な生活を手に入れたのに。
今...拓三に捕まれば、きっとまたあの地獄のような暮らしに逆戻り。
そんなの...耐えられない。
何のために私が拓三の前から姿を消したと思っているのよ....ここで拓三に正体がバレてしまえば、今まで私のやってきたことが全て水の泡になるじゃないのよ!!!!
こう思った私は、拓三の方は振り返らずに一言
「...愛。...皆から、こう呼ばれてるの。だから、私のことは愛と呼んで。今は、それ以上詮索しないでもらえる???それに、そんなことよりも先に山ほどある仕事を覚えなさい。それじゃ....私は予定があるから失礼するわね。」
とこう冷たい声色で告げると、足早にその場を立ち去った。
そんな愛想も感じも悪い私が、その場を去った後...独りそこに取り残された拓三は
「あっ、あの!!!...って、行っちゃった。...俺...今日の仕事どうすればいいの???やり方教えてもらってないし...。」
と呟き、途方に暮れていたのだった。
その頃...外に出た私は、やっと慣れてきたパンプスで歩みを進めながら、突然現れた拓三のことを考えていた。
「はぁ...これから、ほんとに素性をバラさずにやっていけるのか...心配だわ...。」
こんなことを会社帰りに考えているなんて....今日は私にとって最悪の日となったことは、きっと間違いないだろう。
「ん???...あー、ありがとう!!やっぱり少し分かりにくいわよね....。そんな申し訳なさそうな表情しないでよ。分かりにくい資料を作成してしまった私が悪いのよ。だから大丈夫よ。(笑)気にしないで!!」
「ほんとにすみません。ご期待に添えず...えっと、それでは失礼します。」
僕...???うーん、俺????...いや、私は変わったんだ。
今の私は、IT企業の中の上辺りの社員。
まだ若いけど、仕事が出来る将来有望な期待の社員だ!!!...って、自分で言うのかって話だけど...でも、それくらい期待されているのよ???
まぁ、そうね。
昔と大きく変わったことといえば、そんなに無いけど...それでも大きく変わったのは...。
なんと言っても、性別よね。
私は、拓三から受けていた歪んだ愛情に我慢が出来ず...あの日以降、拓三の前から完全に姿を消したのよ。
なにも....怖くて恐ろしかったっていうのだけが理由じゃないわ???
拓三の......気持ちを知るのが怖かったの...。
拓三は、私のことが好きだと言ってくれていたけど、本当の気持ちは...分からない。
分からないけど、理解は出来ていた。
...本当はきっと、私のこと都合のいい性処理の道具としか思ってなかったと思うの...。
それにきっと、拓三があんなふうになってしまったのは...私のせいだから。
私があの日...あの日、拓三にちょっかいをかけていなければ....好奇心旺盛な年頃の男子高校生を誘ってしまわなければ....私の異常な性別を知って貰おうとしていなければ....欲を張らなければ......数えだしたらキリがないけど...きっと、こんなことにはなっていなかったのよ。
そう....全ては私のせい。
拓三の人生を壊してしまったのも....この私。
だから、私は...拓三の前から姿を消したの。
消したからって...拓三にしてしまったことが、許されるなんて....なかったことになるなんて思ってない。
でも、だからって...あのまま拓三とともに生活していたら、私か拓三のどちらか一方が相手を殺害することになっていただろう.....拓三は異常な判断力で....私は、恐怖心と過剰なストレスにより....。
だから、これで良かったのよ。
私は拓三の監禁から逃れ、最初は夜のお店などで働いてお金を稼いでいたけど、ある程度一人暮らしを始めるには、十分なお金が貯まった頃に、拓三が絶対に入社しないであろうIT企業へと就職することにしたの...今までやっていた仕事は、とっくに解雇されていたことと、拓三にみつかる可能性が高かったため、そこでの再就職は諦めたわ...まぁ、今さら夜勤するほどお金に困ってないしね...。
ここまでやったんだもの!!
もうこれで拓三に逢うことはないと、そう思っていたのに......。
今日もいつものように、数少なくなってきた上司に告げられた仕事を、難なくこなし、定時帰りをしようと思っていた矢先...。
そんな私の目の前には......
「たくみっ......。いえ、失礼いたしました。...あの、部長...失礼ですがこちらの方は???」
私が目の前の人物を目にとめた瞬間、血相を変えたのは言うまでもない。
何故なら、私の目の前にいたのは髪の毛をきっちり整え、スーツをビシッと着こなした、私の知らない男の人...だが、どう見ても拓三と思われる人物が立っていたのだから。
最初は、人違いかもしれないと思ったわよ???
でもね、拓三の昔からの癖......緊張してる時に、上唇を軽く噛む仕草......これを見せられたら、誰だって確信するに決まってる。
でも、幸いにも拓三は私の正体には気づいていないみたい。
って、当たり前か...。
だって、私は服装だって髪型だって...全部、何もかも女の愛音に生まれ変わったのだから。
私は、自身の考えをそっと胸の中にしまい込むと、改めて隣に控える部長に目の前の人物について紹介を求めた。
すると部長は、ポーカーフェイスな私にニコッと微笑みかけ、目の前の人物の肩をパシッと掴むと
「あぁ、彼は新しくこの部署で働くことになった羽馬 拓三くんだ。...君には、この子の教育指導をお願いしたい。」
と何食わぬ顔で告げ、私を見つめてきたのだ。
そんな部長の様子に、私は有り得ないほど目を丸くして
「ちょっ...ちょっと待ってください...!!!(汗)...なんで私なんですか???他に優秀でいい人いっぱいいますよね???」
と珍しく大声をあげ、部長を問い詰めると、部長は何故か罰が悪そうな顔をして、コソッと私にこう耳打ちしてきたの。
「いやぁ...それがね??...彼が直々にキミがいいって...キミに教育係をお願いしたいと言っててね...。でも彼、凄く頭も容量もいいから、我社としては、彼の機嫌を損ねたくはないんだよ...。だから、頼むよ。」
私は内心呆れながら、だが...部長の頼みということもあり断りきれず...結局、コクリと部長に頷き、渋々了承したのだった。
そんな私の心情など微塵も知らず、目の前で不思議そうに首を傾げている拓三に対して、私は渾身の笑顔でニコッと微笑むと
「...えっと、とりあえずこれからよろしくね...羽馬くん。...それじゃあ、私は定時なのでお先に失礼しますね。また、明日からよろしくお願いします。」
と半ば早口でこう告げると、当たり障りなく部屋から出ていこうとした。
だが、関わって欲しくないオーラを醸し出していたはずの私に、何を考えたのか拓三は
「...こちらこそよろしくお願いします。えっと、すみません。お名前は、なんとお呼びしたら宜しいでしょうか??」
とこう訊ねてきたのよ???
その瞬間、私はドキリとしてしまったわ。
もし、ここで私の名前を全て名乗ってしまえば、勘のいい拓三なら勘づいてしまうかもしれない。
私が、羽馬 愛音だと言うことに...。
それだけは、なんとしても避けたかった。
せっかく拓三から離れて、晴れて平凡な生活を手に入れたのに。
今...拓三に捕まれば、きっとまたあの地獄のような暮らしに逆戻り。
そんなの...耐えられない。
何のために私が拓三の前から姿を消したと思っているのよ....ここで拓三に正体がバレてしまえば、今まで私のやってきたことが全て水の泡になるじゃないのよ!!!!
こう思った私は、拓三の方は振り返らずに一言
「...愛。...皆から、こう呼ばれてるの。だから、私のことは愛と呼んで。今は、それ以上詮索しないでもらえる???それに、そんなことよりも先に山ほどある仕事を覚えなさい。それじゃ....私は予定があるから失礼するわね。」
とこう冷たい声色で告げると、足早にその場を立ち去った。
そんな愛想も感じも悪い私が、その場を去った後...独りそこに取り残された拓三は
「あっ、あの!!!...って、行っちゃった。...俺...今日の仕事どうすればいいの???やり方教えてもらってないし...。」
と呟き、途方に暮れていたのだった。
その頃...外に出た私は、やっと慣れてきたパンプスで歩みを進めながら、突然現れた拓三のことを考えていた。
「はぁ...これから、ほんとに素性をバラさずにやっていけるのか...心配だわ...。」
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